資源・エネルギー FOCUS
天然ガス高騰 欧州では連日最高値を更新 日本のLNGにも影響必至=岩間剛一
欧州で天然ガス価格が歴史的な高騰を続けている。指標価格のオランダTTFは10月6日、1メガワット時当たり150ユーロを超えるなど、2021年初頭の20ユーロから大幅上昇、連日のように最高値の更新を続けている。
TTFの高騰に伴い、欧州の天然ガス価格に連動した動きを見せる極東アジアLNG(液化天然ガス)のスポット(随時契約)価格も上昇。9月末には過去最高値となる100万BTU(英国熱量単位)当たり34・47ドルを付けた。
本来であれば、夏の需要期を過ぎて、天然ガス価格やLNG価格は低下する時期にある。しかし、新型コロナウイルスのワクチン接種の進展などを受けた世界的な景気回復で、特にアジア諸国の天然ガス需要が増加しており、欧州とアジア諸国との間でLNG争奪戦が展開されている。
要因は他にもある。欧州における21年冬の気温低下が長引いたことで天然ガス在庫が減少し、22年冬に向けての在庫の積み増しへの動きが強まっているのだ。今年9月時点の欧州の天然ガス地下在庫は貯蔵能力の7割程度と、20年9月の9割を大幅に下回っている。
また、ロシアとドイツをつなぐ天然ガスのパイプライン「ノルド・ストリーム2」が21年9月10日に完成したものの、欧州諸国の独占禁止規制がクリアできていない。ロシアからの天然ガス供給には時間を要するとみられ、これも価格高騰の要因となっている。
争奪戦勃発か
欧州諸国の天然ガス価格の高騰は、日本にとっても対岸の火事ではない。欧州の指標天然ガス価格や北米の天然ガス先物価格、極東アジアのLNGスポット価格の高騰は、構造的につながっているからだ。
21年の冬は、北米やアジアに大寒波が到来し、LNG需給が逼迫(ひっぱく)、アジアのLNGスポット価格は21年1月に100万BTU当たり32・5ドルに高騰した。22年もラニーニャ現象による寒波の来襲が予測されているため、11月以降に、冬の暖房需要を目的とした天然ガス争奪戦が勃発する可能性が高い。
既に、OPEC(石油輸出国機構)加盟国と、非加盟原産国でつくる「OPECプラス」は、21年11月以降の協調減産幅縮小を従来通りとしており、原油需給の逼迫感から、米国産標準油種(WTI)価格は1バレル=80ドルを超えた。日本の電力企業は、LNG調達の7~8割ほどを原油価格に連動したスキームで輸入しているため、LNGの購入価格は上昇している。
22年冬に大寒波が来襲すると、LNG価格が高騰し電力不足につながる可能性は高い。そうなれば、コロナ禍からの景気回復途上にある日本経済にとっては大きな痛手となるだろう。
(岩間剛一・和光大学経済経営学部教授)