バイデン大統領が中間選挙で「敗北濃厚」な深刻事情=前嶋和弘
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就任1年のバイデン米大統領 インフレ、造反で支持率低迷 「敗北濃厚」な今秋の中間選挙=前嶋和弘
「国の中に多くの不満と疲労感があることは承知している」──。バイデン米大統領は1月19日、政権発足から1年の節目に演説し、雇用状況の改善などの成果を挙げながらも、国内に課題が山積していることを認めた。バイデン氏は、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」が広がる中で、「パニックは起きていない」と強調するとともに、もう一つの課題に挙げたインフレについては、供給網の混乱解消などを通じて沈静化を図る考えを力説した。
だが、就任から丸1年の節目となったこの日、バイデン氏自身は強い徒労感に襲われたのではないか。というのも、同日の連邦議会上院で、バイデン氏が強く推進してきた投票権擁護に関する2法案の可決が絶望的になったからだ。
バイデン政権と与党・民主党は、人種マイノリティー(少数派)の投票の機会を広げる「投票の自由法案」と、各州で進む投票ルールの変更について司法省の監督権限を拡充する「ジョン・ルイス投票促進法案」の二つの連邦法の制定を目指してきた。米国の各州で投票を制限する州法が広がる動きに対抗するのが狙いだ。
ニューヨーク大学ブレナン司法センターによると、米国では2021年に郵便投票の利便性の縮小、投票の時間や場所の制限、身元確認の強化など34の規制法が19の州で施行された。テキサスやジョージアなど共和党が地盤とする南部で顕著だ。
連邦議会の現有議席は、上院では民主と共和が同数で拮抗(きっこう)(図1)。上院の法案採決で同数の場合にはハリス副大統領(民主党)の票が加わるため、辛うじて多数となるものの、歳入・歳出以外の法案は60票の賛成がないと可決できない。これを担保するのが上院独自のルールである「フィリバスター(議事進行の妨害)」で、41票あれば59票を止めることができる。
民主「下院はもうダメ」
政権・与党民主党は、同ルールを投票権関連の2法案には適用しないよう画策してきた。過半数で決まる連邦議会下院は民主党が多数派であり、上院で可決すれば2法案は成立の運びとなる。しかし、民主党のマンチン(ウェストバージニア州選出)、シネマ(アリゾナ州選出)の両上院議員が1月19日、ルール変更に同調しなかった。
就任1周年に先立つ1月11日、バイデン氏は南部ジョージア州で演説し、「投票権は民主主義の出発点だ。上院のルールを変更して、少数派が法案成立の妨害をできなくするのだ」と強調して、2法案の成立に並々ならぬ意欲を示していた。それだけに2法案の成立が絶望的になったことは、政権には大きな打撃になったに違いない。
投票権2法案成立にバイデン氏が執念を燃やした理由は、それが今年11月の中間選挙に大きく影響する可能性があるからだ。しかし、2法案が成立したとしても、「負ける程度を小さくする」効果しか得られなかったかもしれない。
中間選挙では下院は全435議席、上院は定数100の3分の1に当たる34議席が改選の対象になる。上院で改選34議席は20議席が共和、14議席が民主のそれぞれ現有だが、引退予定の議員が共和で5人に対して民主は1人。現職が圧倒的に有利という経験則が共和党側に当てはまらないため、民主党がギリギリ50議席を維持する可能性は残っている。
一方の下院は、「もうダメだろう」との見方が民主党内部でも支配的だ。22年中間選挙において、10年に1度の各州への議席数配分の見直しが影響している。20年実施の国勢調査に基づいて、各州に割り当てる定数が変更される。今回変更になるのは全体では7議席。米国の人口は、南部での増勢が北部を上回っており、南部州を中心に議席が増えるので、共和党に追い風となる。例えばテキサス州で36議席から38議席に増える予定だ。
テキサスをはじめ南部諸州では知事、州議会とも共和党優位であり、連邦下院議員を選出する選挙区の区割りを決める権限は多くの州で州議会が握る。その際に選挙区を恣意(しい)的に線引きして自党に有利にすることが米国では古くから行われてきた。これ…
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週刊エコノミスト
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