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マーケット・金融 子どもの金融教育

「商売のまねごとが最良の金融教育」レオス・キャピタルワークス藤野英人氏インタビュー=白鳥達哉

オランダの「キングス・デー」では、子どもが価格交渉をする一場面も VLIET
オランダの「キングス・デー」では、子どもが価格交渉をする一場面も VLIET

インタビュー 藤野英人 勤労と会社の在り方に理解が必要 商売のまねごとが最良の教育

 レオス・キャピタルワークス創業者の藤野英人氏に日本の金融教育の問題点、そして自身がしかける子どもたちへの金融教育プログラムについて話を聞いた。

(聞き手=浜條元保/村田晋一郎/白鳥達哉・編集部、構成=白鳥達哉)

 2022年度から使うとされる、ある公民・家庭科の教科書を確認したが、非常によくできていて素直に驚いている。

 特に感心したのは、「起業家」の話から解説が始まっていることだ。起業家の話から、資金調達に入っていき、さらに金融の話に移っていく。そういった作りの教科書はいままで見たことがなかったし、私の考え方にも合致する。

 一方で心配な点もある。まず載っている内容は私が5~10年くらいかけて深く理解したことだが、これが5〜6ページに凝縮されている。教科書としては、非常によくまとまっているが、お金のことについて本当に理解できるかといわれると、凝縮されすぎている。

 これらのことを踏まえると、教科書で教えたから金融教育が十分かというと、そうは思えないのが正直な感想だ。

生活の変化による課題

 これは私見だが、「勤労」と「会社」の在り方というものを理解しないと、金融教育はうまくいかないのではないだろうか。会社の価値や会社に資金を融通したり、出資したりすることの意味が分からなくなるためだ。

 日本の金融教育は、「株式」というものを「会社の価値」や「勤労」と切り離してメカニカルに考えているという点が最大の問題だろう。

 また、生活の変化による課題も浮き彫りになってきた。

 海外には子どもの頃からお金について考える文化がある。たとえば、オランダのアムステルダムでは、毎年4月27日に「キングス・デー」というイベントが開催される(右写真)。言わば、大々的な「のみの市」で、家の中にある不要なものを引っ張り出して、軒先で売る。このイベントを目当てにロシアや英国、フランス、イタリアなどさまざまな国からお客さんがやってくる。欧州中のスリもやってくるといわれているほどの大イベントだ。

 そして、その売り手は子どもがやることが多い。なぜかというと、この日の売り上げの何割かがお小遣いになるから。子どもがお客さんと上手にコミュニケーションをとって、たくさん売ることができたら取り分が大きくなる。

 子どもたちは商品を見ている人がどこの国の人なのかうかがいながら、各国の言葉で話しかける。そして値段の交渉も行う。当然、値段が高いと売れ残ってしまうし、安くすれば売れても自分の取り分が減ってしまう。だから愛想良くしながら、少しでも多くのものを、少しでも高い値段で売ることを考えていく。

 私は、このキングス・デーで培う商売の魂こそがオランダの競争力の源だと思っている。そして、日本に足りないものでもある。

 昔は、日本も商店街にある肉屋とか魚屋で、客と主人が交渉して、売り買いするというのが当たり前の光景だった。ところが、大規模店やコンビニエンスストアが増えて商店街はなくなっていき、定価で買うことが一般的になってしまった。値段というのは需給で決まり、交渉で価格が決まるというのは、経済のど真ん中の事象。それがなくなって、日常の中から経済を学ぶという機会が失われてしまったのではないだろうか。

オンライン模擬店

「リアビズ」では高校生が模擬会社を運営しながら。金融教育を学べる レオス・キャピタルワークス提供
「リアビズ」では高校生が模擬会社を運営しながら。金融教育を学べる レオス・キャピタルワークス提供

 そうなると、我々が経済や投資、価格や価値とかを考える機会を意図的に作る必要がある。認定NPO法人金融知力普及協会による「リアビズ」という高校生を対象にしたリアル起業体験プログラムがあり、当社も協力している。

 同じ学校の3~10人で模擬企業を作り、開業資金を得るところから子どもたちで議論し、ビジネスを展開しながら実際にものを販売する。最終的に売り上げと利益がどれだけ出るかを競う。

 仕組みとしてはオランダの事例と同じ。会社を意味する英語の「カンパニー」は仲間という意味があるが、これが実感できる。社長や副社長、財務担当責任者、営業、開発とか、それぞれ役割を分けて仕事をするのだが、実際に始めてみると、計画通りに事業が進まないなど子どもなりに大混乱が起きる。そうなると原因はどこにあるのか探ったり、皆でカバーしていったりと、学習が深くなる。

 実際に商売のまねごとをするのが、実はいちばん金融教育になる。会社とはどういう成り立ちで作られ、お金はどのような所や人とやり取りをして、結果的に利益を得るのがどういうことなのか、会社・勤労・お金のすべてをつなげて体験することで、経済とは何かを肌で学べるのが最大のポイントだ。実際に体験した子どもたちも、経済に対する理解が深まり、その後に金融教育の話をしてもすぐに納得するようになる。

 一般的な日本人の職業観は、どうしても「所属」を介したものになる。どこかの企業に所属し、ピラミッド構造の中に入って上司のいうことを聞く、そして毎月1回、タスクをやった我慢料として給料が入るという構造だ。この職業観を壊さないと、米国や中国に勝てる国にはならないだろう。

 リアビズでは教える人、つまり学校の先生にも教えることが大事だ。教える人を育てることも同時に進めながら、まだ始めたばかりではあるが、今後は年間1000校の開催規模に広げることが私の目標だ。都道府県一つに対して20校くらいの開催規模になれば、投資や起業に対する考え方は良い意味で激変すると思っている。

 もともとは学校の校庭で模擬店をやる予定だったが、1回目を募集してから新型コロナウイルスの感染が始まったので、苦肉の策でオンラインショップを想定したものになっている。ただ、ケガの功名でオンラインは客層が世界に広がっていくため、想定以上に売り上げが上がる結果になった。校庭でやるのとは違うリスクはあるものの、これからの主戦場はやはりインターネットになってくるので、結果的に未来に即した起業家教育になった。

 コロナが収まった後は、オンラインとオフラインの店舗を両方やりながら売り上げを競うなどのアイデアも検討中だ。外部に配信することも面白いかもしれない。

(藤野英人、レオス・キャピタルワークス会長兼社長)


 ■人物略歴

ふじの・ひでと

 1966年富山県出身。90年野村投資顧問に入社。ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て、2003年レオス・キャピタルワークスを創業。「ひふみ」シリーズ最高投資責任者を兼務。

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