テクノロジー

半導体が根底から生まれ変わる!? NTTが開発した「光電融合」とは

     半導体チップに搭載するトランジスタの集積度が2年で倍増する「ムーアの法則」に従い、特にこの30年間はCPU(中央演算処理装置)やメモリーの性能が飛躍的に向上した。ICT(情報通信技術)産業が勃興し、米国の「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」に代表されるインターネットの覇者を生み出した。

     ところが、微細化が急速に進展した結果、最先端の半導体集積回路の線幅は、最小の微細な粒子である原子のレベルに近づいている。それよって、コンピューターの性能向上は頭打ちとなり、同時に計算量当たりの電力消費量は下げ止まっている。

    ◇データ爆発と気候変動

     一方で、5G(第5世代移動通信システム)の商用サービス開始や、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの普及により、ICTネットワーク上に流通するデータ量は、爆発的に増大している。米調査会社IDCによると、18年に33ゼタバイト(ゼタは10の21乗)だった世界のデータ量は25年には175ゼタバイトと5・3倍に増えると見込まれている。

     そこで懸念されるのが気候変動問題への影響だ。英石油メジャーBPによると全世界の電力供給の約6割は天然ガスや石炭などの火力発電に依存している。ICT機器の消費電力を引き下げる技術革新がなければ、成長領域であるDXの推進は気候変動対策の阻害要因になってしまう。

     このジレンマを解消する技術の開発でNTTは世界の先頭を走る。同社は、電子によるデータの処理と「光」による通信伝送をそれぞれ担う機能を接合させることで、消費電力を従来に比べて桁違いに効率化させると同時に、データ処理の超高速化への道を開く「光電融合」と呼ばれる研究開発を続けてきた。

     いま、その実用化にめどを付けた。これを中核技術として、ネットワークから端末、半導体などのデバイス群のすべてに光ベースの技術を導入し、従来にないサービスを実現する「IOWN」(アイオン)という構想を提唱している。NTTの澤田純社長は、昨年11月末のIOWNの研究開発に関する発表会で、光電融合とIOWNについて、「社会に変革を促すゲームチェンジになるだろう」と強調した。

    ◇〝超〟強力デバイス

     光電融合の目的は消費電力の低減だけではない。

    「〝超〟強力なデバイスを作るためだ」。NTTの技術部門トップ、川添雄彦常務執行役員は強調する。現実の世界から収集したさまざまなデータを活用して今後次々と生み出される新たなアプリケーション(用途)を実現するためには、現在の〝電子〟技術の限界を突破しなければならない。それには、「〝光〟の処理が可能で、従来の性能をはるかに上回る強力でかつ汎用(はんよう)的なハードウエアが必要だ」。

     NTTは19年から20年にかけて、光電融合を実用化するための「光トランジスタ」「全光スイッチ」「光論理ゲート」などの技術開発に成功したと発表した。

     光トランジスタは、電気信号を光信号に、光信号を電気信号に変換し、入力した光信号を別の光に変換・増幅する素子。「昔は大きな装置が必要だったが、いまではコインサイズのチップで可能になった」(川添氏)という。全光スイッチとは、光信号のオン/オフや光の行き先を切り替える。光論理ゲートは超高速の演算処理を担う。NTTは、これらの光電融合のデバイスを搭載した機器を配置した「オールフォトニクス・ネットワーク」を構築し、ICTインフラの性能を格段に向上させることを狙っている。

    日本半導体、最後の好機

     光電融合の名の通り、IOWNが実用化に入っても、しばらくは光とともに電気・電子によるデータ処理が続く。川添氏は、「電子データを集積して処理するための(CPUなどの)デバイスは、TSMC(台湾積体電路製造)の半導体工場などが担い、それらの部品を載せてネットワークに設置する機器のインターフェースは光の処理に置き換わっていく。ここを担う新しい生産体制は、ぜひ、日本で取りたい。ファウンドリー(半導体受託製造会社)など生産拠点の一部を日本が担うことが必要だ」と力を込めた。

     そうした生産体制構築も視野に入れて、NTTは今年4月、富士通の半導体設計子会社を買収すると発表している。

     政府が打ち出しているグリーン成長戦略では、30年に約140兆円、50年に約290兆円の経済効果および約1800万人の雇用効果を見込む。その実現には光電融合などの新しいデバイス群の推進が必須だ。それは同時に、「日本の半導体復権」の最後のチャンスになるかもしれない。(編集部)

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