週刊エコノミスト Online2022年の経営者

石油化学を売却、機能商品を主力に。初の外国人社長が変革する三菱ケミカルホールディングス

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都千代田区の本社で

石油化学を売却、機能商品を主力に 三菱ケミカルホールディングス社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 自動車向け素材や半導体関連などの「機能商品」、石油化学や産業ガスなどの「素材」、新型コロナウイルスワクチンなどの「ヘルスケア」という、大きく三つの事業を手掛けています。2022年3月期は営業利益が前期比7・2倍の3440億円と大幅な増益を見込んでいます。

ギルソン 世界経済の持ち直しによるところが大きいです。当社の事業全般が回復しており、特に機能商品の需要が好調です。化学の汎用(はんよう)品や産業ガスも市況が堅調で非常に伸びました。ヘルスケアは若干減益になりそうですが、新型コロナワクチンの研究開発費を投じるためで、問題はありません。(2022年の経営者)

── 原油や原材料の高騰が、ロシアのウクライナ侵攻でさらに加速しています。どういう影響が想定されますか。

ギルソン グループの直接の影響としては、ロシアとウクライナでの売上高が約20億円、ポーランドなど周辺の国を含めると欧州全体で約250億円あります。グループ企業の日本酸素がロシアからガスを購入していますが、現時点で影響は限定的です。ただ、今後も上昇が続けば影響が大きくなります。原材料高で工場の操業が困難にならないよう、上昇分の価格転嫁が必要になります。

 価格転嫁については、化学の汎用品では従来、市況動向に連動した契約ができています。しかし、テレビやスマートフォンなどの家電製品や半導体向けに使われる機能商品については、価格転嫁は容易ではありません。もはやコスト上昇分を吸収できる状態ではないため、22年度は機能商品を値上げする考えです。

── 21年12月、主力の石油化学事業と炭素事業の分離を発表しました。

ギルソン 両事業は汎用品が多く、今年度は利益が出ていますが、過去10年間の平均でみると利益は小さいです。設備投資を差し引くとキャッシュフローはゼロに近く、高い利益を生む分野ではありません。世界的な二酸化炭素(CO2)削減の流れも逆風です。原料となるナフサ(石油製品)価格が上がる中で、今後5~20年の間に大きな事業変革が求められています。具体的には、事業継続には大気中のCO2回収や人工光合成などの取り組みが必要です。大規模な投資が必要でコストも増えるため、総合的にみて単独で続けるのは難しいと判断しました。

 現在の日本の石化業界には根本的な問題があります。石油を持たない日本で、原材料高の事業をどうやって持続するのでしょう。また、小規模なプレーヤーが多すぎます。遅くなりすぎないうちに業界再編が必要です。

── 一方で、今後注力する事業は何ですか。

ギルソン 機能商品です。ビジネス分野としては、エレクトロニクス(電機)、半導体、ライフサイエンス、自動車を対象にした戦略を策定中で、世界中のあらゆる成長機会を取り込むつもりです。

 また、石化事業の中でも、アクリル樹脂の原料でリサイクル性が高い素材のMMA(メチルメタクリレート)と、MMAから作られるMAA(メタクリル酸)などには引き続き注力します。世界シェア4割と高い競合優位性を持つ強みがあるからです。

近くコロナワクチン販売

── 新型コロナワクチンの開発も手掛けています。進捗(しんちょく)は。

ギルソン グループ会社の田辺三菱製薬が、カナダ子会社でコロナウイルス感染予防のための植物由来ワクチンを開発中です。2月にカナダで承認を得ました。日本や世界保健機関(WHO)でも承認を目指しています。販売はカナダで今年度から始める計画でしたが、承認の遅れなどで22年度第1四半期(4~6月)にずれ込みそうです。工場の生産体制も拡大しました。今後のグループ全体への高い利益貢献を見込んでいます。

── 21年4月に初の外国人社長に就任して1年。関係会社約700社、社員約7万人という巨大企業のトップとして、どのような会社を目指しますか。

ギルソン 今後は投資家への満足度を高めたいと考えています。当社のような大規模な企業は、一夜にして変革するのは難しいということを投資家も十分に理解しています。一時的なコスト削減で利益を出すことも可能ですが、本当の企業価値を生むのは成長、つまり利益率の高い製品の販売です。

── 今後の成長を担う人材育成には、どう取り組みますか。

ギルソン 当社には優秀な社員がいます。野心と情熱を持ち、勝ち抜くんだという気持ちでやることが重要です。ある程度のところでよいとか、生き延びることができればよいということを言っているような企業は、今後は淘汰(とうた)されるでしょう。私が社長でいるのは5年程度と考えています。時期が来たら次に引き継ぐことができるようなリーダーを、少しでも多く育成していきたいと思います。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q ビジネスマンとして過去にどのような挑戦をしましたか

A ビジネスで直面してきた最大の課題は、後退している会社を成長に変化させることです。ダウコーニングとロケット、今回で3回目です。

Q 「好きな本」は

A サマセット・モームの『レイザーズ・エッジ』

Q 休日の過ごし方は

A 街の散歩や、妻と一緒にゴルフなどをして過ごします。


事業内容:総合化学・ヘルスケア

本社所在地:東京都千代田区

設立:2005年10月

資本金:500億円

従業員数:6万9607人(21年3月末現在、連結)

業績(21年3月期、連結、IFRS)

 売上収益:3兆2575億円

 営業利益:475億1800万円


 ■人物略歴

Jean-Marc Gilson

 1963年生まれ。ベルギー出身。88年リエージュ大学(ベルギー)修士号取得。89年米ダウコーニング入社、93年国際経営開発研究所(スイス)経営学修士号取得、2014年に食品や医療関連素材を扱う仏ロケットCEO。21年4月から現職。58歳。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

7月12日号

止まらないインフレ 資源ショック20 衝撃は石油危機に匹敵 「資源小国」日本の正念場 ■荒木 涼子/和田 肇24 原油の行方 2次制裁発動なら記録的高騰へ ■原田 大輔27 中国・インド “ロシアに冷淡”な資源輸入国 ■和田 肇29 戦略物資 EVや再エネの普及に必須の「銅」 ■片瀬 裕文30 天然 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事