持ち株会社制で経営意識の浸透狙う=楠見雄規パナソニック社長
パナソニックの楠見雄規社長(6月就任)はこのほどメディア各社の合同取材に応じ、来年4月に予定している持ち株会社制への移行について、全社に経営意識の浸透を促す狙いがあると強調した。「1950~60年代に松下(松下電器産業と松下電工、パナソニックの前身)が強かった時代は一人一人に経営の意識があった。(現在の)パナソニックが成長していないのは、それができていないからだ」と述べ、幹部と従業員に奮起を促した。
5月下旬発表の経営方針で楠見社長は、今後2年間かけて、強化する領域を決めて競争力を高めると説明。7月上旬の合同取材で楠見氏は、「各事業会社で攻めていく事業、強みを発揮することができる領域を考えてもらう。2年間は足腰をもう一度鍛え直す」と語った。
持ち株会社「パナソニックホールディングス」の傘下には、家電や空調、電気設備事業などを手掛けるパナソニックや、自動車部品、製造現場での自動化支援など現場プロセス、電池を柱とするパナソニックエナジーなどの事業会社が入る。来年4月の持ち株会社制は9年ぶりの大規模な組織改編になる。
楠見氏は、社長就任前に自動車部品事業を担当し、トヨタ自動車と仕事をする機会が多かった。同氏は、「トヨタの高収益の源泉は現場力だ。一人一人が日々考えて日々改善することが浸透している」と述べ、「そうしたことが(パナソニックでは)少しおざなりになっていた時期があったかもしれない」と指摘した。
遠のくソニーの背中
パナソニックは、2011年度と12年度に合計約1兆5000億円の最終赤字を出し、翌13年度には黒字(最終利益1200億円)に転じたものの、その後は収益力が伸び悩んだ。楠見氏の前任で6月に会長に就任した津賀一宏氏は売上高営業利益率5%を掲げたが、過去5年間で5%を超えたのは18年度(5.1%)だけ。かつてのライバル、ソニーの時価総額約14兆5800億円(7月13日終値)に対しパナソニックは約3兆2600億円(同)と4倍以上の差がついており、株式市場の評価では明暗を分けている。
楠見氏は合同取材でパナソニックの強みと弱みを聞かれ、「維持していることと、失った要素がある。社員はとてもまじめで、商品は高い信頼性を顧客から得ている。一方で、自分の仕事を事業の主として考えて高めていこうという気風が失われている」と述べた。
楠見氏は、収益目標を掲げることには慎重だ。5月の経営方針説明では、営業利益率や株主資本利益率(ROE)などの目標は示さなかった。この点について楠見氏は、「目標を提示するとそれが目的化してしまうし、目標の提示の仕方によっては誤解する者もいる」と取材で説明した。
代わりに強調したのが環境目標だ。30年までに全事業活動での温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を5月に掲げた。省エネルギーの推進、事業拠点での再生可能エネルギーの活用などを通じて実現するという。40年や50年までの排出量実質ゼロを掲げる企業はあるが、30年は相当に野心的な目標といえる。
楠見氏は、「グループ戦略会議(執行側の最高意思決定機関)で『それはさすがに難しい』という議論があった」と明らかにした。その上で、「当社では利益を何のために上げるのかを問うと、金もうけではなくて、社員や社会に還元し、より多くの人々に当社商品を使っていただくためにある。その目的の一つに環境投資がある」と語った。
(浜田健太郎・編集部)
くすみ ゆうき
1965年生まれ。1989年3月京都大学大学院工学研究科応用システム科学専攻博士課程前期修了、同年4月松下電器産業(現パナソニック)入社。2014年4月役員、19年4月常務執行役員を経て21年6月社長。奈良県出身、56歳。