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資生堂「ツバキ」「家庭教師のトライ」を買収するCVCの狙い

 「ツバキ(TSUBAKI)」ブランドで有名な資生堂の日用品事業や、「家庭教師のトライ」を展開するトライグループ(東京)を買収した欧州大手投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズ。コロナ禍で続く取得の狙いをCVC東京オフィスの共同代表・赤池敦史氏に聞いた。(聞き手=桑子かつ代・編集部)

―― CVCキャピタル・パートナーズの日本企業への投資が続いている。

赤池 CVCはプライベート・エクイティ(PE)ファンド(未上場企業の株式を取得し、企業価値を高めてから上場・売却することで利益を得るファンド)として、成長の余力を持つビジネスや会社に投資をする。資生堂のパーソナルケア(日用品)事業と非上場のトライグループは、どちらも過去数年間の収益が二桁以上の成長であり、好調な業績が特徴だ。CVCの資金を活用してもらって、高成長を続けてきた会社が次の新たなステップに移行するサポートを提供する。

 PEの投資と言えば、かつては経営破綻した企業の再生や事業の再構築が一般的だったが、現在は状況は異なっている。

―― 資生堂の「ツバキ」や「ウーノ(uno)」などの著名ブランドを持つ日用品事業を1600億円で取得した。

赤池 資生堂のパーソナルケア事業は「ファイントゥディ資生堂」として7月に事業を開始し順調だ。基幹ビジネスは日本で築いたもので、売り上げの半分が国内であり安定的だが微成長だ。今後はアジア全体での成長を加速させ、日本発のアジアのリーディング・カンパニーとして上場を目指している。

―― コロナ禍で学習塾はオンライン化が進んだ。「家庭教師のトライ」の今後の事業戦略は。

赤池 トライグループについても、3~5年かけて上場できる体制を目指す。教育分野は社会的に重要で意義がある。日本は米国、中国など海外に比べると教育のオンライン化が少し遅れ気味だ。まずは国内での基盤の強化に注力し、オンライン化を通じたビジネス展開を進めたい。そのうえで海外展開の可能性も探っていきたい。

5000億円の投資資金

―― コロナ禍はPEファンドの投資に影響しているか。

赤池 コロナによる影響はいくつかある。第一はマクロ経済面だ。各国の金融緩和で金利低下が長期化し、投資家がPEに求める資金運用の期待値が上がっている。

 第二はコロナで企業に事業モデルの変革が起きたことだ。ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮した投資)や脱炭素化への世界的な動きもある。将来どのような事業に注力するのか、経営判断が必要になっている。

 また、高齢化が進む日本では、事業継承の受け皿にPEがなるというケースも増えている。

 第三は株式市場のボラティリティ(変動性)が高まったことだ。企業が株価の大きな変動による悪影響を回避するために、非上場化も含めた動きが起きている。

―― CVCのファンドの運用状況と今後の投資の計画は。

赤池 20年4月にアジアに投資するファンドで5000億円の資金調達を完了した。二桁の数に上る日本の金融機関から投資資金を受けている。投資先は日本、東南アジア、中国、インド、韓国などだ。21年末までには5000億円のうち、半分程度の投資が完了する予定だ。従来よりかなり早いペースだ。1件当たりの投資額に上限は無く、もし数千億円規模の投資案件があっても対応出来る。

(略歴)あかいけ あつし 1972年生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院修士課程修了、米コロラド・スクール・オブ・マインズ鉱山工学博士課程修了。プライスウォーターハウスクーパース、マッキンゼー・アンド・カンパニー、アドバンテッジ・パートナーズを経て、15年CVCに入社、東京オフィス共同代表

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