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レコード購買が拡大、ネット世代の若者はアナログ好き=ジェイ・コウガミ

    音楽 ブーム再来 レコード市場が世界的に復活 「アナログ」好きの若者が急増=ジェイコウガミ

     アナログレコードの売り上げが伸びている。国内レコード市場は1980年の1812億円(生産額、以下同)をピークに減少が続き、2010年は1億7000万円まで落ち込んだ(図1)。しかし、以後は徐々に回復し(図2)、18年以降は毎年20億円台で推移している。レコード製造会社も東洋化成1社にまで激減したが、18年にソニー・ミュージックエンタテインメントが再参入し、国内2社体制となっている。レコードを含む音楽ソフト全体(CD、音楽ビデオなど含む)では、98年の6074億円をピークに減少傾向が続き、20年は1994億円と2000億円台を割り込んでいる(図3)。

     レコード市場の復活は、日本だけでなく、過去10年以上続く世界的なトレンドとなっており、全世界を合わせると、20年までの14年間、売上高は前年比プラスが続いている。ちなみに米国では、コロナ禍にもかかわらず、レコードの売上高は15年連続で伸びており、20年には音楽CDの売上高4億8300万ドルを抜く、6億2600万ドルを売り上げた。

    オンライン拡大

     レコード人気の復活には、インターネット通信販売や同動画、SNS(交流サイト)など、デジタル技術の興隆も一因となっている。レコード店舗や同流通業者、個人のレコード販売者などは、オンライン上でのレコード売買に積極的に取り組んでおり、最近では特にフリマサービス(オンライン上で個人間で売買できるアプリケーション)を利用した、中古レコード売買が人気だ。

     欧米では、アマゾンやイーベイ(eBay)などに、世界のレコードストアや流通業者が中古レコードを出品、販売しており、日本ではまだないが、フェイスブックのフリマサービス「Facebook Marketplace」でも中古レコード売買が行われている。

     最も有名なレコードのオンライン売買サイトは、世界最大の音楽情報サイト「Discogs(ディスコグス)」で、CDやレコード5億枚分以上の作品情報を掲載している。中古レコード販売業者やレコード愛好家が多数アクセスしていることでも知られている。20年は、Discogs経由で1196万枚以上(前年比40%増)のレコードが販売された。最近はレコードに限らず、CDや音楽カセットテープの人気も高まっているという。

     日本では、小規模な事業者でもオンラインショップを比較的簡単に開設できるサービスが普及し始めたことを背景に、ショップを開設したり、ネット通販の「楽天市場」や「アマゾンジャパン」に中古レコードを出品(販売)する動きが活発だ。個人レベルでも、「ヤフオク」や「メルカリ」などのオークションサイトやフリマアプリを利用した中古レコード売買が盛んだ。Discogsのサイトでは、日本からも中古レコードが出品、売買されている。

     小売り店舗の出店も活発だ。小売り大手のタワーレコードは、21年9月に約7万枚の在庫を持つレコード専門店を渋谷にオープンしたほか、レコード流通大手のディスクユニオンも同年にロック専門のレコード店を渋谷に出店した。同社はレコードブームを背景に新規出店を続けており、全国に58店舗を展開している。

     音楽アーティスト側もレコード盤を販売する動きが出始めている。宇多田ヒカルは18年のアルバム「初恋」からアナログ盤の発売を再開したほか、同年には29年ぶりにアナログレコード製造を再開したソニーミュージックから、「EIICHI OHTAKI Song Book Ⅲ 大瀧詠一作品集Vol.3『夢で逢えたら』」が販売された。以後も山下達郎、LiSA、スピッツ、竹内まりや、桑田佳祐などが続々とアナログレコードを発売しており、21年は宇多田ヒカルの「One Last Kiss」が約4万枚を売り上げ、アナログレコード販売数で首位となっている。

