金融 121兆ドルの「サステナブル金融」=野村資本市場研究所 野村サステナビリティ研究センター
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真に「持続可能な社会寄与」か 信頼性評価が欧州で発展
持続可能な社会の実現に資する「サステナブル金融」が拡大を続けている。実際、投資に環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点を組み入れる責任投資原則(PRI)に署名した機関の運用資産残高は2021年3月末時点で、約121・3兆ドル、日本円にして実に1・3京円超に達している。世界の株式市場時価総額が120兆ドル余り(10月現在)で、それと同等の規模である。拡大の背景には、パリ協定や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)、そして新型コロナウイルス感染症の世界的大流行がある。
その一方で、金融市場ではサステナブルな配慮をうたいながらも実態が伴っていない、いわゆる「グリーンウオッシュ」の金融商品に対する不安の声も聞かれている。このような投資家の懸念を払拭(ふっしょく)し、持続可能な社会の実現に真に寄与する金融商品の選択を支援すべく、第三者が「サステナブルか」を判断し、認証するラベルの仕組みが21世紀に入った頃から欧州を中心に発展してきた。
本稿では、世界の認証ラベルの歴史を概観しながら、仮に日本で導入する場合の論点について考えたい。
◆オーストリア 世界に先駆け導入
世界に先駆け認証ラベルを導入したのはオーストリアであった。1990年、連邦環境省(当時)が主導して、環境に配慮した製品に対する消費者の関心を高めることなどを目的としてエコラベルの仕組みが誕生した。この段階では、消費財が中心であった。金融商品を対象としたエコラベルは、年金基金などがファンドに関するラベルの創設を求めたことを契機に、世界に先駆け、04年に誕生している。同エコラベルは、連邦気候保護・環境・エネルギー・モビリティー・イノベーション・テクノロジー省(BMK)の管轄で、消費者情報協会(VKI)が運用している。
対象となる金融商品は、(1)投資信託のように複数の投資先を組み合わせる「ポートフォリオの性質を有するファンド」、(2)グリーンボンドなど(サステナビリティーボンドを含む)、(3)当座・貯蓄預金、となっている。(1)については、ESG事業に注力する企業を投資先とする投信、(3)については預金によって集めた資金をESG関連事業に投融資したものが例に挙げられる。
同エコラベルを取得した金融商品数は、04~12年は20以下で推移していたが、18年ごろから順調に伸び始めた。その後、20年にグリーンボンドなどと当座・貯蓄預金が対象に加わったこともあり、21年4月時点で180(企業数では55)に達している。
◆ルクセンブルク 5種類の認証ラベル
次にルクセンブルクの仕組みを紹介したい。同国の特徴は、金融商品ごとに五つの認証ラベルを運用している点にある。すなわち、マイクロファイナンス(小口金融)、環境、ESG、気候ファイナンス、グリーンボンドという五つの認証ラベルである。最も活用されているのは、「ESGラベル」であり、付与数の8割強を占めている。
各ラベルを付与するのは、06年設立の官民連携組織であるルクセンブルク金融ラベル庁(LuxFLAG)である。同庁の特徴は、政府や金融業界団体に加えて、ルクセンブルク証券取引所(LuxSE)や欧州投資銀行(EIB)などがメンバーに含まれていることだ。これらのメンバーは認証ラベルの普及への鍵を握り、実際に普及へ向けた連携の取り組みが行われている。
例えば、EIBが発行する「気候に関する認知度向上を目指す債券(CAB)」のすべてにグリーンボンド・ラベルが付与されている。CABは世界初のグリーンボンドとされており、知名度も高い。その債券に付与されることは、認証ラベルの認知度向上につながり得る。
◆ドイツ語圏 点数で4段階に
評価ポイントによって認証ラベルを4段階にランキングしているのはドイツ語圏諸国(ドイツ、オーストリア、リヒテンシュタイン、スイス)である。同地域のサステナブル投資推進フォーラム(FNG)は15年、サステナブルなファンドなどの品質基準を示す仕組みとして、「FNGラベル」を開発した。
FNGラ…
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週刊エコノミスト
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