本当は“親中派”?岸田首相vs自民党右派の暗闘=及川正也
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“親中”色出さない岸田首相 自民党強硬派と政府の綱引き=及川正也
短期決戦の衆院選では、外交も大きな争点となった。米国と中国の対立が先鋭化する中、日本はどう対応すべきか。論戦は中途半端に終わった印象は否めない。
10月4日に発足した岸田文雄内閣の外交で注目されたのが、就任4日後に行われた岸田首相と中国の習近平国家主席との電話協議だった。
外務省の発表によると、岸田首相は沖縄県・尖閣諸島周辺の緊張や、中国による人権問題などで懸念を伝える一方、両首脳は「建設的・安定的な関係を築く」ことで一致した。一方、中国側によると、習氏は歴史や台湾などの問題を適切に処理し、「対話・協力を強化し、新時代に見合った中日関係の構築を後押しする」と述べたという。
異例のスピード会談
中国首脳の電話協議の相手は、以前は国家主席ではなく首相だった。日本の首相就任に習主席が祝意を送ったのは菅義偉前首相が初めてで、就任9日後だった。
それに比べるとスピード会談だ。言うべきことは言いつつ、関係安定化への意欲を強調する会談だったといえよう。ともに、「来年の日中国交正常化50年」を契機に「新時代の日中」を見据えるという認識を示したのが、それを物語る。外務省幹部は「うまくいった」と述べ、中国の識者は「よいスタートだ」と評価した。
中国側は岸田氏を、日中国交正常化を成し遂げた大平正芳外相の派閥「宏池会」を受け継ぐ党内主流派ととらえている。安倍政権時代には、民主党政権による尖閣国有化で冷却化した日中関係を外相として雪解けに導いた手腕も評価している。旧来型の「親中派」「親台派」の二分法でいえば、「親中派」として期待しているだろう。
しかし、この電話協議が、日中関係改善の「第一歩」として宣伝されることはなかった。直後に控える衆院選で自民党内右派の反発を警戒したという面があるようだ。岸田首相は中国を念頭に置いて半導体の生産拠点を日本に建設する台湾企業を支援したり、靖国神社に真榊(まさかき)を奉納したりして、むしろ中国側を逆なでしている。
岸田内閣は経済安全保障担当相を新設し、自民党執行部も麻生太郎副総裁、甘利明幹事長、高市早苗政調会長ら対中強硬派が居並ぶ。安易に融和路線には踏み込めない。日本政府関係者は「圧力一辺倒の自民党側、対話の余地を残しておきたい外務省側の『綱引き』の側面もある」とみる。同じ与党の公明党内は「対話」路線だ。
水面下で繰り広げられる「暗闘」だが、ここに来て「強硬一辺倒で大丈夫なのか」という空気が強まっているという。ポイントは、米中対立の風向きの変化だ。
9月から10月上旬にかけ、台湾周辺が緊迫した。米英日など6カ国が空母3隻を展開する軍事演習を行ったのに対し、中国は核兵器搭載可能な爆撃機と、それを護衛するように飛行する多くの戦闘機が編隊を組む訓練を実施した。「ともに実戦を想定した」(軍事筋)…
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週刊エコノミスト
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