新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

国際・政治 エコノミストリポート

中国の房産税は「日本の固定資産税に当たる」とは言えない ではその本質とは=徐一睿

よほどの高級住宅街でなければ房産税は課されない(上海市) Bloomberg
よほどの高級住宅街でなければ房産税は課されない(上海市) Bloomberg

格差広がる大国 住宅保有に課税試みる中国 「富裕税」の色合い濃く=徐一睿

 2021年、中国の不動産大手・恒大集団が経営難からデフォルト(債務不履行)危機に陥り、中国経済の大きな不安定要素となっている。その一方、習近平政権は、目下、最も重要な政策方針として「共同富裕」を唱え、住宅価格の高騰から生じる社会問題の是正に力を入れようとしている。

 住宅価格の高騰によってもたらされる資産効果の恩恵は富裕層に限られ、中間層、特に若者を中心に、住宅ローンを組む人々の家計を圧迫し、個人消費を抑制する要因となっている。住宅ローンにより生活に余裕がなくなる人は、「房奴」(住宅の奴隷)と呼ばれている。住宅価格の高騰で、住宅の取得を諦め、結婚や出産に消極的になる、いわゆる「躺平(タンピン)族」(寝そべり族、横たわり族)は社会問題に発展した。習近平政権は繰り返し、「住宅は住むためのものであり、投機の対象ではない」と発信しており、住宅価格の抑え込みに意欲を見せている。ここで注目されるのが、住宅の保有段階に課税する房産税の導入だ。

土地譲渡への財政依存

 中国の不動産に関連する税体系は非常に複雑であり、開発、取引、保有、譲渡の4段階にそれぞれの税制が敷かれている。開発段階に耕地占有税、取引段階では土地増値税と契税、保有段階では土地使用税と住宅を対象とする房産税、譲渡段階では、増値税と所得税が課せられる。開発段階、取引段階、保有段階の税収は地方の税収であり、譲渡段階に課せられる増値税と所得税は中央政府との共有税である(図1)。

 中国の不動産関連税制の特徴の一つとして、税収は開発・取引・譲渡段階に依存し、不動産の保有、特に住宅保有に対する税制の整備は遅れていることが挙げられる。さらにもう一つの大きな特徴として、一般会計とは別に、土地使用権譲渡金という基金収入(特別会計)が地方にとって極めて大きい収入源となっていることがある。

 土地使用権譲渡金とは、政府が土地使用権をデベロッパーに譲渡(実質的には期限を区切った賃貸)し、代金としてデベロッパーが政府に納付する契約期間内の土地使用料のことである。20年の地方政府の特別会計にあたる土地使用権譲渡金の収入は8兆2098億元(当時のレートで123兆円超)に達し、開発段階、取引段階と保有段階の不動産関連税収総額の1兆9687億元をはるかに超える金額であった(図2)。土地使用権譲渡からの歳入は国の都市化にとって極めて重要な財源であり、「土地財政」と呼ばれるゆえんだ。

価格抑制効果薄く

 上記のような不動産関連税制の中にあって、住宅などの建物不動産の保有段階に課される房産税は、いまだ、一部の都市における社会実験にとどまっている。房産税が整備されたのは1986年にさかのぼる。同年9月15日、国務院から「中華人民共和国房産税に関する暫定方法」が発表され、同年10月1日に施行された。当初、房産税の課税対象は中国に不動産を持つ外国企業や現地駐在員であった。その後、特定の都市における住民を対象とする制度へ変更するには、2011年まで待たなければならなかった。

 11年に、上海市と重慶市はそれぞれに房産税実験に関する「暫定方法」を発表し、社会実験を開始した。日本では、房産税を「中国の固定資産税」と紹介することが多い。確かに、住宅の保有段階に課税するという意味で固定資産税の要素がうかがえる。しかし、房産税は、日本の固定資産税と全く異なる考え方に基づく税制であることを強調しなければならない。

 日本の固定資産税は固定資産(土地、家屋及び償却資産)の保有と、市町村が提供する行政サービスとの間に存在する受益関係に着目し、応益原則に基づき、資産価値に応じて、すべての所有者に対し課税する財産税のことである。特定の地域に固定資産を保有すれば、その地域に納税義務が発生する。しかし、中国の房産税は、都市部住民の住宅を課税対象とし、農村部住民の住宅には課税されない。住宅保有の課税条件も相当限定的である。

 上海市と重慶市の課税条件を見てみよう。前提として、中国の住宅事情から見れば、ほと…

残り1708文字(全文3408文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)が、今なら2ヶ月0円

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事