住宅の買い時 ローンを活用なら「今でしょ」 利子をもらいながらマイホーム=長嶋修
住宅市場は、昨年春の緊急事態宣言で取引数は半減したが、価格は下がらなかった。つまり、多くの売り手・買い手が大きな動きを起こさず「様子見」をしたということだ。1990年代初めのバブル崩壊や2008年のリーマン・ショックと異なるのはこの点で、新築住宅事業者はもちろん、中古住宅の売り主である個人からも目立った投げ売りは起こらず、価格暴落もなかった。
その理由は、新型コロナウイルスの感染者数・死者数ともに他国に比べて限定的であり、ロックダウン(都市封鎖)といった厳しい制限もなかったからだ。その後、発令された緊急事態宣言でもリモートによる物件の紹介・説明をはじめとする対応が進んだこともあり、取引が激減することもないとみられ、取引が減った分は宣言解除後には回復するだろう。
都心部の需給は逼迫
都心部や都市郊外の新築・中古のマンション・一戸建てともに価格上昇が著しいが、それは需給が逼迫しているためだ。要因は大きく二つある。
一つ目は「1次取得者層の取得意欲が旺盛であること」。賃貸住宅に居住する新規購入層は、2DK・3DKなど持ち家に比べて相対的に狭い空間に居住している。コロナ禍で在宅勤務・リモートワークが推奨される中、自宅空間の確保など住まいに対する見直し機運が高まった。
これを支えているのは変動金利なら0・38%(auじぶん銀行・今年4月)、固定金利なら0・98%(住信SBIネット銀行・今年4月)という住宅ローンの低金利と、それに加えて住宅ローン残高の1%が10年間にわたり税控除される「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」だ。
この仕組みを使えば、1%弱で資金調達し、それ以上の税額控除が受けられる「逆ざや(事実上、借り手が利子を受け取れる状態、囲み参照)」が生じ、使わない手はないと思わせる。この制度はかつて金利がもっと高かった頃に金利の一部を補助するといった考えでスタートしたが、昨今の低金利下で借り入れの金利を補って余りある“サポート”になっている。
もう一つは、新規売り出し物件が少ないこと。住宅所有者は、ある程度間取りにも満足しているうえ、自宅の売却価格は高いが、買い替え先の価格も高額ということもあって、積極的な住み替えが進んでいない。
新規の中古マンション・一戸建ての売り出し物件が前年に比べて数十%減の中、購入意欲は旺盛で物件の在庫は激減し、売り手市場となっている(図)。売れ筋の物件であれば、数日で複数の購入希望者が現れる状況だ。例えば、東京・港区の中古マンションが5000万円で売りに出たが、多くの買い手が集まり、5300万円程度に跳ね上がった。東京・渋谷、文京両区でも同様のケースが起きている。
都心離れは限定的
今後の不動産市場の動きは、日経平均株価の動向を見ていればいいだろう。株式から不動産に投資する動きもある。低金利や金融緩和が支える住宅市場の変調があるとすれば、政府や日銀の方針が転換されるか、あらがえない金利上昇の波が襲うケースだ。前者の政策転換は国際協調の縛りがある中で、政局が動こうとも日銀総裁が変わろうとも体制は動かないだろう。ただ、金利上昇時には不動産価格に下落圧力が働く。
住宅の買い時はいつか。現金買いなら、コロナ後を狙うのもいいが、住宅ローンを組み低金利や税控除の恩恵を受けるなら、今が買い時だろう。ローン返済は早く始めるほど残高の減りも早い。
ただ、日経平均と見事に連動するのは都心7区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・目黒・品川)。そこから離れるほど、または駅距離が遠くなるほど、その連動性が薄れることに留意が必要だ。
昨年の今ごろは「コロナで、都心から人が逃げ出す」といった言説も目立った。だが、そうした動きは限定的だ。地方に移住できるためには、完全にリモートワークが可能か、そこに仕事があるといった状況が必要で、在宅勤務を推奨している企業でも週に1〜3日は出社するようだ。
かといってコロナを回避する目的で、首都圏でいえば都心から30〜40キロ離れた郊外のベッドタウンも中途半端だ。熱海・湘南・房総地域・軽井沢など頑張ればなんとか通えないこともなく、かつ比較的「密」を避けられそうな地域での移転の動きは一定程度見られるが、それも人口大移動というにはほど遠い。
昨今、東京23区への人口流入が減って流出が増えているのは、コロナの影響というより、都心部の不動産価格が上がりすぎたため、それを避ける動きとみていいだろう。
(長嶋修・さくら事務所創業者会長/不動産コンサルタント)