実験中に詐欺事件も発生した「デジタル人民元」の現実=神宮健
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1兆円に迫る取引金額 実験進むデジタル人民元=神宮健
中国はデジタル人民元の本格導入に向けて動いている。デジタル人民元は法定通貨であり、現金の代替物と位置付けられ、主に少額小売り取引での使用が想定されている。2020年から深圳市などで実証実験が始まり、地域や利用される分野・場面を拡大しながら今日に至っている。足元では、22年2月の北京冬季五輪での利用に向けて準備が進む。
中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁によると、21年10月8日時点で、実証実験は10都市で行われ、実験場面は350万カ所超、利用者がデジタル人民元の指定運営機関(9銀行)で開設したデジタル人民元用の個人ウォレット(電子財布)は累計1億2300万件、取引金額は560億元(約9930億円)となっている。
ここで、現金と同じように使われるデジタル人民元が、現金の持つ匿名性と、マネーロンダリング(資金洗浄)・テロ資金供与等の犯罪防止の間のバランスを、いかに保つかが重要である。この点で、デジタル人民元は「制御された匿名性」を目指す。
第一に、利用者のデジタル人民元のウォレットは、認証情報や開設方法により4クラスに分かれる。匿名性の強い第4類ウォレットは、携帯電話番号のみでリモート開設できるが、残高上限1万元(約17万7000円)、1回の支払い上限として2000元が定められており、少額支払い用となる。認証情報を追加すれば、これらの上限は引き上げられる。第3類(身分証明書を追加)で上限はそれぞれ2万元、5000元、第2類(さらに銀行カード追加)で50万元、5万元、第1類(さらに対面で開設)は無制限となる。
第二に、人民銀行は、認証、登録、ビッグデータの3センターを設置して、情報を中央集権的に管理する。認証センターは利用者の認…
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週刊エコノミスト
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