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上場企業は四半期決算が苦痛、非上場は経営者が無能だと悲劇

大手上場企業の入社式は盛大に行われる Bloomberg
大手上場企業の入社式は盛大に行われる Bloomberg

 日々、新聞やニュースやなどで株価が上がった、下がったと報道されている。こうした株価は証券取引所に上場している「上場企業」に限られる。その数は約3800社に過ぎず、世にあるあまたの会社の99%強は「非上場」企業だ。上場企業と非上場企業の間には一体どのような差があるのか。>>特集「上場の呪い」はこちらから

 まず、大きい違いは資金調達だ。企業は上場することで株式市場から多額の資金を調達することが出来る。同時に、上場する前に株主になった人々(創業メンバーなど)も保有株式に対して市場価値が付くことで、お金持ちになることは珍しくない。

 借り入れでも、信用力が高い上場企業の方が非上場企業より低利で借りられることが多いだろう。新株、社債の発行など多様な手段も上場企業は採りやすい。非上場企業は銀行借り入れを中心とした間接調達が主流になり、株式発行などの直接資金調達は引き受け先などの条件が整わない限り厳しいと言わざるをえない。

適時開示の負担

 一方、経営という視点では必ずしも上場企業が有利とはいえない。上場企業は四半期毎に決算を開示しなければならないため、売り上げや利益などの数字を3カ月ごとに作る必要がある。中期経営計画を公表する企業はあるが、長期的な計画を前面に出すというより1年毎の勝負という視点となる。短期的に業績を上げるような経営に陥りやすい。

 非上場企業は四半期決算の開示を上場企業のように行う必要はないため、腰を据えた中・長期経営を行うことができる。株価で経営手腕を判断されることもないので、経営陣の在任期間が長くなる傾向が強い。有能な経営陣であれば在任期間の長短に問題はないが、無能な場合は首をすげ替えるのは難しいという側面もある。

こうした場合、上場企業には社外取締役がいるのでチェック機能が働く。一方、非上場企業で社外取締役を置いている企業はかなり少ないため、会長や相談役が居座って“老害”と陰口をたたかれるケースも見聞きする。

企業経営でみた上場・非上場の違い
企業経営でみた上場・非上場の違い

 社員を採用する時、ネームバリューが高い上場企業に分があるのは言うまでもない。ただ、非上場企業でも竹中工務店、YKK、森ビルなどの知名度の高い非上場企業であれば、社員集めで上場企業に引けを取ることはないと思われる。一方、企業規模が大きくても、知名度が劣る非上場企業は社員集めで劣勢を強いられるのは否めない。

 買収の可能性も上場企業の方が高くなるが、非上場企業だからといって買収されないわけではない。近年は将来性のある非上場企業が相応の金額で買収されているケースが増えているからだ。上場企業との違いは、非上場の場合は相対での株式売買になるため、いきなり想定外の買収劇という事態は起こりにくい。一方、上場企業は市場で株を買う株主を選ぶことができないので敵対的買収のようなことが起こりうる。敵対的買収をされないように、上場企業は株主への還元を含めた株主対応をしっかり行う必要があるだろう。

 買収する側であればよいが、される側の企業の社員はこれまでの人事考課や業務スタイルなどが一夜にして変わる可能性もある。人員削減の対象になるリスクもあるので、上場企業に入社しても、一昔前のように安泰とは言えない。終身雇用ももはや当たり前ではない。

子供の就職先

 息子や娘の就職の話になると、○○ちゃんはどこに就職した、△△さんはあの会社に勤めているなど、上場企業に就職した子の評判が高くなるのは世間でよくあることだ。

 新入社員は大企業ほど望んだ仕事に就けず、反面、中小企業のほうが望んだ仕事に就きやすい。上場企業も従業員数十万人から数十人という企業があるため規模で論じるのは正確ではないが、一般的には上場企業のほうが望まない仕事(部署)をさせられやすいだろう。また、上場企業のほうが転勤を伴う移動も多い。その分、上場企業の方が収入や退職金が多く、非上場企業の方が退職金を含め収入は少ない傾向がある。収入だけを考えると上場企業に軍配があがる。

福利厚生は差が大きい

 仕事面で比較をしてきたが、プライベートでは圧倒的に上場企業の方がメリットは多いだろう。福利厚生は上場企業と非上場では差が大きく、上場企業の大きな健康保険組合では医療費負担も安く済むことがある。保養施設や社宅(借り上げや補助を含む)も充実しており、有給休暇などの休暇の取りやすさも上場企業に軍配があがるだろう。合コンやお見合いでも第一印象が高評価なのは上場企業に勤務している人のようだ。

結婚相手の条件は? Bloomberg
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 住宅ローンを含む借り入れの審査も上場企業の方が第一評価のポイントは高いといわれるが、半面、有名大企業の人が消費者金融などを申し込むと、本当に大丈夫だろうかと、不審に思われるケースがあるとも聞く。

 総じて勤め先として見た場合、上場企業の方が評価は高くなるのは否めない。しかし、筆者は上場企業に勤めたことはなく、また会社勤めをドロップアウトした人間なので偉そうなことは言えないが、やりたい仕事ができてきちっとした対価をもらえれば非上場(筆者は起業したので零細企業)でもデメリットはあまり感じたことはない。記憶に残っているデメリット(面倒に感じたこと)は、住宅ローンを借りるときに3期分の決算報告書の提出を求められたことくらいだ。

(深野康彦=フィナンシャルリサーチ代表)

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