経済・企業

日本の水道狙う「水メジャー」 仏ヴェオリアが宮城県で始動=吉村和就

    水ビジネス世界トップのヴェオリアの本社(パリ) (Bloomberg)
    水ビジネス世界トップのヴェオリアの本社(パリ) (Bloomberg)

     世界には「水メジャー」と呼ばれる水ビジネスのグローバル企業がある。19世紀から21世紀にかけての長い間、水メジャーと呼ばれてきたのは仏ヴェオリア・エンバイロンメント、仏スエズ、英テムズ・ウオーターの3社であった。

     ヴェオリアの2019年の年間売り上げは約271億ユーロ(約3兆3200億円)、スエズは同約180億ユーロ(約2兆2100億円)である。この2社はフランス国内の水道経営を160年以上続けてきた経営ノウハウ・技術を持って、世界の水ビジネス市場を席巻してきた。近年、テムズ・ウオーターが英国内ビジネスに専念する方向性を打ち出したことで、ヴェオリアとスエズが国際的な水メジャーとなったが、今年、この2社が合併する見通しとなり、売上高5兆円を超える「スーパー水メジャー」が誕生することになった。

     この水ビジネスの“世界2トップ”が最も注目しているのが、日本の水市場である。

    「みやぎ方式」が足掛かり

     160年以上、世界各国の上下水道ビジネスをめぐり熾烈(しれつ)な市場争奪戦を繰り広げてきた水メジャーから見ると、日本の水市場は「宝の山」である。

     その理由は、(1)水道料金収入が日本全体で年間2兆3000億円という巨大さ、(2)漏水率が全国平均7%以下(東南アジアでは漏水率30~40%)、東京都に至っては3%以下で今後の「漏水対策費」が他国に比べ非常に少額で済む、(3)“請求書が来たらキチンと払う日本人の国民性”が反映され、水道料金の回収率99・9%と他国では見られない高い数値──という、水道事業者にとっては世界的に珍しい理想的な市場だからだ。

     また下水道事業を見ると、下水道の役目は、雨水の排除(公費負担で税金投入)と汚水の処理(汚水処理は私費負担)である。

     汚水処理として事業所や各家庭から支払われる下水道使用料総額は年間約1兆5000億円であり、仮に上下水道事業を一貫して行うとすれば、日本の上下水道の市場規模は約3兆8000億円(毎日100億円以上)であり、これは日本人がいる限り続く、持続可能なビジネスである。

     ヴェオリアの具体的な日本市場への参入方法も明らかになった。来年度から宮城県が行う、通称「みやぎ型管理運営方式」への参画である。

     みやぎ方式とは、「宮城県が所有する上下水道と工業用水の運営権を一括して20年間、民間企業に売却」する全国初の取り組みである。その規模は、同県の水道給水人口(約189万人)、下水道処理対象人口は約73万人で、国内では過去類を見ない大きさだ。

     この方式は、制度的には「コンセッション方式によるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)事業」である。コンセッションとは施設の所有権を発注者である公的機関に残したまま、運営権を民間に売却することを指す。PFIは、公共施設などの建設・管理・運営に「民間」の資金や経営・技術を活用する手法だ。

     現在、宮城県は上下水道や工業用水の運転管理を民間に委託しているが、創意工夫の余地が少なく、大幅なコスト低減が望めない。理由は、自治体が積算基準の仕様や数量を定める「仕様書発注」にある。例えば、施設ごとに個別購入の装置や薬品、また人員を配置するといった「無駄」が発生する。

     これに対しみやぎ方式は、民間の創意工夫や「規模のメリット」を生かし、将来の水道料金の値上げ幅を最小限に抑える施策案である。自治体に任せると「仕様書発注」になってしまうが、民間であれば、例えば、一括購入や分析・管理の集中管理・制御、効率的な人員配置となり効率的だ。

     仮に宮城県が現行体制で20年間実施した場合の総事業費は3314億円で、民間へ経営権を売却した場合、縮減額は同期間で247億円ともくろんでおり、総事業費は3067億円まで縮小する。

     昨年3月から運営権者の公募を開始した宮城県が、「運営を担う最優先交渉権者」として選んだのは、今年3月に応募した3グループの中の一つ「メタウォーター・グループ」である。メタウォーターは水・環境分野の総合エンジニアリング企業で、水処理専業では国内最大手だ。今回のコンセッションでは「コストを約337億円削減ができる」と提案したことが選出の決め手になり、7月5日の定例県議会で可決・成立した。

     同グループは10社で構成され、ヴェオリア傘下の日本法人ヴェオリア・ジェネッツ(東京都港区)も含まれている。02年に日本上陸したヴェオリアは、買収または資本参加によって、ほかに西原環境、フジ地中情報、ニチジョー、日本環境クリアー、日本浄水管理、エコスファクトリーなどを傘下に収めている。

     一方、スエズも「みやぎ方式」に参画するために、前田建設工業と覚書を交わし、みやぎ方式に応札。今回はヴェオリアに次ぐ「次点交渉権者」となっている。

    低調な官民連携

     しかし、日本全体で見れば、上下水道事業の“運営権の移転”を伴う官民連携の動きは低調だ。

     下水道のコンセッション分野では、浜松市が17年に全国で初めて「浜松ウォーターシンフォニー」を締結した例しかない。この構成企業はヴェオリア、JEFエンジニアリング、オリックス、東急建設、須山建設である。このコンセッションで提案されたコスト削減額は、20年間で86億円(現在評価中)と、みやぎ方式には見劣りする。

     厚生労働省は自治体に水道事業の「広域化」「官民連携」による経営基盤の強化を要請している。広域連携を模索している自治体は、水メジャーの最大のターゲットになる。

     現在、東京都と香川県を除く45道府県で、広域連携に関する協議会の組織が設置され、さまざまな形態の連携について検討が進められている。その姿・形が、ある程度見えてきたところで、巨大な資本力を駆使してその市場を獲得するのが水メジャーの「常とう手段」である。

     日本の自治体や企業が、水道事業の効率化に手をこまねいていれば、運営ノウハウにたけた水メジャーが、高い効率性とコスト競争力を武器に、一気に市場を席巻する可能性もある。

    (吉村和就 グローバルウォータ・ジャパン代表、国連テクニカルアドバイザー)


    ヴェオリアとスエズ 敵対的買収から一転合併へ

    紆余曲折の末、最大のライバルと合併するスエズ (Bloomberg)
    紆余曲折の末、最大のライバルと合併するスエズ (Bloomberg)

     2020年10月、ヴェオリアが突然、スエズに対し敵対的買収を宣言、世界一の座を確実なものにする戦略に出た。この買収案はフランスの世論を二分し、ジャン・カステックス首相の率いる「仏企業が世界一になることを歓迎する」という賛成派と「仏国内水道(両社合わせて仏全土の約7割)が1社に寡占されるとサービス低下や値上げなどの問題が起こる可能性が高い」と主張するブルーノ・ルメール経済・財務相が率いる反対派とが激しく対立し、パリ司法裁判所に提訴された。

     買収を含む合併までに少なくとも2、3年かかると予想されていたが、今年4月に急きょ合併に合意し、売上高400億~450億ユーロ (約5兆2000億~5兆8500億円)規模の世界最大の水企業が誕生した。スエズグループは、新たに新・スエズを設立しブランド及び新市場も維持することになった。

    (吉村和就)

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