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女性の悩みを解決する「フェムテック」が大注目=斎藤信世
伸びる「フェムテック」市場 女性の悩み解決する商品続々=斎藤信世
女性特有の悩みを解決する新たな商品やサービスを「フェムテック」と位置付ける動きが広がっている。主にスタートアップ企業が独自の技術や視点で新たな商品やサービスを開発してきたが、高まるニーズを取り込もうと大手企業の参入も相次いでいる。これまでは欧米を中心に盛り上がりをみせていたが、女性の社会進出や晩婚化などを背景に、日本でも急速に市場が拡大している。
フェムテックとは、女性(Female)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、女性の健康維持を目的に、生理や妊娠、不妊などといった女性特有の課題を新たな技術などで解決する製品やサービスを指す。生理用の吸水ショーツや体内で経血を受け止める「月経カップ」などの生理関連用品から、オンライン診察によるピル処方サービス、卵巣年齢の検査キット、更年期対策アプリまで、幅広いラインアップが並ぶ。
女性用下着などを開発するスタートアップのベアジャパン(東京都渋谷区)は昨年7月、独自に開発した吸水ショーツの販売を開始した。経血を吸収する部分は5層構造で、約120ミリリットル(成人女性の生理2日目の平均経血量の約3倍)を吸収できる。大人用(税込み7590円)とジュニア用(同7150円)を展開し、今年4月末までに5万枚を売り上げた。購入者の多くが30~40代の女性だという。
繰り返し使える特徴
日本では生理用品といえば使い捨ての紙ナプキンやタンポンを使う女性が圧倒的。しかし、取り換える手間などが負担で、経血が漏れたりして服を汚すことも少なくない。欧米では吸水ショーツは販売されてはいるものの、吸収性や耐久性に課題があった。そこで、5層構造とすることで高い吸収性を保ちながら、通常のショーツと同じ感覚で着用できる薄さも兼ね備えた吸水ショーツを開発した。
使い捨ての紙ナプキンには、一つでレジ袋約4枚分に相当するプラスチックが使われているという。吸水ショーツは繰り返し洗って使えるのも特徴の一つで、同社の高橋くみ代表取締役最高執行責任者(COO)は、「世界的に環境意識が高まっている今だから、サステイナブル(持続可能)な吸水ショーツの魅力を多くの人に伝えたい」と意気込みを語る。
2018年6月にピルのオンライン診察・処方アプリ「スマルナ」の運営を開始したのはネクイノ(大阪市)だ。アプリ上で問診に答えた後に医師の診察を受けることができ、問題ないと判断されればピルを処方。利用者の元へピルを宅配で届ける。
低用量ピルをはじめ、中用量ピルや緊急避妊薬なども取り扱っており、現在までのダウンロード数は50万回に上る(今年4月16日時点)。サービスは原則オンラインで実施するが、医師の判断で病院の受診を勧めることもあるという。自由診療で、料金は診察代やシステム利用料、薬代、送料を含めて設定。仮に医師が処方できないと判断した場合には料金は発生しない。
スマルナは利用者の約7割が20代。そのうち、スマルナを通じて初めてピルを服用した人が4割に上るという。アプリでは助産師や薬剤師らによる無料の医療相談も行っており、「避妊に失敗したがどうすればいいか」といった緊急避妊の相談など、多い日は1日で900件もの相談が寄せられるという。同社広報の豊倉麻緒マネージャーは「ピルを服用したいけれど、婦人科に行きづらいと感じている人は多い。サービスを開始し、需要の多さに驚いた」と話す。
高まるニーズを取り込もうと、大手の参入も相次ぐ。ファーストリテイリング傘下のカジュアル衣料品店ジーユー(GU)は今年3月8日の国際女性デーに、同社初のフェムテック製品となる次世代型のサニタリーショーツを発売した。女性の健康をサポートする新プロジェクト「ジーユー ボディラボ」の一環で、オムロンヘルスケアなどとともに女性の健康に貢献する商品開発を進めていくという。
法規制のハードル
大手商社の丸紅は昨年秋、20~50代の社員約20人で構成するフェムテックの新商品・サービスの提供を目指すプロジェクトチームを発足した。すでに4月から、オンライン診療によるピルの処方や、主に更年期の症状を相談できるチャットサービスの提供を社内向けに試験的に開始。サービスを利用している社員からは、「お昼休みに診療を済ませることができるので非常に便利」など、利便性を評価する声が寄せられているという。
事業化の時期は未定だが、法人向けに女性従業員への福利厚生の一環として提供する予定だ。経営企画部国内事業推進課の野村優美氏は、「働く女性が今後も増えていくことを考えれば、女性の働く環境をしっかりと整えることが大切。欧米では企業が福利厚生として女性従業員にサービスを導入するのが一般的になっており、日本も徐々にその流れに続くと思う」と説明する。
フェムテックがなぜ、いま注目を集めるようになったのか。女性ヘルスケア市場の調査研究を行う、ウーマンズ(東京都江東区)の阿部エリナ代表は、「女性の社会進出や、ジェンダー平等意識の高まりを背景に、これまで表面化していなかった女性特有の悩みや不満が顕在化するようになった。そうした時流を商機と捉えた企業がここ数年、相次いでフェムテック市場に参入している」と指摘する。
経済産業省によると、生理やその関連の症状による労働損失は年間で4911億円に上る。こうした女性特有の悩みが解決されれば、生産性の向上にもつながりうるだろう。実際、SOMPOひまわり生命が今年3月に実施した「日本のフェムテック市場の可能性に関する調査」では、女性特有の健康課題が解決された場合、回答した女性1000人の平均で仕事のパフォーマンスは「41%」上がるとの結果になった。
しかし、フェムテック市場の拡大に向けては法整備の課題も残る。例えば、医薬品医療機器法(薬機法、旧薬事法)では生理用品は医薬部外品の扱いで、製品は「白色でなければならない」「使い捨てでなくてはいけない」などの規制がある。そのため、現在販売されている色や柄のついた吸水ショーツは原則、生理用品とうたうことができない。現在は雑貨や下着などとして販売しているため、経血の吸収量など具体的な効果や効能を示せないという。
こうした現状を踏まえ、自民党の「フェムテック振興議員連盟」(会長・野田聖子幹事長代行)が昨年10月に発足。今年3月には加藤勝信官房長官にフェムテック関連製品の規制緩和などを求める提言を提出した。ベアジャパンの高橋COOは、議連の勉強会では前向きな議論がされているとした上で、「利用者を守るという観点からも、きちんと基準が守られた吸水ショーツを『生理用』とうたえるよう現状を変えていきたい」と強調した。
(斎藤信世・編集部)