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鉄道ファン、欧州の若者が大注目 待望の「中国ラオス鉄道」=酒井元実

中国から導入された電車 古賀俊行氏撮影
中国から導入された電車 古賀俊行氏撮影

ラオス 観光振興に期待 鉄道ファン、欧州の若者が熱視線 待望の「中国ラオス鉄道」開通=酒井元実

ラオスに鉄道ができた、というニュースに触れて、作家・村上春樹が書いた『ラオスにいったい何があるというんですか?』というタイトルの紀行文集を思い浮かべた人もいるかもしれない。しかし、実際に現地への訪問歴がある人を見つけるのは難しそうだ。というのも、東南アジアの内陸にあるラオスは交通アクセスが不便で、隣接するベトナム、タイと比べても旅行者数が極端に少なく、「アジア最後の秘境」といわれることもある。そんなラオスの国土を縦断する鉄道が完成したとあって、鉄道ファンや旅行先として欧州の若者などから注目を集めている。

移動時間は5分の1

LCRの開通区間はラオスの首都ビエンチャン─中国との国境につながる全長約400キロ。運行列車の最高時速は160キロ。名称に「中国」の文字が入っているが、LCR自体はラオス側区間のみを指す。ただし、隣接する雲南省内区間も同時に鉄道が建設されたことから、中国では、関係する国名、都市名の頭文字をとって「中老昆万鉄路(老はラオス、万はビエンチャン)が全通」という報じられ方をしている。

 鉄道整備はラオス国民の悲願でもあったが、採算性の問題などから建設が見送られていた。そんな中、鉄道の敷設に手を貸したのが中国だった。広域経済圏構想「一帯一路」のスローガンを掲げる中国は、インフラ開発に立ち遅れている国々で港湾や道路、鉄道などの建設を進めてきた。ラオスでの鉄道敷設も「一帯一路」の一環で、LCRの開通によって中国国内の鉄道網と直結することになった。

コロナ禍の影響で2022年2月現在では旅客は中国とラオスを行き交うことはできない。LCRの南端となる首都ビエンチャン駅は隣接するタイとの国境から10キロほどしか離れていないため、中国はラオスに鉄道を通すのと同時に、東南アジア諸国連合(ASEAN)でも有数の経済力を持つタイへの陸路ルートを実質的に確保したことになる。

 LCRの開通により、ラオス国内の移動は圧倒的に便利になった。ラオス最大の見どころは世界文化遺産にもなっているルアンパバーンという街だ。ビエンチャンから300キロほどの距離にあり、バスで10時間近くの移動時間を要するが、LCRを利用すれば2時間以内でアクセス可能だ。

 これまで外国人観光客がルアンパバーンを目指すにはビエンチャンもしくは近隣国から小型のプロペラ機で飛ぶか、悪路にあえぎながらバスで行くかしか方法がなかった。ラオスの観光事業に新しい鉄道が大きなインパクトを与えることは間違いない。ちなみに、ビエンチャン─ルアンパバーン間の鉄道料金は日本円換算で2000円ほどで、現地の物価水準では「一般庶民にはなかなか手が出ないのでは」という声もある。

 そのほか、従来であればトラックで50時間程度かかっていた雲南省の昆明からの貨物陸送(約1000キロ)が、鉄道利用により半分以下の所要時間に短縮された。

アジア最後の秘境

ラオスから遠く離れた欧州の鉄道ファンたちもLCR開通のニュースに沸き立った。日本人にとっては意外かもしれないが、厳しい欧州の冬を避けたい欧州の人々にとって、東南アジアでの避寒リゾートの旅は昔から根強い人気がある。

 加えて、環境意識の高まりから、欧州では二酸化炭素を多く排出する航空機による旅行を避ける動きがあり、欧州各国の鉄道会社ではこうした需要を取り込もうと長距離夜行列車を復活させる動きが広がりつつある。そんな流れもあり、英国では、一般紙のコラムに「ラオスの鉄道開通で、欧州の南西端ポルトガルからシンガポールまで3週間で行ける」という記事も掲載されたほどだ。

 また、「新卒で企業に就職する」という仕組みが日本ほど体系化されていない欧州では、ギャップイヤーと称して入学前や卒業後に半年、1年といった期間、異文化体験を目的に海外に出かける学生が少なくない。ラオスを含むインドシナ諸国はそういった「アジア最後の秘境」を目指す若者の目的地にもなっている。彼らにとって、LCRを利用したアジアへの旅は魅力的に映る…

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週刊エコノミスト

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