拡大するプライベートジェット市場で日本が乗り遅れる理由=戸崎肇
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航空 コロナ禍の移動手段 普及期のプライベートジェット 日本は発着枠や保有費用に課題=戸崎肇
「2017年以来小型ジェット機カテゴリーで4年連続世界1位のデリバリー(納機)を達成し、飛行性能、機内の快適性が高く評価された」
21年12月、ホンダの航空機事業子会社、ホンダエアクラフトカンパニー(米ノースカロライナ州)の藤野道格社長は200機目のデリバリー達成を発表した。世界13カ国で飛行許可証明を受けており、総飛行時間は9万8000時間以上となった。
コロナ禍の「密」を避けるため、欧州を中心にこうした小型の飛行機、プライベートジェットを利用する人が増えており、世界で市場が拡大すると予想される(図1)。
ホンダが米で量産へ
これに対して日本の場合はどうだろうか。実は、コロナ禍前からプライベートジェットに注目しようという動きはあった。
政府が成長戦略の一つとして位置づけたインバウンド政策の成果がピークとなった19年には、インバウンドが増加し過ぎる「オーバーツーリズム」の弊害が、全国の観光地で表れるようになった。日本人の日常生活の場となる市場や交通機関などが大混雑し、これに伴い地価や家賃も上昇した。インバウンドの「数」の多さを追求するのが本当に望ましいのか、という問い直しが起こり、「数」から「質」への転換を図るべきだという主張が次第にみられるようになった。そして、より多くのお金を日本で費やしてくれる観光客、つまり富裕層を積極的に取り込んでいこうという主張がなされるようになった。これは、マカオなど観光先進地域で既に採用している戦略である。
今後、コロナ禍が収まり、再び観光による経済効果を期待するのであれば、オーバーツーリズムによって得られた教訓から、富裕層の取り込みに本腰を入れるべきだろう。これは海外の富裕層だけではなく、国内の富裕層に対しても同様である。その移動目的は観光だけではなく、ビジネスも含む。そのための重要なツールが、プライベートジェットである。
プライベートジェットは航空機製造の面でも注目すべきである。ホンダは時代に先駆けてプライベートジェットの生産に挑戦した。ただ、開発しても製造しているのは米国で、2015年に米当局から飛行許可証明を受けた。ホンダジェットは乗客乗員8人、航続可能距離は2661キロ。同クラス(最大離陸重量5670キロ以下の小型双発エンジン搭載機体)で、世界トップの納機ができるまでになり(図2)、さらに量産態勢だ。翼の上にエンジンがあるため、比較的静かで機内空間を広く確保できるということが評価された。そして、21年10月に米国で開かれたビジネスジェットの商談会で、ホンダはサイズを大きくした乗員乗客最大11人の新型コンセプト機を参考展示した。
航空機市場での競争力を高めることができれば、部品生産など裾野の広い関連産業も発展する。市場が拡大すれば、当然国内で製造しようという機運にもなり得る。それは部品などの生産や組み立てなどの雇用増大など、地方に大きな経済波及効果をもたらすことにもなる(図3)。
大都市空港で使いにくい
課題は、日本でプライベートジェットを受け入れる環境がまだ整っていないことだ。
企業にとってプライベートジェットを保有することは、それだけ迅速な経営ができているということで社会的に評価されるべきである。ただ、日本企業は実際にプライベートジェットを所有していても、その事実を公表したがらない。株主から「無駄な投資をしている」と非難されるのを恐れているからだ。それには国民の意識の問題もある。プライべートジェットというと一般人にとっては縁遠いものであり、自分の生活に全く関係がないものと思われている。つまり関心がないため、導入に向けた議論が進まない。むしろお金持ちのおもちゃのようなもので、「税金をはたいて特別扱いはまかりならない」と考える風潮がある。
それ以外にも保有を難しくする要因がある。第一は駐機するスペースが地方空港であれば、ある程度確保できるものの、羽田空港など大都市空港では難しいことである。特にビジネス利用の場合は基…
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週刊エコノミスト
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