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週刊エコノミスト Online

《緊急特集》プーチン失脚のカウントダウンが始まった ロシアの孤立と国内経済の悪化が打撃に

ウクライナから脱出しようとする人で込み合う首都キエフの中央駅 Bloomberg
ウクライナから脱出しようとする人で込み合う首都キエフの中央駅 Bloomberg

 ウクライナ侵攻は、プーチン政権にとっても致命的な打撃になる可能性がある。ロシア経済の悪化や、周辺の中央アジア国の政情不安などが大きな影響を与えるだろう。ロシア大使館公使、ウズベキスタン大使などを務めた外交アナリストの河東哲夫氏に聞いた。(聞き手=桑子かつ代・編集部)

── ロシア軍が予想以上の強い反撃をウクライナ軍から受けているとの報道がある。

河東 首都キエフに向かいロシア軍の車両が列を作って進んでいるとの報道を見るが、脆弱な戦術ではないか。もし、列の中の一台が破壊されたら、後ろが動けなくなり、ウクライナ軍に攻撃される。軍の進行としては稚拙に見える。

 一方、現地からの情報が少ないので、ハリコフやキエフがどれだけ危ないのか、本当のことは誰にも分からない。もしロシア軍が優勢で勝ったとしても、その後、大軍をウクライナに張り付けないとダメだろう。ゲリラ戦へのロシア軍の負担は大きい。

 ロシアの地上軍は全部で35万人程度で、そのほかに国内の治安部隊がある。35万人のうち、実戦経験があるのは10万人くらい、あとは警護などだ。たとえ、ウクライナに勝ったとしても、その後、ウクライナに5万人程度を常駐する必要があるだろうが、人数は無制限にあるわけでない。

カザフスタンも火種

── ウクライナ以外の周辺国でも問題が予想されている。

河東 プーチン大統領は旧ソ連諸国をロシアの影響下に置こうとしており、政情不安に対してロシアから軍を派遣している。アルメニアに5000人、タジキスタンにそれぞれ5000人が常駐している。

 カザフスタンの動向にも注目している。カザフスタンは1月に国内暴動が起こり、ロシアが治安維持のために軍を派遣した。しかし、そんなカザフスタンが今回ウクライナへの軍の派遣を断った。一方、カザフスタン北部にはロシア人が多く住んでいる。ロシア人保護という理由で、ロシアが何か動くかもしれないとの報道が海外ではすでにある。独裁政権のトルクメニスタンでも3月12日に大統領選挙がある。旧ソ連共和国には政情不安の火種がある。

プーチン大統領は戦争犯罪人と非難するウクライナの広報資料
プーチン大統領は戦争犯罪人と非難するウクライナの広報資料

中国はロシア支援に慎重

── ロシアと中国は良好な関係だが、今回は違うのか。

河東 ウクライナ危機でのロシアに対し、中国は腰が引けている。中国はウイグルやチベットの分離問題を抱え、それぞれが独立国家となると困るため、東ウクライナの独立を支持してこなかった。今回はロシアが外国であるウクライナに侵攻しているという意味でも、中国が支持する理由がない。

 中国は台湾を自国の領土と思っているから、併合支持を取り付けたいと考えている。ロシアの孤立化をみて、米国にすり寄って点数を取ろうと思うかもしれない。中国には「水に落ちた犬は叩け」ということわざがある。中国の一般の格言だ。

── プーチン政権はロシア国内で高い支持を持ち続けるのか。

河東 そうではないだろう。ロシアの国内の戦争反対運動があれだけ激しく起きたのは注目だ。プーチン政権は今、岐路にある。

 大帝国というものは、第二次世界大戦で時代遅れになった。それなのにロシアだけが頑張っている。ロシアにとりウクライナは政治的、経済的に一番大事な国だ。だから、ウクライナだけは西側に渡さないと必死だ。

ロシア侵攻前のキエフの独立広場
ロシア侵攻前のキエフの独立広場

次期大統領選の前に政変も

── プーチン大統領は24年の次期大統領選で5選を狙っているが、影響はあるか。

河東 次期大統領選の前に引きずり下ろされる可能性もある。今後、世界で孤立することと、欧米からの経済制裁で国内経済は大きなダメージを受けるなどさまざまな要因がある。今回ロシア中央銀行は金利を9・5%から20%に引き上げたが、20%でも通貨ルーブルを防衛できないだろう。1998年のロシア・ルーブル暴落を彷彿させる。深刻なインフレに陥る可能性がある。そうなると、原油高による経済成長というプーチン政権を支えてきた構図が一挙になくなる。ロシアの知人からも今回の軍事侵攻に反対するメールが来ている。

── 失脚後は民主的に選ばれる指導者が生まれるのか。

河東 そうした動きは起こらないだろう。旧ソ連国家保安委員会(KGB)でプーチン大統領の同僚だった側近者、シロビキと言われる人達が新たに出てくると思う。ロシアのような大きな国を民主化したら大混乱になる。民主化は中国でも無理だ。民主化という言葉に動かされるべきではない。最悪の場合、ロシアが分裂するようなシナリオもある。そうなると、中国がより巨大になる。ロシアが一つの国として安定している方が、日本にとって良いという視点も必要ではないか。

河東哲夫氏
河東哲夫氏

(略歴)1947年生まれ。70年東京大学卒業、外務省入省。ハーバード大学大学院ソ連研究センター留学、東欧課長、米国ボストン総領事、ロシア大使館公使、ウズベキスタン大使等を歴任、04年退官。現在は外交評論で執筆など手掛ける。

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