国際・政治エコノミストリポート

「縮原発」から再び「推進」へ 再エネに出遅れたフランスのやむにやまれぬ事情=久野華代

フランスのフラマンビル原発で建設中の欧州加圧水型炉(EPR) Bloomberg
フランスのフラマンビル原発で建設中の欧州加圧水型炉(EPR) Bloomberg

マクロン大統領の“変節” 再エネに出遅れたフランス 「縮原発」から「推進」へ一転=久野華代

 フランスのマクロン大統領は2月10日、2050年までに原発を国内で最大14基、新規増設すると表明した。東京電力福島第1原発事故以来、「縮原発」の方針を維持してきたフランスの「方針転換」が確実になった。

 マクロン氏はこの日、東部ベルフォールの原子炉関連工場で、巨大な発電用タービンを背に、作業服姿の従業員らに向かって宣言した。「この10年間、原発は世界的に『氷河期』だった。『フクシマ』の重大な事故のためだ。ある国は原発に背を向けるという極端な選択をした。だがフランスはその道を選ばなかった。今こそ、原発ルネサンスの時だ」。

 地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は、産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑えるという目標を掲げる。フランスも50年にカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を達成すると明言している。その手段として、発電時に二酸化炭素(CO2)を排出しない原発をエネルギー政策の中心に据える決定を下したのである。

 フランスは、国内の発電量の7割を原発に依存する原発大国だ。だが、07年から原発の新規着工は途絶えている。11年の福島原発事故を受け、左派のオランド前大統領が原発依存率を25年に50%に引き下げる「縮原発」を掲げたことが理由だ。中道のマクロン氏も17年の大統領選で、この路線を継承して当選した。18年には、当時稼働していた58基のうち14基を35年までに廃炉にすると表明。オランド氏の掲げた時期は25年から35年に後退させたものの、原発依存率を引き下げる目標は維持した。

建て替えではなく増設

 今回のマクロン氏の方針転換の中で、フランス国内で特に驚きを持って受け止められたのは、現在稼働中の全原発を廃炉にせず、運転期間を現行のおよそ40年から50年超に延長できるよう規則の見直しを行うとした点だ。フランスの原発は1970年代後半から90年代前半に集中して建設されたため、これから徐々に耐用期限を迎える。老朽原発を最新型原発に建て替える「リプレース」ではなく、純粋な増設によって原発の発電量の増強を目指すというのである。

 計画によると、28年までに最新鋭原発「欧州加圧水型炉(EPR)」6基を着工し、35年をめどに稼働。費用総額は6基で500億ユーロ(約6兆6000億円)を見込む。可能であればさらに8基を追加し、50年に最大14基とするもくろみだ。出力が小さく、安全性が高いとされる小型モジュール炉(SMR)の開発も進め、50年までに2500万キロワットの発電を目指すという。

 この時期に大規模な計画を打ち出したのには、今年4月に大統領選を控えているという事情もある。マクロン氏は再選出馬が確実視されており、4月の大統領選に向けた世論調査では、支持率で首位を走る。本人もメディアのインタビューなどで再選への意欲を語っている。

 2月10日の演説では、EPRの建設で原発産業の大規模な雇用の維持・創出が可能だと強調。同時に、再生可能エネルギーへの大規模投資も表明し、50年までに4000万キロワットの洋上風力と、1億キロワットの太陽光による発電を目指して「化石燃料依存を脱却する」と訴えた。フランスにおける原発産業は、約20万人の従業員を抱える国の基幹産業だ。一方で、国民の間で気候変動問題への関心も高い。マクロン氏には、雇用と気候問題への対策強化を同時に打ち出すことで、左右の党派を超えた幅広い支持を取り付ける狙いがある。

「黄色いベスト」の記憶

 大統領選を控えているとはいえ、一度は「縮原発」路線を引き継いだマクロン氏が、事実上の「原発推進」ととれる方針を打ち出した背景には何があるのか。

 フランスは長く原発に依存してきた分、再エネの開発や導入に出遅れている。洋上風力発電はオランダやベルギー、英独などで20年に新たに計約300万キロワットが導入されたが、フランスは実績ゼロ(業界団体「ウインドヨーロッパ」調べ)。電気自動車などの普及が進む中、電力需要は今後、大きく膨らむとみ…

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週刊エコノミスト

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