中国が「我々も民主」と強くアピールする理由とは=岸田英明
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米国が描く対立構造を否定 「我々も民主」とアピール=岸田英明
中国政府が2021年12月4日に「中国の民主」白書を、5日に「米国の民主状況」報告書を相次いで発表した。白書は中国の選挙制度や多党協力、自由・人権の状況を、自賛を交じえて紹介。報告書は、金権政治やエリート主義といった米国の民主主義が抱える「持病」や、アフガニスタンなどへの民主主義「輸出」の失敗例を批判的に論じている。中国は両文書とも、米国主催の「民主主義のためのサミット」(日本時間12月9~10日)直前に、中国語と英語版を同時に公布しており、対米けん制と国際社会向けのアピールの意図は明白だ。
白書の主なメッセージは「民主は全人類共通の価値観である」「ただしその形態は一つではなく、各国の国情に応じたさまざまな形がある」「中国もそうして民主を発展させてきた」などである。中国は白書を通じて、米国が描く「『自由民主主義諸国』対『権威主義中国』」という構図を否定し、「多様な形の民主の共存」を訴えようとしているようだ。
しかし、リベラルデモクラシーを是とする国々にこの主張を受け入れさせるのは困難だろう。それは、(1)「中国の民主」が制度・実態の両面において、欧米の民主主義とは大きく乖離(かいり)していること、(2)白書の一部の内容が明らかに事実に即さないこと、(3)「中国の民主」の具体的な発展方向が示されていないこと──などのためだ。
(1)について、白書は中国の「民主選挙」の制度や実施状況を紹介しているが、実際は普通選挙(全ての市民による直接選挙)も自由選挙(審査なく、誰でも、何人でも立候補が可能)も限られた形でしか行われていない。また多党協力といっても、白書に「八つの民主党派は中国共産党の領導を受け入れる」とあるように、民…
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週刊エコノミスト
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