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竹中、森ビルは大胆な損失処理、YKKは従業員が筆頭株主

    森ビルの代表的再開発の六本木ヒルズ(中央)、右奥は竹中工務店が建設した東京タワー
    森ビルの代表的再開発の六本木ヒルズ(中央)、右奥は竹中工務店が建設した東京タワー

     株式を上場している会社は、金融商品取引法に基づいて有価証券報告書を財務局へ毎年提出する。非上場会社の場合も、会社の規模など一定の要件に達すると同報告書の提出が必要になる。2020年度の財務局の同報告書受理件数(内国会社)は4153社である。国内の上場会社数3800余社に比べると、非上場会社約300社が同報告書を提出していることになる。>>特集「上場の呪い」はこちらから

     有価証券報告書には財務諸表のみならず、企業グループの概況や事業の説明も含まれる。さらに、金商法によって虚偽記載が排除され情報の品質が担保されており、掲載項目や掲載基準の定めによって他社の同じ項目や同会社の過去の項目と比べることができる。そこで、同報告書を用いて、非上場会社を同業種の上場会社と比較し、株式が非上場であることの意義や影響を考えてみたい。

     例として取り上げる同報告書提出の非上場会社は、ゼネコンの竹中工務店、飲料・食品のサントリーホールディングス(HD)、オフィスビル賃貸の森ビル、ファスナーと建材のYKKである。

    竹中は経常利益の14%を特損処理

     非上場会社は、株価や株主の動向を逐一気にする必要がない。したがって、短期的な業績変動を意に介さずに、長期的な目的へ向かって行きやすいはずだ。

     非上場会社は、経常的ではなく例外的に発生した多額の損失(特別損失)を、より大胆に計上できるのではないだろうか。そこで、経常利益に対する特別損失の割合を、非上場会社と上場会社について比較してみた。過去10年の合計では、竹中の特別損失は経常利益の14%に相当したが、上場している大手ゼネコン4社(鹿島、大成建設、大林組、清水建設)では4~8%にとどまった。竹中は利益が減少する悪影響よりも、損失処理を早期に終えることを優先させたように見える。もちろん、特別利益を計上して特別損失を相殺し、税引前利益に与える影響は抑えている。

     同様の傾向は森ビルでも見られ、同社の特別損失が経常利益の34%に相当したのに対して、上場している大手不動産3社(三菱地所、三井不動産、住友不動産)では9~19%だった。もちろん、集計は直近10年間で区切っているため、会社による資産の再評価やリストラのタイミングの違いが影響することはあるはずだ。

     また、YKKの場合には、特別損失の計上額そのものが極めて少ない。サントリーは、「やってみなはれ」の精神で果敢な挑戦を続け、63年に再進出したビール事業は黒字化まで45年もかかった。長い間同事業が赤字でも頑張り続けられたのも、株式市場からの圧力を意識しなくてよかったことが大きいだろう。

    配当抑えるサントリー、YKK

     配当金は株主への利益の還元であるが、会社にとっては利益の社外流出である。自己資本の強化を優先させるなら利益の留保を図ることになる。無配や減配を含めた配当政策について、非上場会社なら多数の株主にを説明して納得してもらう必要はなく、配当金額は状況に応じて柔軟に決定できる。

     竹中、サントリーHD、YKKでは、配当を抑えて内部留保を厚くしている。純利益のうちのどのくらいを配当に回したかを示す配当性向(過去10期平均)は、非上場の竹中、サントリーHD、YKKは、いずれも同業の上場会社に比べて低くとどまっている。ただし、森ビルはこの傾向に当てはまらない。

     一般に、学生の就職先として上場会社は優位に立つ。非上場会社としては優秀な人材を集める工夫が必要になる。

     非上場会社の例にあげた4社(竹中、サントリーHD、YKK、森ビル)は、いずれも規模の点で同業大手に大きく見劣りすることなく、一般的な知名度も高い。従って、「非上場=従業員の採用に不利」とは一概に言えないだろう。たとえば、竹中と上場ゼネコン大手4社では、従業員の増やし方、親会社の従業員の平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与などに、大きな違いはない。竹中以外では、同業大手との間の従業員関連の指標には差異が見られるが、それは上場か非上場かによる違いというよりも、職務の違い、勤務地の違いなどの影響が大きいように見える。

    六本木ヒルズは非上場ならでは

     非上場4社自身は、株式を公開せず非上場を維持することを、どのように考えているのだろうか。やはり、大きいのは長期的視点の重視である。竹中では、50年、100年先を見据えた建築物を手掛け、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」という理想のもとで、短期的業績よりも長期的な視点を重視している。その代表が東京のランドマークである東京タワー(58年竣工)だ。また歴史的建造物の保存活用にも注力し、横浜赤レンガ倉庫(同02年)や明治生命館(同05年)などもある。

     森ビルでも、「都市を創り、都市を育む」という理念のもとで、短期的に採算よりも「企業の継続的な成長」の実現を図っている。かつて木造住宅街だった場所を17年の年月をかけて六本木ヒルズとして再開発するというような長期的なプロジェクトは森ビルの得意とするものだ。

     YKKは、従業員の事業への参加という考えから、従業員の株式保有を進め、従業員持株会が筆頭株主(21・05%保有、21年3月末)である。そして、株式上場の予定はないことを再三公表している。

     非上場4社では、創業家出身のトップ経営者が比較的長期にわたりかじ取りをしてきた。従って、長期的視点を大事にして、非上場維持を含めた経営の考え方を会社のなかに浸透させやすかったと考えられる。

    (児玉万里子=財務アナリスト)

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