    「Z世代」が中心

    中古レコード店には幅広い年齢の愛好家が集まる
    中古レコード店には幅広い年齢の愛好家が集まる

     新・中古を問わず、レコード購入に積極的なのは、いわゆる「Z世代」(90年代後半から00年代生まれ)と呼ばれる若者層だ。彼らは動画サイトやSNSを通じて、自由に好きな音楽コンテンツを見つけて、その後にレコードを購入することが多い。

     彼らに人気のレコード作品を見ると、音楽専用サイト「Spotify」やアップルミュージック、ユーチューブなどで人気が高く、かつSNSでも人気、影響力のあるアーティストのレコードが多い。例えば、テイラー・スウィフトやビリー・アイリッシュ、アデル、日本では藤井風などのポップ・アーティストだ。

     例えば、欧米で20年に最も売れたレコード曲は、英国のロックバンド、フリートウッド・マックが67年にリリースした「噂(うわさ)」だったが、同バンドの曲が動画のTikTokで紹介、拡散されたのが、売れた契機だった。

     日本でもユーチューブやTikTokを中心に80年代の国内シティポップが人気(再生回数増)で、竹内まりやの「PLASTIC LOVE」、松原みきの「真夜中のドア/Stay With Me」などが動画サイトで多く再生されており、海外でも人気を呼んでいる。こうした人気と重なるように、日本のシティポップやアニメ、ゲーム音楽の中古レコードを購入する愛好家が国内外を問わず増えている。

     以上のように、現代の若者層は、音楽のサブスクリプション(定額課金)サービスで聴いた音楽やSNSで共感するアーティストの音楽を、レコードで購入するという行動が見られる。彼らはザ・ビートルズやクイーンの現役時代は知らないが、デジタル技術のお陰で、動画やSNSを通じてそれらを知ることができる。つまり、彼らのような「デジタルネーティブ世代」は、中古レコードと文化的な親和性が高いということがいえる。

    コレクションだけの人も

     また、レコード購入の動機として、物理的な所有欲や「プレミアム感を満たしてくれる」といった点があるのも見逃せない。デジタルを通じた娯楽で育った若者にとって、レコードやアナログ音楽機器は、初めて手にするエンターテインメントの物理的なメディアだ。彼らにとって、その購入体験は新鮮な高揚感をもたらすと同時に、コレクション的な価値が個人のライフスタイルを示す上でのステータスにつながっている。

     彼らにとってレコード購入は、ファッションやインテリア雑貨を買うイメージに近いといえよう。米国では、人気ライフスタイルショップの「Urban Outfitters」ほか、ウォルマートといった大手チェーンストアにレコード売り場があり、レコード購入者の中には、コレクションするだけで一度も聴いていない層も多いという。

     最近のレコード購入層は、従来のレコード愛好家のような、音質への徹底したこだわりが少なく、高額な音響機器を購入しようとはしない。米国では、100ドル以下のカジュアルな音楽プレーヤーが売れており、レトロ調デザインや木目調ビンテージ家具風で、USB・スピーカー内蔵型といったスマートフォンとも親和性が高いプレーヤーが人気で、レコードと抱き合わせて買う人も多いという。

    工場はフル稼働

     レコード人気が高まる一方で、中古レコードの市場規模は把握されておらず、レコード店舗や同買い取り業者は売り上げ・買い取り枚数を公表していない。相場・販売価格は常に変動的であり、高額転売などの問題も出ているという。レコードストアや流通業者がオンライン売買に力を入れる一方で、レコード制作会社は利益率の高い高単価レコードの販売に乗り出しているようだ。レコード製造側は、国内外を問わず工場はフル稼働状態といわれている。

    「レコード購入体験のオンライン化」は、店舗での購入体験を好むファンを遠ざけるわけではない。むしろ、その逆で、オンライン販売は所有欲を満たしたいデジタル世代の需要に合致しやすく、これまでレコードと接点のなかったデジタル世代に、レコード購入の魅力を提供する手段となり得ると考える。レコードブームは今後も続いていくものと思われる。

    (ジェイコウガミ・デジタル音楽ジャーナリスト)

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