経済・企業エコノミストリポート

パナソニック事件の告発で報奨金「31億円」のインパクト=北島純

不正の通報で「31億円」 パナソニック事件の内部告発者に米SECが巨額報奨金のインパクト=北島純

 米証券取引委員会(SEC)は5月19日、企業内不正の内部告発者に対し、2800万ドル(約31億円)の報奨金を払ったと公表した。SECは内部告発者の身元などを明かしていないが、2018年にSECや米司法省(DOJ)から巨額の制裁金を科されたパナソニック米子会社による会計不正及び外国公務員贈賄事件に絡むものであることが分かっており、SECの内部告発制度の報奨金としてトップ10に入る高額だ。

 リーマン・ショック後の10年、当時のオバマ政権は金融規制を抜本的に強化するドッド・フランク法を成立させた。SECはその際、企業不正の早期発見を促進させる制度として、証券取引法違反について有益な情報を提供した個人にインセンティブを与えるとともに、解雇などの不利益処分を禁止する「内部告発者報奨金プログラム」を設置した。

 このプログラムは、内部告発者が不正に関する独自の新情報を自主的にSECに提供した結果、SECの法執行が奏功して100万ドル以上の制裁金が得られた場合に、SECが得た制裁金の10~30%の範囲で報奨金を告発者に与えるという内容だ。SECは内部告発者の身の安全を確保するために、身元が分かる個人情報や事件での役割を一切開示していない。

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 しかし今回の場合、SECへの報奨金申請手続きの代理人となった内部告発専門法律事務所コナーズ・ロー・グループらが「成果」を開示しており、パナソニック事件の告発者であったことが判明している。SECによれば、内部告発制度によって12年以降、累計で9億3800万ドル(約1038億円)の報奨金が179人に支払われ、個別には昨年10月に支払われた1億1400万ドル(約119億円)が最高額である(表)。

国営企業職員に利益供与

 今回の事件は、航空機向けエンターテインメントシステムで世界トップシェアを誇るパナソニックの米国子会社「パナソニックアビオニクス」(PAC)が、中東やアジアの外国公務員に対して贈賄をしていたとして米国海外腐敗行為防止法(FCPA)違反で摘発されたものだ。DOJ及びSECの資料によれば、PACが行った不正行為は三つに分けられる。

 まず、PACによる中東の国営航空会社関係者に対する利益供与だ。PACは04年、10年間で計10億ドル相当の基本契約を締結し、07年に追加契約の交渉に入った。基本契約にはPACによる国営企業職員への利益供与禁止が規定されていたため、航空会社の契約担当者はPAC側営業責任者に対して、15万ポンド(約3677万円)の年収でPACのコンサルタントに「転職」したいと要求した。

 PAC経営陣は、この職員に対する転職ポジションの提供という便宜供与が「贈賄」とみなされないかという問題に対して、職員が国営航空会社を退職した後であれば問題ないとして、年俸20万ドル(約2296万円)の報酬を払ってコンサルタントとして起用するオファーを提示した。その結果、PACは無事に国営航空会社との間で3・53億ドル相当の追加契約締結に成功する。

 この職員は08年4月、PACのコンサルタントとして着任したが、PACは直接雇用ではなく米取引業者を間に介在させ、取引業者にPACの社長室予算から毎月1万2500ドルを支払い、元職員を雇用した取引業者が月1万ドルの報酬を支払うスキームを取った。元職員は14年1月までの間、合計で87万5000ドルを受け取ったが、コンサルタントとしての具体的な成果物はほとんどなかった。

契約書の日付を「偽造…

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週刊エコノミスト

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