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米中間選で民主党の敗色濃厚 トランプ支持が強まる共和党=中岡望

トランプ氏は自分に忠誠を示す候補者を支援すると発表した Bloomberg
トランプ氏は自分に忠誠を示す候補者を支援すると発表した Bloomberg

 米国の中間選挙が今年11月に控えている。過去の例を見ると、与党が議席を失うケースが圧倒的に多い。戦後だけで19回行われた中間選挙で与党が議席を増やした例は、わずか2回に過ぎない。

 与党が過去最大の議席を失ったのは2010年のオバマ政権下の中間選挙だ。民主党は下院で63議席、上院で6議席を失った。

 前回の18年の中間選挙では、保守的な中産階級の女性が反トランプを理由に共和党を離反し、女性候補が躍進する「ブルー・ウエーブ」が巻き起こり、共和党は上院で2議席増やして過半数を維持したものの、下院では41議席を失い、少数派に転落した。

 中間選挙は現政権に対する信認投票の意味合いもあり、必然的に政権に対する厳しい評価が下される傾向が強い。過去の中間選挙の結果も、そうした傾向を反映している。過去の例が妥当なら、次回の中間選挙で与党民主党は厳しい選挙を強いられるだろう。

隠然たる影響力

 現在、民主党は大きな逆風に直面している。公共放送のナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)とパブリック・ブロードキャスティング・サービス(PBS)が2月25日に発表した共同世論調査の結果は、56%の回答者がバイデン政権の最初の1年間の政策は「失敗であった」と答えている。54%が選挙公約を実現していないと答え、52%が国内を統一するよりも分断を深めたと厳しい評価を下している。

 新たにウクライナ情勢も逆風になると予想される。バイデン政権のウクライナ政策を「評価する」とする回答は34%にとどまり、「評価しない」は50%に達している。支持率も39%と歴代大統領でも最低の水準となっている。有権者の最大の懸案はインフレ高進である。秋までに物価鎮静が見られなければ、選挙結果に大きな影響を与えるだろう。

 世論調査会社ファイブ・サーティ・エイトの2月22日の調査では、民主党支持が42・5%、共和党支持が45%であった。

 意識調査の結果は、「民主党が議席を失うのは間違いない」と予測している。焦点はどの程度の減少にとどまるかである。民主党が劣勢を挽回するには、抜本的な選挙戦略の見直しが必要であろう。

 一方、有利な立場にある共和党も必ずしも楽観できる状況にはない。その最大の不確定要因は、トランプ前大統領の存在である。20年の大統領選では、「反トランプ派」が多数投票したことで、投票率は過去最大を記録。トランプ氏は敗北を喫し、共和党は議席を失った。共和党が中間選挙で勝利を確実にするためには、トランプ氏との関係を明確にする必要がある。

 トランプ氏は、今も隠然たる影響力を持っている。ワールド・ポピュレーションズ・ビューズの調査では、50州のうちトランプ支持が50%を上回っている州は23州に達している。例えば、アラバマ州ではトランプ支持が62%に対し、不支持は34%にとどまっている。36人の下院議員を選出するテキサス州では、トランプ支持52%に対し、不支持は45%である。全体的なトランプ支持率は低下傾向にあるものの、保守的な南部諸州の共和党支持者の間ではトランプ氏は大きな影響力を持ち続けている。

 米国では党の候補者を選ぶ予備選挙が行われる。共和党の候補者は予備選挙で勝利するためにトランプ前大統領にすり寄っている。トランプ氏も24年の大統領選挙出馬の意欲を隠さず、共和党内での影響力の拡大を図っている。

 2月15日に発表された米CBSニュースの調査では、共和党支持者の69%がトランプ氏の大統領選出馬を支持している。

 いまだ高い支持率を背景にトランプ氏は、大統領弾劾裁判や上院の大統領選挙認証でトランプ氏に反対の立場を取ったリズ・チェイニー下院議員やリサ・マコウスキー上院議員など9人の議員の追い落としを図る一方、予備選挙で自らの息のかかった候補を対立候補として擁立している。

 トランプ氏は今年2月までに、予備選挙で「自分に忠誠を示す」下院候補者51人、上院候補者15人を支援すると表明。上院ではネブラスカ、ジョージア、アラスカの各州で反トランプ派の現職に挑戦する新人を支持している。

 同時に知事選挙でも忠誠を表明する13人の知事候補者を支援している。それ以外にも州議会選挙や州政府の要職の候補者も支援するなど、共和党内での影響力の掌握を狙っている。

選挙資金は140億円

 こうしたトランプ支持派の候補者が勝利すれば、トランプ氏の共和党内での影響力は圧倒的なものになるだろう。ただトランプ支持派の候補者の中には予備選挙で敗北、あるいは途中で立候補を取りやめる者も出てきている。共和党の予備選挙で勝利しても、本選挙で勝利する保証はない。

 多くの候補者がトランプ氏に群がるもう一つの理由がある。それは選挙資金である。

 トランプ氏は今年初めの段階で、1億2200万ドル(約140億円)の選挙資金を保有している。この額は、党の中央組織である共和党全国委員会が保有する資金の2倍以上である。

 トランプ氏は、自らが支援する候補者に対して資金援助を行っている。さらに候補者はトランプ氏の支援を受けていると訴えることで選挙資金を集めやすくなる。

 ただ、予備選挙ではトランプ派を訴えることで支持を得ても、本選挙では民主党候補者にトランプ派であるとの攻撃の口実を与える可能性もある。また共和党指導部は前回の大統領選挙と同様に「政策綱領」の作成を見送る意向である。明確な政策課題を提案せずに選挙で勝利できるのか疑問である。さらにトランプ氏と共和党幹部の間での主導権争いも選挙に影響を及ぼす可能性がある。

 共和党は「トランプの共和党」を訴え続けるのか、あるいは「トランプ抜きの共和党」をスローガンにするのか戦略的な選択を迫られるだろう。選挙までの8カ月間に状況は激しく変動するだろう。現時点での選挙予想が常に正しいわけではない。

(中岡望・ジャーナリスト)

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