画面越し「うどんで乾杯」 1187人が参加した香川の名門「高松高校」のオンライン同窓会
香川県の名門・県立高松高校が7月10日、オンラインで同窓会を開き、1187人の参加者を集めた。新型コロナウイルス感染拡大前、同校の同窓会はリアルで1200人超を集め、「動員数日本一の高校同窓会」にも認定された実績を持つ。オンラインでこれだけ大規模な同窓会を開けた背景には、幹事団の職能があった。
菊池寛輩出、俳優の高畑淳子氏も卒業生
同校は1949年に男子校の県立高松高校(旧制高松中学校)と県立高松女子高校(旧制高松高等女学校)が統合して発足した。文化人、学者、政治家ら多彩な人材を輩出している。文藝春秋の創業者・菊池寛(旧制中学)、厚生労働省の局長や資生堂役員を務めた岩田喜美枝氏、俳優の高畑淳子氏ら多彩な人材を輩出した。政界では、国民民主党代表の玉木雄一郎氏(衆議院香川2区)や、立憲民主党の小川淳也氏(衆議院比例四国)が卒業生だ。
リアル同窓会では「日本一の動員数」も記録
東京大学や京都大学にも2ケタの合格者を出している。上京して大手企業や中央官庁、スタートアップで活躍する卒業生も多く、例年7月に東京のグランドプリンスホテル高輪で開かれる同窓会「東京玉翠会」には1000人超が集まる。特に2015年には1252人が集まり、日本一の記録を掲載するサイト「日本一ネット」が、「高校同窓会で参加人数日本一」と認定した。
同窓会の名物は、「うどんで乾杯」だ。かつては飲み物で乾杯していた。また、会場のビュッフェでうどんを提供しても、香川県人の集まりとあってすぐに無くなってしまうことからクレームも出ていた。そこで、いつのころからか「確実に皆食べられる」と、うどんで乾杯することになった。
ただ、この華々しい同窓会も、20年はコロナの影響で中止。21年の開催についても、自粛ムードが漂う中、幹事団の1996年卒業生たちは2月にオンライン開催を決定した。幹事団は総勢20人余り。40代半ばで、会社経営者、メーカーや出版社、広告代理店の勤務者、アナウンサーなど多彩だ。この多彩さが、1100人超のオンライン同窓会を成功に導いた
スペイシャル・チャットを活用
最初の課題は、1000人超の参加者を想定したビデオ会議システムの選定だった。今回使ったのは「スペイシャル・チャット(SpatialChat)」だ。ビデオ会議システムでは、ZOOMも多人数での会議は可能だが、同時に何人も話すのは難しい。しかしスペイシャル・チャットは同じ部屋の人が同時に会話したり、画面上で個人のアイコンを近づけた人同士の声は大きくなり、離れると小さくなる。
スペイシャル・チャットを推薦したのは幹事団の1人で、スタートアップ「PARK(パーク)」の経営者だ。デジタル技術を生かしたブランディングやイベントの支援をしており、ホームページ製作や企業ロゴ・メッセージのデザインで実績がある。この幹事は「ZOOMも多人数に対応はできる。でも、ざわざわとしていて、人に近づくと声が大きくなるというリアルの同窓会会場の雰囲気に近づけるためには、スペイシャル・チャットが良かった」と語る。
中継で現役生が校歌演奏
幹事団はスペイシャル・チャットで1500人分のIDを登録。ただし、仮想空間である「部屋」には1室当たり50人しか参加できないため「平成元年卒」「令和3年卒」「ブラスバンド部」など、卒業年、部活ごとに50人を上限とした部屋に分けた。
当日は午後2時半に開会。同窓生がオンラインで歓談する中、東京都内にある特設スタジオから事務局がプログラムに沿って、校長や同窓会会長挨拶などの生動画を各部屋へ同時配信した。この特設スタジオは、幹事団の1人が経営し、株主総会の動画配信などを手掛ける「U-LINK(ユーリンク)」内に設けた。司会進行は幹事団の1人で、現在、福島県の民放局に勤務する女性アナウンサー。校長の挨拶は、当日、高松高校からユーチューブを経由しての生配信となった。
仮想空間ながら〝来賓〟のあいさつが一通り終わると、同窓会名物の「うどんで乾杯」の順番だ。仮設スタジオで幹事団や同窓会会長の渡辺修・元通産次官らがうどんの入った腕を手に、オンライン参加者にも各々でうどんを手に取るよう呼びかけ、乾杯の音頭を取った。
会の最後で盛り上がったのが、高松高校の現役ブラスバンド部員と応援団による校歌演奏・斉唱だ。現役生が高松高校で演奏したのを事前収録し、当日配信した。また、幹事団のいる特設スタジオからは、応援団OBも配信に合わせてエールを送った。従来の同窓会では、会場でブラスバンドのOBやOGの演奏だった。オンラインだからこそできた、現役生と卒業生のコラボレーションだった。参加者の事後アンケートでも「企画の中で良かったもの」で、もっとも多くの支持を集めた。
昭和20年代の卒業生も参加
事務局によると、1950年代前半、つまりは昭和20年代に卒業した70代の参加者もおり、孫のサポートも得て参加登録したケースもあったという。操作の仕方が分からない参加者向けに、幹事団は事前に説明書を作成したり、当日、サポート係を配置した。この役割を担ったのが、メーカー勤務の幹事だった。職場で取り扱い説明書の作成経験もあることが役立った。
さらに、この仮説スタジオは、幹事団の1人が経営する会社の中だ。株主総会運営を支援する事業を手掛けており、映像機材がそろっていた。
幹事団は、〝来賓〟あいさつの動画配信などの動作確認を5月以降、4回行い、当日は大きなトラブルも無く終えた。開会から2時間経過後、午後4時半に閉会したが、その後も「ブラスバンド」など部活部屋に残り、旧交を温めた参加者もいるようだ。事務局によると、翌日午前2時ごろまでスペイシャル・チャット上に残った参加者もいた。
クラウド・ファンディングで250万円超調達
では、オンライン同窓会の収支はどうなっているのだろうか。従来のリアル同窓会は、参加費とプログラムの広告費でまかなっていた。今回は会場費はゼロだが、スペイシャル・チャットのID登録や、資機材の調達に一定程度の費用がかかる。そこで、クラウド・ファンディング運営サイト「キャンプファイヤー」で、主な資金調達をすることにした
キャンプファイヤーで、返礼品によって1口2000円▽5000円▽6000円▽9000円▽1万円の資金提供を募った。返礼品は同窓会プログラムやオリジナルキーホルダーなど。目標額を250万円と定めていたところ、375人から259万7500円を集めた。
収入はクラウド・ファンディングの調達額、プログラムへの広告費、寄付。支出は前述のようにスペイシャル・チャットのID登録、資機材の調達に加えて、返礼品の製作費などだ。これらの収支は「少し黒字が出るぐらい」(幹事団)で、剰余金は母校に寄付する予定だ。
名門校の同窓会は、各地で今年も中止が相次ぐ。ニューノーマル時代のメガ同窓会を実現した高松高校の取り組みは、資金集めという点でも、オンライン会議運営という点でも他校の参考にもなりそうだ。(種市房子・編集部)