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米インフラ投資が半減で成立 身内に敵作ったバイデン政権=中岡望

インフラ投資の合意を喜ぶバイデン大統領(中央)と共和党のロブ・ポートマン上院議員(左)ら超党派議員 (Bloomberg)
インフラ投資の合意を喜ぶバイデン大統領(中央)と共和党のロブ・ポートマン上院議員(左)ら超党派議員 (Bloomberg)

 バイデン米大統領は今年1月の就任直後、「米国救済計画」として1・9兆ドル(約200兆円)という巨額の新型コロナウイルス対策費を打ち出していたが、6月24日、インフラ投資に関する超党派の合意が成立した。民主党と共和党の穏健派議員20人が中心になって協議し、ホワイトハウスも協議に加わり超党派の合意に達した。

 近年、議会で超党派合意が成立するのは異例だ。共和党は一貫してオバマ政権の政策に反対する立場を貫き、トランプ政権で党派対立は極限に達していた。バイデン氏は、超党派による政策を実現することで、トランプ政権の悪弊を取り除く意欲を示していた。

 しかし、合意は取り付けたものの、投資額はバイデン政権が示した当初案から大幅に削減された。政権にとって今回の合意は勝利なのか、敗北なのか。

「人的」投資はゼロ

 選挙運動中からバイデン氏は、「ルーズベルト大統領のニューディール政策の規模に匹敵する野心的な政策を打ち出す」と公約していた。ニューディール政策は1930年代に世界を襲った大恐慌からの脱出を狙うと同時に、さまざまな社会政策、労働政策を実現し、米国社会の構造を基本的に変えてしまった。バイデン氏は「米国救済計画」が承認された直後、「米国雇用計画」(予算総額2・3兆ドル)と「米国家族計画」(同1・8兆ドル)という意欲的な計画も発表した。

 バイデン氏は共和党議員の賛同を得て積極的に超党派合意の形成を推し進めてきた。共和党保守派の抵抗にもかかわらず、新政権下で実現した政策は既に3件ある。

 バイデン氏は、インフラ投資に関する超党派合意について「この合意は極めて重要であり、妥協を反映したものである。民主主義の核心はコンセンサス(意見の一致)を確立することだ」と、超党派合意を“勝利”だと礼賛した。

 バイデン政権にとって政策を実現するためには共和党穏健派の支持が不可欠であった。上院は両党とも同数である。票決が同数の場合、議長を務める副大統領の投じる票で決定される。ただ予算措置が伴う法律の場合、予算決議を経て、単純多数決で決定されることも可能だが、それ以外の法案に関して反対党は「議事妨害(フィリバスター)」を行使して、採決を阻止することができる。

 フィリバスターを阻止するには採決動議を提出して60人の支持を得る必要がある。つまり、共和党から10人の議員が法案を支持しない限り法案可決は不可能である。今回のインフラ投資に関する合意は、共和党議員が11人加わっており、落ちこぼれがなければ、成立する可能性はある。

 ただ、妥協には犠牲が付き物である。今回の超党派合意は、バイデン政権の大幅な譲歩があった。合意されたのは、道路や橋梁(きょうりょう)建設など「物理的インフラ投資」に関してのみで、教育や社会福祉などに関する「人的インフラ投資」は除外されていた。

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 しかも「物理的インフラ投資」に関する合意も、バイデン大統領が当初に発表した予算は大幅に削減されている(表)。共和党内に予算規模が大きすぎるという批判があり、それを受けての妥協であった。妥協の結果、バイデン政権の目玉の一つである電気自動車(EV)開発投資は、当初予算の1570億ドル(約17兆2800億円)が150億ドル(約1兆6500億円)と、10分の1以下にまで大幅に圧縮され、道路・橋梁投資も1540億ドル(約16兆9500億円)が1090億ドル(約12兆円)、水インフラ投資も1110億ドル(約12兆2200億円)から550億ドル(6兆500億円)など軒並み削減されている。

 予算総額も5年間で9730億ドル(約107兆円)、8年間で1兆2000億ドル(約132兆円)へと圧縮されている。大規模投資によって景気回復と米国経済の競争力復活を狙うバイデン政権にとって“痛い妥協”となったといえる。

 しかも、投資の執行は5年間で、年間での投資額はそれほど巨額ではない。規模ではニューディール政策に遠く及ばない。

 さらにバイデン政権にとって深刻なのは、人的インフラ投資が合意から排除され、主要な項目が妥協案の中に含まれていないことだ。社会政策の柱である病院・学校建設投資や研究開発(R&D)・製造業支援投資も同様に予算が計上されていない。このためバイデン氏は民主党下院に対して、人的インフラ投資に関する予算を早急に提出し、可決することを求めた。

民主左派は「認めない」

 問題は、そこでは終わらない。大規模な予算の資金調達の問題が残る。バイデン政権は法人税などの引き上げで得た増収で賄うとしている。また道路などの使用者に負担を求めるという主張もある。だが、共和党は一貫して法人税引き上げに反対している。また利用者負担については、民主党左派であるバーニー・サンダース上院議員は「認めない」立場を明らかにしている。さらに超党派合意には、リベラル派が主張してきた政策が盛り込まれていないと批判的な立場を取っている。

 状況を複雑にしているのは、2022年に中間選挙が控えていることだ。民主党と共和党の穏健派議員は超党派政策実現を有権者にアピールし、中道派有権者の支持を得ようとしている。だが、民主党左派と共和党右派は逆に対決姿勢を強める動きを見せている。

 バイデン氏は両党の中道派議員の支持を得て超党派政治を目指しているが、彼らの党内における影響力は限界がある。民主党左派の中には、法案は民主党単独で成立を図るべきだという主張もある。そうなれば、共和党はフィリバスターを通して阻止を図るだろう。

 バイデン氏が超党派政策を実現するためには共和党の穏健派議員の協力は不可欠である。だが、それは民主党左派の反発を招くのは間違いなく、バイデン氏は難しいバランスが求められる。超党派合意は、バイデン政権の勝利と手放しで喜べない状況がある。

(中岡望・ジャーナリスト)

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