週刊エコノミスト Online

テレワークが変える日本社会の常識 妻は外に仕事へ、夫は実家で親介護に

 新型コロナ禍の影響でテレワークが広がっている。内閣府が2021年11月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、就業者のテレワーク実施率はコロナ前の19年12月に10・3%だったが、21年9~10月には32・2%へと3倍以上上昇し、東京23区では55・2%となった。従業員数1000人以上の大企業では46・7%にも上る。生活や家族を重視する志向が一層高まるなど価値観も変化している。

 同調査によれば、「仕事と生活のどちらかを重視したいか」という問いに対して生活重視との回答は、テレワーク非経験者では34・4%だが、経験者では64・2%と2倍近く上回る 。また、子育て世帯では約半数で家族と過ごす時間が増え、このうち約9割は現在の状況を保ちたいと答えている 。さらに、東京圏在住者では若者を中心に地方移住への関心も高まった。地方移住に関心がある割合は全体では24・0%だが、20代では44・9%、20代のうち23区在住者では49・1%にも上る。結婚や子育て前のデジタルネイティブ世代の若者はフットワークが軽く、テレワークにも前向きなようだ。

年齢で意識に差

 テレワーク実施率は年齢が高いほど低下する。ニッセイ基礎研究所が9月に行った調査によると、正規雇用者のテレワーク実施率は20代では49・7%だが、50代では41・8%である。調査はコロナ禍で3カ月ごとに実施しており、全てにおいて同様の傾向が見られる。

 テレワーク実施率自体は、さほど大きな差ではないように見えるかもしれないが、意識面には明らかに違いがある。働き方が変わることへの不安と期待を聞いたところ、若い年代の方が在宅勤務が増えることについて、「自由時間が増える」「都合の良い時間に働きやすくなる」といった期待が強い一方、「成果主義の報酬体系へと変わる」ことや「集中力やモチベーションが低下する」といった不安も強い傾向がある(図1>>>拡大はこちら)。

図1 テレワークに期待と不安が交錯する
図1 テレワークに期待と不安が交錯する

 つまり、テレワークが比較的進展している若者では期待も不安も強いが、一方で50代などでは期待も不安も弱い。子どもの頃からインターネットやパソコンが身近にあったデジタルネイティブに対して、社会人になってからパソコンなどのITスキルを習得してきた世代をデジタルイミグラント(デジタル移民)と言う。デジタルイミグラント世代は、キャリアが終盤であるために働き方が変わることへの期待などが弱い可能性がある。しかし、同時に新しい働き方へ適応していく必要性もさほど感じていないために、あまりテレワークが進展していないとも言えるのではないか。なお、同調査によれば、男性より女性の方がテレワークへの期待が強い傾向もある。

女性が働きやすくなる

 ここで、あらためて女性の年代別の労働力率を見ると、近年の「女性の活躍推進」政策などの効果で、いわゆるM字カーブ(女性の労働力率が結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する現象)の底は随分浅くなったが、依然として底は存在する(図2>>>拡大はこちら)。ただし、ここに就業希望のある女性の割合を足すと、M字はおおむね解消されて台形に近くなる(総務省「労働力調査」)。

図2 女性が働きやすい環境になっていく
図2 女性が働きやすい環境になっていく

 就業希望があっても働いていない理由には「出産・育児のため」(32・3%)や「適当な仕事がありそうにない」(26・8%)が挙がる。一方で現在、広がるテレワーク環境を見て、就業継続の希望を持った女性も少なくないのではないか。

親介護は嫁から息子に

 介護との両立でも同様のことが言えるだろう。仕事と家庭の両立と言うと、まだ、どうしても女性の問題と捉えられがちだ。しかし、近年、介護環境は様変わりしている。同居の主たる介護者は、2000年代初頭では嫁が息子を圧倒的に上回っていたが、足元では逆転している(図3>>>拡大はこちら)。つまり、現在の60代や50代では、育児との両立はしてこなかったが、介護との両立をせざるを得ない男性が増えている。

図3 介護の主役は男性に
図3 介護の主役は男性に

 育児は見通しが立てやすく、子どもの成長とともに負担は減っていくが、介護は真逆とも言える。また、介護との両立を考えた場合、育児と同様に在宅勤務によるテレワークや時間短縮勤務、月単位の休暇が必要となる。つまり、柔軟な就労環境の整備は仕事と育児の両立だけでなく、介護との両立で一層強く求められ、女性だけでなく男性にも必要だ。

男性育休取得率1割

 今後、育児や介護との両立を図る人材など、働き手が多様化すれば価値観も多様化していくだろう。そうなれば、男性の育児休業の取得なども進む可能性がある。

 新入社員の男性の育休取得意向は上昇傾向にあり17年で約8割に達する(日本生産性本部「新入社員 秋の意識調査」) 。しかし民間企業の男性の育休取得率は20年で12・7%にとどまる(厚生労働省「雇用均等基本調査」) 。希望と現実が大きく乖離する背景には「言い出しにくい雰囲気」や「仕事の属人化」などが指摘されている 。

 一方で夫の家事育児時間が長いほど出産前後の妻の就業継続率は高まり 、第2子以降の出生率も上昇する 。つまり、若い男性ほど育児との両立を希望しており、女性だけでなく男性の働きやすい環境が整備されることは少子化抑制にもつながる。

 また、「働き方改革」では副業・兼業も推進されている。足元ではコロナ禍も契機となり、若い年代ほど正規雇用者でも副業・兼業をしている割合が高く、50代では13・4%だが、20代では25・8%を占める(ニッセイ基礎研究所「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査)。

 若い世代の働き方に対する価値観は確実に変化している。また、彼らの希望する道筋はデジタル化の進展とも、少子化抑制や労働力不足の解消など日本の抱える中長期的な課題解決の道筋とも重なる。今、組織で意思決定を担う経営層や管理職層の大多数を占めるデジタルイミグラント世代の意識改革を進めることは、持続可能な社会の創造を目指す一歩につながる可能性がある。

(久我尚子・ニッセイ基礎研究所上席研究員)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事