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日本経済展望 22年央までは一時的に高成長も 後半~23年に再び低成長軌道へ=山川哲史

円安進行と資源高が日本経済の重荷に
円安進行と資源高が日本経済の重荷に

 日本経済は、コロナ禍がもたらした未曽有の需要ショックからの回復途上にある。実質GDP(国内総生産)成長率(以下、成長率)は、2021年7~9月期に前期比年率で3・6%減と、変異株(デルタ型)による感染拡大を背景にマイナス成長へと陥ったが、10~12月期以降の数四半期は反動増もあって表面的には高成長が続く見通しだ。

 バークレイズ証券では21年10~12月期、22年4~6月期、及び7~9月期の成長率をそれぞれ6・3%増、6・7%増、4・1%増と、一時的に潜在成長率(0・8%増前後)を大幅に上回る水準まで加速すると予測している。ただし、22年後半以降は経済対策の効果が後退するにつれ景気減速感が強まり、23年にかけては再び潜在成長率近傍の低成長軌道に収縮する可能性が高い。

 ちなみに22~23年の成長率は、3・4%増(21年実績見通しは1・6%増)、1・0%増に着地、GDPが新型コロナ感染拡大前の水準に復帰する経済正常化のタイミングは欧米主要国から半年~1年遅行する22年4~6月期となる見通しだ(図1)。

米中経済は減速局面へ

 21年10~12月期以降の日本経済の成長をけん引するのは、(1)米国や中国など海外の景気回復(段階的な供給制約緩和を背景とした生産・輸出増)、(2)一連の財政拡大策による景気浮揚効果、(3)ワクチン接種率上昇などを背景とした過剰貯蓄解消(待機需要の顕現化を含む個人消費回復)の3点だ。ただし海外経済に関しては、新変異株(オミクロン型)による感染再拡大もあり、徐々に減速感が強まりつつある。

 米国では、感染拡大に加えインフレ圧力の高進を背景に米連邦準備制度理事会(FRB)が「購入資産の減額」から利上げへと移行(22年3月に利上げ開始、22年、23年中にそれぞれ3回の利上げ実施を予測)する中で、22年後半には景気減速が一段と鮮明化することが予想される(成長率予測は22年が4・0%増)。

 一方中国でも、恒大集団問題を発端とした不動産価格の下落、及び脱炭素政策などの影響による電力不足を背景に、22~23年の成長率は政府目標の引き下げとともに5%増前後まで低下する見通しだ(成長率予測は22年が4・7%増)。米中経済は、景気失速には至らないまでも、世界経済に対するけん引力は「V字型回復」を遂げた21年からは大きく後退する。

 国内に目を転じると、岸田文雄政権の下で組成された今回の大型経済対策(以下、対策)については、以下の理由からその景気浮揚効果は限定されるだろう。同対策は総額55・7兆円(うち国費が対GDP比率で8・1%の43・7兆円)と既往最大規模の財政支出を含むが、成長率に対する押し上げ効果は政府試算の5・6%増を大幅に下回る2~3%増程度にとどまる可能性が高い。

 第一に、対策における新規の国費(「真水」)支出の規模が、実体以上に水増しされている点だ。上記の国費には、20年度当初予算の一部、及び余剰金が含まれている。さらに20年度予算における翌年度以降への繰越額は30・8兆円(歳出総額に占める比率は16・9%)、不用額は3・9兆円(同2・6%)に達するなど、予算規模が肥大化するに伴い、消化率の低下も顕著となっている。今回の対策に関しても非効率な予算執行により、その効果が低減することも予想される。

 第二に、対策の柱となる家計に対する現金給付については、その過半が過剰貯蓄として家計バランスシート上に滞留する可能性が高い点だ。対策における子育て世帯への現金給付などの家計支援策は6兆円規模に達するが、過去の給付時における経験(給付額のうち消費への還流分は30~40%)を前提とする限り、その乗数効果も上記の通り政府試算を大幅に下回る見通しだ。

要を欠いた成長戦略

 第三に、対策では現金再給付といった「分配」政策を中心に、その効果が一過性にとどまる施策が目立ち、中長期的な潜在成長率底上げにつながる成長戦略に対応した支出が限定されている点だ。成長戦略関連では、大学ファンド設立による研究支援、経済安全保障のための半導体生産拠点誘致などの項目が総花的に並んでいるが、その実効性は不透明だ。この間政府は、「分配」政策を強化することで「成長と分配の好循環」の実現を標ぼうし、賃上げ企業に対する税制優遇策拡充などの施策を打ち出しているが、平均的な賃金上昇率に対する…

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