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コロナ禍でも逃げ切りたい、仕事で「挑戦したくない」中高年と、したたかな若者たちとの世代間ギャップ=木村勝

コロナを機に働き方に疑問を抱き始めた50代も Bloomberg
コロナを機に働き方に疑問を抱き始めた50代も Bloomberg

テレワークによって通勤仕事が窮地の中高年世代。人生100年と現役80歳時代を生き抜くためにはキャリアの見直しが必須だ。親世代を反面教師とする若者たちは、仕事より人生の楽しさを重視している。ビジネスパーソンたちの「働き方」は、これからどう変わっていくのか――。

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 コロナ禍は多くのビジネスパーソンにとり、自分自身の働き方をあらためて考える大きなきっかけになった。勤め先や業界の成長性を不安視する人もいれば、テレワークを体験し、会社に通勤してオフィスで上司から指揮命令を直接受けて仕事をするという入社以来当然と思っていた仕事のやり方に対する疑問を抱き始めた人もいる。

 こうした不安を背景に、自分の将来キャリアについてあらためて考え始めた中高年が多い。2021年7月の人材サービスのエン・ジャパン調査では、50代の61%が「以前から検討していたが、転職への意欲が高まった」、21%が「以前は転職を検討していなかったが、今は転職を検討している」と回答している。

デジタル解消の人出不足

 しかし、定年を控える世代の雇用環境は厳しい。21年4月に高年齢雇用安定法が改正され、人手不足に悩む企業の受け皿として70歳までの就労機会提供が努力義務化された。だが、現時点では積極的に中高年を活用しようとする企業の姿は残念ながら見えてこない。かえって、コロナ禍後を見据えた人員の適正化を急ぐために、バブル入社世代をターゲットとした早期退職制を進める企業が目立つ。

 たとえば、ホンダは55歳以上の社員を対象に21年春に早期退職を募集したが、国内正社員の約5%に該当する2000人超が応募し7月末から退職したと報じられている。電気自動車シフトを見据え社員の世代交代を進めたいという会社側の思惑が背景にあるようだ。ホンダは22年度以降も早期退職制度を続ける予定とされているが、こうした動きはコロナ対応の一過性ではない。希望退職で40~50代に偏った人員の調整を進めたい企業は、客足がコロナ前まで戻ったとしても、デジタル活用などで総作業量を減らすことを想定して、こうした施策を講じているのである。

「挑戦しない」50代以降の5割

 厳しい雇用環境下で、中高年がキャリア・チェンジのために現実的な行動に出ているとは言えないようである。内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年6月)によると、50代以降で「特に挑戦したり、取り組んだりしたことはない」という選択肢が50%近くだ。実質的に増えた可処分時間を自分の生き方・将来の方向性を探る内省の時間やこれからのキャリア・チェンジのためのリカレント(学び直し)の時間に使いたいという意識は高いが、まだ一歩を踏み出せていない。

親世代を反面教師にする若者

 厳しい状況は若手も同じだが、中高年と比べると仕事に対して求める価値に変化が見られる。日本生産性本部が69年から実施している「新入社員の働くことの意識」という調査からは、時代とともに変化した就労観が読み取れる。例えば、「働く目的」という質問に関しては、19年のトップは「楽しい生活がしたい」で約40%。かつてはトップだった「自分の能力をためす」は長期にわたって減り続け、10%と過去最低を更新している。

 筆者も大学でキャリア教育の授業を担当する中で、学生から受ける印象もこの調査結果に合致する。長年一つの会社で働き続けた親世代の長時間労働や伸び悩む待遇が反面教師となり、自分は納得のいく効率的な仕事を選びたいという傾向がこうした調査結果に出ているのではないか。

共働きで世帯1000万円なら届きそう

 年収1000万円という水準がビジネスパーソンにとって一つの達成目標になって久しいが、その達成への方策は時代とともに変わりつつある。筆者世代からバブル入社期くらいまでの世代では、男性が会社で滅私奉公的に働くという「一本足家計」で年収1000万円を目指してきた人が多い。その配偶者は結婚とともに専業主婦として家庭に入った。

 ところが、今は「共働き」が働き方の前提になっている。育児休業法の整備充実もあり、結婚・出産などのイベントでも夫婦ともに会社を辞めることなく勤め続けて、それぞれが年収500万円を稼ぎ、世帯で年収1000万円を達成している若手も多い。「人並みに働き、楽しい生活を送りながら年収1000万円を達成する」という、先ほどの調査結果で示されている「希望する働き方」を実現しつつ収入を確保する、ある意味 “したたかな” キャリア戦略である。

病気や転籍を布石に

木村勝氏
木村勝氏

 今回のコロナ禍は、外的環境が変化する大きなキャリアの節目であった。筆者の場合でも30年間のサラリーマン生活の中では、急性心筋梗塞で倒れ(35歳)、新卒で入社した会社から関係会社に転籍(44歳)、その会社が買収により日本企業から外資系に変わる(50歳)など、さまざまな節目があった。

 心筋梗塞で倒れたときには、セーフティーネットを張る意味で資格を取得し、44歳転籍時には外部キャリア研修を受講し60歳までのキャリア計画を立てた。また、50歳の外資系企業による買収をきっかけに「雇わない・雇われない」という働き方のコンセプトを定め、個人事業主として独立することを決めた。その当時は、決して肯定的には考えられなかった出来事であったが、振り返ってみると、次なるキャリア・チェンジの布石になっている。

 個人的な節目や今回のコロナ禍を何もせずに見ているだけでなく、意味あるものと捉え、そこで一度立ち止まってじつくり考える機会を持てるかどうかで今後のキャリアが決まる。テレワーク拠点として格安で客室をサテライトオフィスとして提供しているホテルも多い。ぜひ、こうした拠点に籠って将来キャリアについて徹底的に考える「一人合宿」をしてみてはいかがだろうか。あなたが感じた変化の兆しをスルーすることなく真摯に受け止め、その変化に対してどう行動すべきか、じっくりと考えてみることをおススメする。今回コロナ禍を通じてあなたが感じた違和感は、今後のあなたのキャリア戦略の柱になる。

シニア社員活性化のためのセミナーで講師を務める木村氏
シニア社員活性化のためのセミナーで講師を務める木村氏

(木村 勝・中高年専門ライフデザインアドバイザー)

きむら まさる

1961年生まれ。84年に一橋大学卒業後、日産自動車に入社、人事畑を30年間歩み続ける。本社、工場人事部門を経て、人事関係会社に転籍。キャリア開発、人事・総務・経理直轄の部長を経て14年に独立。14年6月から電気通信大学特任講師

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