脱炭素で日米EUは石油から撤退、中国は積極拡大で石油の主導権=庄司太郎
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原油・天然ガスの主導権 「脱炭素」で中国が石油独占か 日本はエネルギー危機の懸念も=庄司太郎
脱炭素の流れを背景に、日本や米国、欧州連合(EU)の石油・天然ガス開発企業に逆風が吹いている。5月26日にオランダの地方裁判所が、石油メジャーの一角、ロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭)に対して、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに19年比で45%削減すべしとの判決を下したほか、同日開催されたエクソン・モービルの株主総会では、株主提案で環境派の取締役2人が選任されている。
特に世界のエネルギー業界関係者を驚かせたのが、国際エネルギー機関(IEA)が5月18日に示した、50年までに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「行程表」だ。行程表には、「化石燃料への新規投資を即時停止」「35年までにガソリン車の新車販売停止」などが盛り込まれており、化石燃料への新規投資の停止は、石油・天然ガス開発事業の息の根を止めるに等しい、との見方が業界関係者の間で出ている。
IEAは、1974年に西側先進国が石油輸出国機構(OPEC)に対抗するために設立した組織で、これまで“エネルギー業界の守り神”といわれてきた。
新セブンシスターズ
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エクソンなど石油メジャーや西側先進国の石油・天然ガス開発企業に逆風が吹いている。
その一方で中国やロシア、OPECの巨大国営石油・天然ガス企業は、こうした脱炭素の動きに縛られることなく、自国や世界各地で資源権益獲得や開発・生産を続けている。そして、今後も石油・天然ガス分野への新規投資を続けていく方針だ。これらの石油企業は、“新セブンシスターズ”と呼ばれるほど実力を付けてきている(表1)。
“セブンシスターズ”とは、かつて存在した七つの国際的石油企業で、現在のエクソンなど「スーパーメジャー」の源流となったが、いま急速に実力を付けてきているのが新興国の7社なのである。
特に中国は、中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国石油化工集団公司(SINOPEC)、中国海洋石油集団有限公司(CNOOC)などの巨大国営企業が、世界各地の石油・天然ガス資源を次々と獲得している。
これら中国やロシア、OPECの巨大国営企業は、油田や天然ガス田の開発といった上流部門だけでなく、製油所からガソリンスタンドまでの下流部門、さらには、石油化学事業まで幅広く展開しており、その国の重要なエネルギー・産業インフラを構成している。
このほか、国内に石油・天然ガス資源を持つ途上国も、石油・天然ガス販売が国家収入に直結するだけに、脱炭素の動きにかかわらず、今後も開発・生産を自ら止めることはないだろう。
IEAやOPECなど、いくつかの国際的な機関は、今後の石油・天然ガス開発および輸出の主役が、これまでの“西側”の民主主義国から、専制国家が多いOPECやロシア、その他途上国に移行していくと予測している。ただし、豪州と米国は天然ガスの輸出余力が大きいため、天然ガスでは、今後も主要輸出国の地位を維持し続けると予測されている。
中国は自国内での石油・天然ガス消費量が莫大(ばくだい)なため…
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週刊エコノミスト
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