親子上場の解消でエネオスがゴールドマンと組む理由
国内エネルギー大手のENEOS(エネオス)ホールディングスと子会社で道路舗装大手NIPPO(ニッポ)の親子上場解消を巡る複雑な取引が、金融関係者の間で話題になっている。ニッポの株主である国内外の投資ファンドからは異議も出ている。>>特集「上場の呪い」はこちらから
エネオスにとってニッポは57・01%を保有する連結子会社だ。親子上場を解消するだけなら、エネオス自身がTOB(株式公開買い付け)を実施し、残りの42・99%を買い取って完全子会社化すれば足りる。しかし、エネオスは買収のためのSPC(特別目的会社)を米投資銀行ゴールドマン・サックスと共同出資で設立し、さらにエネオス自らが持つニッポ株式はTOBに応募せず、非公開化後にニッポに取得させるという仕組みを使う。一体なぜなのか。
ゴールドマンが最大7割
エネオスの開示資料によれば、SPCの必要金額は、TOBに必要な2047億円と、非公開後にニッポがエネオスから自己株を取得するのに必要な1940億円(SPCからニッポに融資)の合計の3987億円。SPCはこれを600億円はエネオスとゴールドマンからの出資、残り3387億円はメガバンク3行からの融資で調達する。SPCへの出資比率はエネオスが35%、ゴールドマンが65%だ。
だが、業績が為替と原油価格に左右されるエネオスは、「比較的安定しているニッポを連結から外したくない」と見られている。そこで、SPCがエネオスとゴールドマンに発行する株式を、議決権付きの普通株式と議決権のない株に分けることで、金額ベースで35%しか出さないエネオスが議決権では50・01%を握り、上場廃止後も孫会社としてニッポの連結を維持するのだ。
もっとも、当期純利益はエネオスが単独で完全子会社化すれば100%連結に取り込めるのに、ゴールドマンと組むことで、ゴールドマンが持つ非支配株主持分相当が除外され、純資産も同様に目減りする。さらにニッポが再上場する場合には、エネオス保有株の一部をゴールドマンが買い取ることができる。その結果、ゴールドマンの保有割合は最大で約7割となる。一方で、エネオスの保有割合は約3割にとどまり、再上場で得られる果実もゴールドマンがエネオスを圧倒する内容だ。
エネオスが直接、買収することも可能なのに、ゴールドマンを引き入れて利益を分けるのはなぜなのか。ニッポはマンション分譲など不動産開発も手掛けているので、その成長にゴールドマンの知見が寄与するという説明をエネオスはしている。しかし、ニッポの中期計画は、道路舗装事業とアスファルト合材販売の成長が軸で、不動産開発事業を大きく伸ばす計画にはなっていない。エネオスは「完全子会社化しても事業領域の重複がなく、当社主導でのニッポの企業価値向上の実現は困難」というが、それならニッポの企業価値向上のために組む相手としてゴールドマンは適任なのかという疑問が金融関係者から出ている。
ファンドも抗議
一方、エネオスは10月11日に再生エネルギー会社、ジャパン・リニューアブル・エナジーを約2000億円で買収すると発表した。売り主はゴールドマンだ。一部報道によれば、トヨタ自動車やNTTに競り勝っての獲得だという。「時期的に見てこの再エネ会社の買収と、ニッポの案件はセットだったのではないか」との見方が金融関係者の間で出ている。これに対してエネオスは「本件と当該買収の件は、それぞれ独立した検討・意思決定プロセスを経ており、ご指摘のような事実はない」と回答した。
ニッポ非公開化については、マネックスグループの代表を務める松本大氏が会長のカタリスト投資顧問や、ニッポの株式を保有するオアシス・マネジメント、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズ、オービス・インベストメント・マネジメントといった複数の国内外の投資ファンドが「TOB価格が安すぎる」「マーケットチェックを経ていない(より高い価格で買う買収者を探していない)」など異議を唱えている。親子上場解消の手法をめぐって議論が続きそうだ。(伊藤歩=金融ジャーナリスト)