週刊エコノミスト Online 倒産展望
2022倒産展望 事業支援への転換で淘汰進む=丸山昌吾
2022年の倒産、休廃業・解散展望 資金から本業支援への転換で淘汰進む=丸山昌吾
新型コロナの感染拡大から2年が経過する。2021年には幾度もの感染再拡大が起き、そのたびに緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が繰り返され、特に酒類の提供を伴う飲食店や観光産業は、ほぼ1年間にわたって大打撃を受けてきた。厳しい環境にあったにもかかわらず企業の倒産は抑えられ、1~11月の倒産件数は5514件にとどまり、昨年同期比24・0%も減少。歴史的ともいえる低水準の状況が続いた(図1)。
一方で休廃業・解散も21年は減少傾向が続いた。21年1~9月の休廃業・解散件数は4万1761件で前年同期に比べて3・7%減少した。20年にも年間での休廃業・解散が前年から5・3%減少しており、減少幅こそ幾分縮小しているが、倒産同様に休廃業・解散も小康状態が続いている。
このように新型コロナで景気に打撃を受けているなかでも倒産、あるいは休廃業・解散が減少している背景には、新型コロナ対応融資や助成金、協力金などの支援策が奏功していることがある。水面下では資金繰りが厳しくなっている企業や、先行きの見通しが立たないために廃業を検討している企業は多いだろうが、新型コロナが収まってからの状況を見極めてから経営上の判断をしようと考えている経営者は多いだろう。
過剰債務
21年までは減少傾向が続いてきた休廃業・解散が、22年には増加に転じる可能性が高い。21年9月末で首都圏や関西の大都市圏を中心に発出されていた緊急事態宣言が解除され、それまで休業や時短営業を余儀なくされていた店舗でも次第に通常営業を再開している。営業再開を待望していた経営者にとってはマインド的にはプラスだが、手放しで喜べず、不安を抱えている経営者も多いのではないだろうか。
例えば飲食店は、新型コロナの感染経路として会食時の会話が大きなリスクになるとされてきた。この結果、宣言解除後も引き続き人数制限を行っている店舗も多く、利用する消費者側でも大人数の利用を控える習慣が定着してきている。周囲からも、緊急事態宣言や在宅勤務によって居酒屋を利用する機会がほとんどなくなって、それが今も定着しているという話をよく聞く。
このように利用者数が減ると、必然的に消費者から「選ばれる店」「選ばれない店」が生まれる。飲食店に限らず、もし「選ばれない店」になってしまうとコロナからの売り上げ回復に苦戦し、経営者の事業意欲がそがれてしまう。経済が動き始めるなかで見込んでいた売り上げが確保できなければ、先行きの見通しが立たずに経営者自ら事業継続を断念する休廃業・解散が増加する可能性が高い。
休廃業・解散では、取引先への債務はすべて支払いを済ませることが原則で、倒産と違って取引先で焦げ付きといった被害が生じるケースはない。しかし、得意先を失った取引先では商流の変化や売り上げに影響が出るほか、働いていた従業員は雇用喪失といった問題も生じてしまう。
一方で企業の倒産は、22年に入ってから大幅な増加に転じるとの見方をする人はほとんどいない。引き続きさまざまな支援策が、倒産を抑え込むと見られている。ただ、注目されるのは、企業への支援スタイルが変わってくることだ。
これまでは、ゼロゼロ融資といわれるスピード感をもった大胆な資金支援が企業の資金繰りを支えてきた。だが、新型コロナの感染拡大から期間が経過し、この間の資金支援によって企業の借入金も膨らんできた。
例えば帝国データバンクの財務分析統計によると、借入金の負担感を示す有利子負債月商倍率(借入総額÷月商)は新型コロナ以前に4・4倍だったものが、20年度は5・4倍に膨らんでいる。これは借り入れ負担が増している状況で、なかでも赤字企業の過剰感が高まっているのが顕著となっている。今後はいかに返済を進めていくかが課題となるが、なかなか黒字転換できないような企業にとっては、返済原資を確保するのも困難だろう。
そこで企業に対する支援が、これまでの融資中心の支援から事業を立て直す本業支援を中心としたスタイルに変わってきている。新政権による経済対策などの効果も期待され、赤字から黒字に転換する企業も増えるだろうが、立て直しが進まない企業も少なくないだろう。赤字によって資金流出が続くと、いずれ資金繰りに限界が訪れる。返済条件の変更でしのぐのも限界になれば、最後は倒産といった選択肢しかなくなり、こうした倒産事例が春以降にジワジワと増えそうだ。
後継者不在
このほかにも企業が直面する経営課題はいくつもある。注目されるのは「仕入れ価格の高騰」「人手不足の再燃」「経営者の高齢化・後継者難」がある。
最近ではガソリン価格や原材料価格の高騰を受けて企業の仕入れ価格が大きく上昇している。帝国データバンクの調査では仕入れ単価DIが20年5月に50・5だったものが、21年11月には67・5まで上昇している。一方で、販売単価DIは20年5月の47・1から21年11月に54・8までしか上がっておらず、仕入れ価格の上昇分を販売価格に転嫁できていない(図2)。
そうなると、コストの上昇分を自社で吸収しなければならず収益の圧迫要因になる。同じく人手不足の問題も経済が再開するなかで再燃してきており、人材を確保するために企業は賃金を上げざるを得ず、人件費負担は増す形になる。
また、経営者の高齢化・後継者難はここ数年国を挙げての課題とされており、対応がとられてきた結果、後継者不在率は徐々に低下してきている。しかし、それでも全体の約6割の企業で後継者が不在で、代表の高齢化が進む状況のなか廃業を選択する企業や、債務の整理ができなければ倒産につながるケースも増えてくるだろう。
このように経済が回復基調にあるなかでも、企業の経営課題は数多い。倒産こそ急激な増加は考えづらいが、新型コロナ変異株の感染動向など予測が困難なリスクもあり、企業にとっては今まで以上に柔軟で素早い対応が求められていくだろう。
(丸山昌吾・帝国データバンク)