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《戦時経済》【ウクライナ侵攻】中国はウクライナと「仲良し」 ロシアとは「軍冷経熱」で=遠藤誉

中国とロシアの関係は単純ではない Bloomberg
中国とロシアの関係は単純ではない Bloomberg

 ロシアによるウクライナ侵攻に直面した中国は、2月25日の国連安保理における対露制裁も、3月2日の国連総会緊急特別会合における対露非難決議も棄権した。しかし、それをもって、「中国がロシアの側に立っている」と考えるのは早計だ。中国はロシアの軍事行動には反対だが、経済的にはロシアを支援するという姿勢を崩していないからだ。>>>「戦時経済」特集はこちら

 軍事的に賛同できないのは、たとえばロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の「ドネツク人民共和国」や「ルガンスク人民共和国」を「独立国家」として承認したことが理由の一つに挙げられる。これはちょうど、他国が中国の内政に干渉して新疆ウイグル自治区やチベット自治区に独立宣言をさせ、それを他国が「独立国家」として承認することと同じ構図になるからだ。

 このような危険な選択をするプーチン氏の行動は、中国の習近平国家主席にとっては恐怖以外の何物でもない。だからウクライナから独立した両共和国の承認も、2014年におけるクリミア併合も、中国は承認していない。

ウクライナと「仲良し」

 そもそもウクライナと中国は「大の仲良し」だ。1991年末に旧ソ連が崩壊すると中国はいち早く、92年1月にウクライナと国交を樹立している。以来、旧ソ連の武器製造の拠点であったウクライナの関係技術者を異常なまでの高給で中国に迎え入れ、ミサイルや航空母艦製造の技術のすべてを教授してもらった。

 米国の国防総省(ペンタゴン)が今、軍事報告書で「中国のミサイルと造船技術は米国より優れている」と書くほど、この方面における中国の軍事力が成長したのはウクライナのおかげなのである。その友好関係は、中国の習近平氏が「一帯一路」構想を推進し始めてからは、いっそう強固なものとなっている。

 おまけに習氏にとって、「一帯一路」だけでなく、中国と欧州を結ぶ「中欧投資協定」は、13年から力を注いできた対欧外交のコアだ。これがあれば米国からの制裁にも勝てると習氏は期待していた。ロシアに足並みをそろえて北大西洋条約機構(NATO)と対立することは、その欧州と対立することを意味し、習氏としては絶対に軍事的にロシアの側には立ちたくないのである。

 しかし今、米国から制裁を受けている国同士としての結びつきにひびが入れば、それは米中覇権競争の真っただ中にある中国の競争力にもダメージを与える。だから習氏としては真正面からプーチン氏に「ウクライナ軍事攻撃反対」とは言えないが、経済面においては徹底してプーチン氏を支えようというのが揺るがない対露姿勢だ。

人民元圏に取り込み

 習近平氏のこの対露姿勢を、筆者は「軍冷経熱」という言葉で表現している。習氏の対露「軍冷経熱」の内の「経熱」の方は多岐にわたるが、最も大きい「経熱」は、エネルギー安全保障の問題だ。例えば、ロシアの資源として大きな存在感を示している天然ガスなどに関して、習氏は今年2月4日の北京冬季五輪開会式に参加するため北京入りしたプーチン氏と交わした15カ条に及ぶ経済協力のうち、第12条から14条にかけては巨大プロジェクトの契約を結んでいる。

 中国税関総局によると、中国のロシアからのエネルギー資源の輸入額は21年、3342億9000万元(約6兆1400億円)と前年比47・4%増加し、ロシアからの輸入総額の65・3%を占めるに至っている。 ロシアは中国にとって第1位のエネルギー輸入国であると同時に、第2位の原油輸入国でもあり、第1位の電力輸入国の地位を保っている。

 しかも、ロシアの最大貿易相手国は12年間、中国であり続けている。ロシアの中国への依存度は、ますます強くなるばかりで、対中包囲網を強化するためにまずロシアをやっつけるというバイデン米大統領の試みは達成されないだろう。加えて、対露制裁や対露非難決議にインドも中国同様に棄権しているので、日米豪印4カ国(クアッド)による連携は崩れているも同然だ。

台湾への攻撃「ない」

 次に注目しなければならないのは、国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除を、習近平氏がまたとないチャンスととらえているということだ。米国がまだオバマ政権だった16年1月、習氏がイランやサウジアラビア、エジプトなどを歴訪し、バイデン政権になった21年3月には中国の王毅外相が中東6カ国を歴訪した目的は、すべて米国による制裁を受けたり冷遇されたりしている中東諸国を中国側に引き寄せ、脱ドル経済圏を形成するためだった。

 もちろんエネルギー安全保障上の石油確保という目的もあるが、それを人民元で取引するか、あるいは人民元と相手国通貨とで取引し、脱ドルを図ったものである。習近平政権になると、実はCIPS(Cross-Border Interbank Payment System、人民元国際決済システム)という、人民元建てでの外国送金と貿易の清算、決済手段を提供する決済システムの研究に入り、SWIFT制裁を受けた場合の抜け道を模索してきた。

 今年2月28日の上海人民政府の発表によると、現在では103の国と地域における1259の参加者を持ち、178カ国で3600以上の取引主体をカバーしているという。海外からの参加者の割合は649社と急速に増加しており、システム全体の52%を占めている。ロシアが全世界から制裁を受けている現在、中国としてはやや強気の姿勢でロシアにもCIPSの使用を要求できるし、また「デジタル人民元の実体経済への応用」を試みることもできる。

 なお、ウクライナへの軍事侵攻に乗じて中国が台湾を武力攻撃するのではないかという臆測が絶えないが、今年秋に控える第20回の中国共産党大会は、習氏にとって3期目の総書記をかけた重要な節目となる。そうでなくとも中国共産党は、党大会前は社会の安定を最優先する。米軍の参戦によっては負けるかもしれない台湾武力攻撃などの火中の栗を拾いに行く価値は、習氏には皆無であることを最後に付け加えておきたい。

(遠藤誉・中国問題グローバル研究所所長)

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