副業は「よそ者」扱いしないのが鉄則 まずは「小さい仕事」の依頼から=石山恒貴
副業への期待が高まっている。しかし、「雑用でも何でも仕事をしてほしい」という丸投げ企業と、プライドの高い“よそ者”が上手くいくはずもない。課題が大きい中で、リモート副業による成功例が出てきた。
多様で柔軟な働き方への支持が高まる中、副業(兼業、あるいは複業)を希望する個人は増加しつつある。新型コロナウイルス禍によってテレワークの導入が一気に拡大したが、この動きがさらに副業の方向性を変えることになった。正社員の長時間労働が前提とされてきた日本において、遠隔地で実施される副業、いわゆる「リモート副業」が可能になり、その事例が増えつつあるのだ。ただし、ここでも受け入れ企業と働き手のギャップの埋め合わせが重要だ。
副業「全面禁止」が5割弱
パーソル総合研究所が2021年3月に実施した『 副業の実態・意識に関する定量調査』によれば、自社の正社員の副業を企業が容認・禁止している割合は、「全面禁止」が45・1%、「条件付き容認」が31・3%、「全面容認」が23・7%となっている。容認企業の合計は55%と、18年に実施された同調査からは3・8%増加している。一見すると、企業の副業に対する姿勢は、肯定的なものに変化しているように思える。
しかし「条件付き容認」を許可制などで運用した場合、実質的には限りなく「禁止」に近い運用にすることもできる。また3・8%の増加率も微増といえる範囲かもしれない。そう考えると、企業の本音としては、副業に対して否定的であるという構造は大きく変わっていないとみなすこともできる。
「正社員には自社業務に専心してほしい」のが本音
なぜ企業は副業に前向きでないのだろう。同調査で禁止理由の第1位は「自社の業務に専念してもらいたいから」(49・7%)である。正社員の長期雇用を前提とする日本型雇用では、正社員は時間・空間を無限定に企業が拘束できる(長期間残業と転勤は当たり前)存在とみなされてきた。本来、就業時間外に個人が副業を行うことを企業は理由なく禁止できないにもかかわらず、いまだに企業は、正社員を自社の業務だけに専心してもらいたい存在と考えているのではないだろうか。
「副業の受け入れ」については、企業は自社の正社員に対する姿勢より、さらに否定的になる。パーソル総合研究所の同調査では、副業を受け入れていない企業の比率は76・2%である。では、なぜ企業は副業の受け入れに否定的なのか。図1のとおり、18年7月に関東の中小企業1028社に対して実施された関東経済産業局の調査で、副業の受け入れを行っている企業は、8・3%に過ぎない。
よそ者は企業秩序を乱す
図2は同調査における、副業の受け入れに関する懸念の理由である。筆者は「企業秩序を乱す」「どういう人材がくるかわからない」「社員以外が出入りするのに抵抗がある」という理由に注目している。先述した、企業が正社員を自社の業務だけに専心してもらいたい存在と考えることと表裏一体で、正社員ではない存在、いわゆる「よそ者」に対して企業は大きな抵抗感を持っているのではないだろうか。
実際に、同調査では企業へのインタビュー調査も行っているが、「大企業からくる方はプライドが高そう」「社員でもない、パートでもないという位置づけが中途半端である。直接雇用したい」「兼業・副業の方は帰属意識が足りなくなる」という、正社員ではない副業人材への懐疑的な意見がでている。
現場でのコミュニケーションも課題だ。企業側は依頼したい業務を曖昧にしたまま、高い期待を抱いて副業人材を受け入れる。一方、副業人材はそれに対してコンサルタントのような「美しい企画書」を上から目線で作成する。実態に合わない「美しい企画書」はなんら効果を発揮せず、「大企業からくる方はプライドが高そう」という印象だけが残ってしまうのだ。
成功しやすいのは「小さい仕事」
しかし、こうした試行錯誤の状況の中でも、リモート副業は進展しつつある。リモート副業を紹介しているJOINS(長野県北安曇郡)の猪尾愛隆社長は成功パターンを確立し始めている。従来、都市部の大企業の社員が、地方の中小企業で副業をすると、うまくいかないことが多かった。それは、副業で担当する業務に対して、企業と働き手の間で「実現したい状態の定義」と「期待のすり合わせ」がうまくいかないからである。
最近では成功パターンが増加している。JOINSでは副業の対象として、緊急性が少なく、フルタイムでやるほどでもない仕事を定義し、その業務改善を目的にしている。例えば、デジタル系のメールや勤怠管理のクラウドツールの導入、ネット通販やウェブでの集客などの業務である。こうした改善業務を、副業人材が、頭と手足の両方を動かして愚直に実行すると、その企業の既存社員から信頼され、「次にこれもお願い」と、関係が構築できるのである。
リモートの短時間ワークで成果
「ふるさと兼業」というリモート副業のサービスを実施している岐阜県のNPO法人G-netの代表理事の南田修司氏は、個人の副業希望者は多いものの、受け入れ企業数がそれに比べて圧倒的に少ないと指摘している。南田氏によれば、多くの企業は、ひたすら自社の魅力度向上による訴求度を高め、採用力を強化しようとする。しかし、ふるさと兼業で成果をあげる企業には異なる特徴がある。
成果をあげる企業は、「挑戦する」「人をいかす」「変化する」ことに、お題目ではなく真剣に取り組んでいるという。「挑戦する」「人をいかす」「変化する」ことに取り組む企業は、同質な正社員にこだわらない。多様性を重視し、リモートで短時間だけ働く人もいかそうとする。
猪尾氏によれば、中小企業が「改善業務」に取り組む場合、その業務はボリューム的にフルタイム雇用で対応する量ではないことが多く、その結果、むしろ副業人材が対応することが適しているという。リモート副業では、都市と地方、企業規模の大小にかかわらず、よそ者嫌いに陥らないで柔軟な考え方ができる企業が成果を上げるという環境変化が生じつつある。
(石山 恒貴・法政大学大学院教授)