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コロナ病棟に担当薬剤師を配置してチーム医療に貢献 国立国際医療研究センター病院薬剤部長に聞く

国立国際医療研究センター病院の寺門浩之・薬剤部長
国立国際医療研究センター病院の寺門浩之・薬剤部長

東京都は新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大に伴い、4度目の緊急事態宣言が出されている。7月27日には1日あたりの新規感染者数が過去最多を記録した。新宿区にある国立国際医療研究センター病院は、発生当初から患者を受け入れるなど日本のCOVID-19の研究と治療の要となってきた。特に薬剤部は、感染症に強い薬剤師の育成を基本方針に掲げ、COVID-19 専用病棟にも担当薬剤師を配置している。寺門浩之薬剤部長に、COVID-19にどう立ち向かっているのか聞いた。(毎日メディカルジャーナル編集長・吉川 学)

院内に国際感染症センターを設置

 当院は厚生労働省が所管する国立高度専門医療研究センターのひとつで、診療と研究を統合した高度な医療を提供する総合病院です。特定機能病院であり、特定感染症指定医療機関や地域がん診療連携拠点病院などの指定を受けています。当院の使命のひとつとして感染症に関する医療の提供や研究、人材育成があり、院内にエイズ治療・研究開発センターや国際感染症センターを設置しています。また、院内に国際診療部を設置し、旅行で日本を訪れた外国人や日本に暮らす外国人が医療を受けやすいようにサポートしています。

薬剤師は感染制御チームと抗菌薬適正使用支援チームに参加

 感染症に関しては、院内の感染制御チーム(ICT)と抗菌薬適正使用支援チーム(AST)に薬剤師が参加し、抗菌薬が効かない微生物を作らない、広げないことに注力しています。また、入院患者に対して抗菌薬等の薬物血中濃度の解析をして、適切な投与量や投与タイミングなどを医師にアドバイスしています。HIV 感染症分野では、入院や外来で薬剤師が服薬指導を行い、アドヒアランスの向上と副作用の早期発見に努めています。これらの業務に専門のスキルを持つ薬剤師が対応できるよう、各種の認定、専門薬剤師の資格取得の後押しをしています。

2年間の薬剤師レジデント制度でスキルを養成

 当院は総合病院であり感染症専門病院ではありませんが、感染症分野に特化した医療を実施するという使命があります。薬剤師も感染症に関するスキルがないと、チーム医療で活動し、患者さんの役に立つのは難しいです。当院ではスキルの高い薬剤師を育成するために2年間の薬剤師レジデント制度を採用しています。定員は1 期6 人で計12 人になります。研修期間に、病院薬剤師の基本業務に加え、感染症分野やその他の専門スキルを身につけてもらいます。

 COVID-19で当院の知名度が上がったこともあり、今年は応募倍率が5 倍を超え、感染症分野で活躍したいと考える薬剤師が増えたように感じます。

COVID-19では丁寧な服薬指導が不可欠

 これまでにCOVID-19の治療薬として、さまざまな薬が使用されてきました。なかには吸入薬や催奇形性のある内服薬などがありましたので、薬剤師による患者さんへの直接の服薬指導は必要だと思います。薬剤師自身がしっかりと感染防御を行っていれば他の疾患の入院患者さんと同じように服薬指導を行うことが可能です。院内感染を防ぐ意味からCOVID-19 患者さんへの薬剤師の対応を制限しているような医療機関もあるようですが、私は医師、看護師と同じように、薬剤師もチーム医療の一員として積極的に取り組むべきだと考えます。

 当院のCOVID-19 専用病棟には、中等症以上の患者さんが入院しています。ここに担当薬剤師2 人を配置しています。担当薬剤師の業務は一般の病棟の薬剤師業務とそれほど変わりません。入院時の持参薬チェックや服薬指導を、個人防護具(PPE)を装着し患者さんと直接面談して行い、最適な薬物治療の実現に貢献しています。

 また、COVID-19 治療における薬剤部の役割としては、治療薬の確保・管理が重要です。特例承認や適応外使用の薬は入手が困難で、管理に必要な手続きも多くあります。患者数の動向により適切な在庫管理にも気を使っています。適応外の薬を使う場合は、医師からの申請に基づき院内の委員会で審査しますが、その事務局業務も薬剤師が支援しています。実際の薬の使用に当たっては、薬剤師も患者さんに薬の説明をしています。

海外の薬剤業務への支援も

 当センターの使命として国際医療協力を掲げていますので、薬剤部では国際医療協力局などと連携し、短期の薬剤師の派遣、外国人の研修、視察の受け入れを実施しています。ここ数年は、ベトナムとの交流が盛んです。ハノイにある国立バックマイ病院に、外科系の医療チームを派遣し、ベトナムではあまり普及していないチーム医療の導入のためのプロジェクトを展開しています。この活動に薬剤部も参加しています。

 2019 年度からは、臨床薬剤師を介して行う服薬支援ツールを用いた医薬品の適正使用推進プロジェクトも始まりました。プロジェクト活動に対応ができる経験のある薬剤師を現地に派遣するほか、ベトナムからの薬剤師の研修も受け入れています。今は、現地との行き来ができないのでオンラインでの活動になっています。

薬剤部の取り組みを全国の薬剤師に共有

 COVID-19 患者さんの診療の最前線に、医師や看護師とともに立ってほしいです。入院患者への薬剤師による介入・診療支援は必要ですので、ぜひ、積極的に取り組んでいきましょう。感染防御さえしっかりすれば、他の病棟での業務と変わりはありません。これまでには、他の医療機関の薬剤師より、COVID-19 患者さんの対応にどう取り組めばよいのかなど、問い合わせもありました。そこで、薬剤部での取り組みを、患者対応、個人防護具、医薬品管理、持参薬鑑別、服薬指導などに分けて、国立国際医療研究センター(NCGM)ホームページ(NCGMの感染対策/ 各診療科の対応)に公表しています。是非、参考にしてください。

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