生鮮食品がアプリで注文から10分で手元に届く、宅配専用スーパー「ダークストア」とは?=編集部
欧米で先行する宅配専用スーパー。「ダークストア(影の店舗)」とも呼ばれる新業態で、日本でも存在感を増しつつある。
宅配専用スーパー「OniGo(オニゴー)」が8月25日、東京都目黒区で1号店を開設した。欧米や中国で先行する、客の来店を想定しない宅配スーパー専用の物流拠点「ダークストア(影の店舗)」と呼ばれる業態だ。
オニゴーのサービスの特徴は配達時間の早さにある。客が専用アプリで注文すると、ピッカーと呼ばれる商品のこんぽう作業を行う従業員が商品を準備し、それを配達員が利用者の元に10分以内に届ける。受取人が指定した場所に置く「置き配」にも対応しているため、客は配達員と直接やりとりをせずに商品を受け取れる。
大手スーパーマーケットが展開する、オンラインで注文を受けた商品を自宅に配送する「ネットスーパー」は、注文から受け取りまで約3時間~半日以上かかるのに対し、オニゴーは配達範囲を店舗から1~1・5㌔㍍以内に限定することで、スピード配達を可能にした。ターゲットは小さい子どもがいるファミリー層や、QOL(生活の質)を大切にする働き盛りの若年層だという。
扱いは日用品など1000品目、配達料は300円
なぜ今、ダークストアに着目したのか。オニゴーの梅下直也CEO(最高経営責任者)は、「コロナ禍で料理配達サービスが一気に生活に浸透した。同じように食品もスーパーで実際に手に取って買うのが当たり前だったのが、変わりつつある。そこに商機を見いだした」と話す。
配達料は一律300円だ。扱う商品は肉や果物などの生鮮食品のほか、トイレットペーパーや洗剤など約1000品目。商品の価格は一般的なスーパーとほとんど変わらないという。
今後は酒類や薬品の提供も始め、2000~3000品目に拡大する。また店舗も徐々に増やす方針で、配達料については、需要に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入を検討しているという。つまり、需要が少ない時間帯は配達料を安くし、繁忙時は高くする。
これは、アマゾンなどの一部のネット通販も採用している手法だ。このダイナミックプライシングは、企業にとっては収益を最大化できるというメリットがあるが、サービスの内容が変わらずに価格が上がることで、顧客満足度の低下につながる可能性もある。
「配達員ファースト」
コロナ禍で需要が拡大した料理配達サービスでは、配達員の事故が急増し、社会問題となっている。背景には、配達件数が収入に直結する完全成果報酬型などの仕組みがある。一方オニゴーは時給制を採用するなど、「配達員ファースト」の姿勢を全面に打ち出す。
「宅配サービスにおける配達員の処遇に対して問題意識を持ってきた。社会のインフラとして大切にしなければいけない人たちなのに、使い捨てのような扱いをされている。当社では配達員でもやる気があれば店長に抜擢するし、非正規社員の場合は正社員登用のチャンスもある」(梅下CEO)。配達員には電動アシスト付きの自転車の貸し出しも行っている。
一定期間の検索頻度の推移を調べることができる「グーグルトレンド」によると、日本におけるネットスーパーへの人々の関心度はコロナ以前に比べ高くなっていることが伺える(図)。
しかし現状では、食品のEC(電子商取引)化率は低い。経済産業省がまとめた電子商取引の調査によると、「食品、飲料、酒類」の分野におけるBtoC(消費者向け)EC化率は3・31%にとどまっている(2020年)。
梅下CEOは、ネットスーパーを「難しい市場」と認めながらも、ダークストアをテコに市場で優位性を確保していくと意気込む。オニゴーは6月の創業と同時に3億円の資金調達を完了しており、今後数カ月以内にはさらに10億円規模の調達を行うという。将来的には都内を中心に、年間100店舗の出店を目指す。(編集部)