週刊エコノミスト Online2022年の経営者

働く人と企業のミスマッチを解消する=和田孝雄・パーソルホールディングス社長

Interviewer:秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の本社で
Interviewer:秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の本社で

働く人と企業のミスマッチを解消 和田孝雄 パーソルホールディングス社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 新型コロナウイルス禍により多くの企業で働き方が変わりました。人材派遣や人材紹介などの事業にどのような影響がありましたか。

和田 コロナ禍で当初は業績が大きく落ち込むと懸念しましたが、比較的堅調に推移しています。中でも人材派遣については、企業からの依頼件数は当初は減ったものの、継続して仕事をする人が多く離職する人も少なかったので、実際の稼働人数は落ちませんでした。例年よりは少ないものの新規に働く人の上積みもあり、全体的には好業績です。今期(2022年3月期)の依頼件数も、今年1月時点でコロナ前の20年3月期の90%まで戻りました。人材紹介も、企業からの依頼が昨年9月時点でコロナ前の水準を取り戻しており、マーケットは回復していると見ています。(2022年の経営者)

── 求人が好調だと、その分、求職者の確保も必要になりますね。

和田 コロナ前の水準に比べると、まだ新規の求職者は少ないですね。需要と供給のバランスが少し悪くなっていて、今後もこの状態は続くと見ています。

── 人材派遣は他社との競争も激しいのでは。強みは何ですか。

和田 圧倒的な人材供給能力と顧客資産です。まず人材供給については、働く人の環境や希望にマッチした仕事を紹介できるよう、いろいろな選択肢を提供できることに尽きます。次の段階として、就業後のしっかりしたサポートも必要です。人材確保には当社のサービスを介して働いている人の口コミも大きく影響するので、日ごろの営業や支援、サポートを地道に行い、当社のファンを増やしていきます。

 顧客資産とは、顧客企業と長年の取引を通じて培ってきた信頼関係です。顧客の業務をより細かく知ったうえで、時にはよりうまくいくよう業務内容の変更を提案したり、その業務の前後の工程まで請け負う提案をしたりすることもあります。その結果として、業務が効率化できて完了が早まることもあり、当社の評価にもつながります。

今期に売上高1兆円超

── 「ジョブ型雇用」など新しい働き方が広がっています。特別な対応はしていますか。

和田 もともと派遣社員は典型的なジョブ型の働き方なので、最近の動きに違和感はないです。派遣は業務の割り振りができているため、派遣先の企業でジョブ型が進んでいくと、派遣で働く人たちの重要度が増していくと思います。それがコロナ禍でも稼働人数が減らなかった理由の一つだと思います。

 人材紹介については、日本は米国のような完全なジョブ型雇用にはなかなかならないと思っています。日本の雇用形態は新卒一括採用が圧倒的に多いので、そこが変わっていくようなら、ジョブ型もある程度定着していくのではないでしょうか。

── 雇用の流動化はプラスに働きますね。

和田 当社がやりたいことは(需要と供給の)ミスマッチの解消です。事業には栄枯盛衰があり、業務に必要な人材が必ずしも配置されているとは限りません。当社が介在することで適材適所を実現していきます。

 かつては転職に否定的な考えもありましたが、今はキャリアを考えると1社だけよりも複数社での勤務を経験する方が、考え方や物の見方の幅が広がってプラスになると考える人も多いと思います。しかも人生100年時代であることを考えると、数回は転職することも普通になるでしょう。当社が働き先の選択肢を提供し、働く人が良い選択をする手助けをできることが重要だと思います。

── 業績は好調で、23年3月期までの中期経営計画の売り上げ目標を1年前倒しで達成します。

和田 中期経営計画では経済的指標と社会的指標の二つの目標を掲げており、売り上げや利益などの経済的指標は今期(22年3月期)に達成できる見込みです。もう一つの社会的指標については、グループビジョンである「働いて、笑おう。」を実現していくための取り組みで、具体的にはファンを増やしたり、働く人の満足度を高めていったりすることです。そこはまだ未達だと認識しているので、中計の見直しはせず、引き続き取り組んでいきます。

── 今期は売上高が初めて1兆円を超える見込みです。

和田 右肩上がりで成長させたいですが、売り上げはあくまで顧客からの支持の表れだと思っています。派遣にせよ人材紹介にせよ、支持をもらえなければ働く人に就業してもらえませんし、企業からの依頼ももらえません。いかに支持を得続けるかを重視しています。そのためには、働く人の満足度を上げる仕組みをつくることが重要だと思います。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A ある企業とネットワークエンジニア育成の共同出資会社を設立しようとしたところ、別の企業から一緒に進めていた事業と相反すると指摘され、結果的に両方の事業がなくなりました。こちらの真意が伝わっていなかったためで、大きな教訓になりました。

Q 「感銘を受けた本」は

A 若い頃に読んだD.カーネギーの3部作『人を動かす』『道は開ける』『話し方入門』です。

Q 休日の過ごし方は

A 愛犬との散歩です。心が癒やされます。


事業内容:労働者派遣事業、有料職業紹介事業、アウトソーシング事業など

本社所在地:東京都港区

設立:2008年10月

資本金:174億7900万円(2021年4月現在)

従業員数:5万4760人(21年3月現在、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:9507億2200万円

 営業利益:264億3900万円


 ■人物略歴

和田孝雄(わだ・たかお)

 1962年生まれ、京都府立山城高校卒業、86年立命館大学法学部卒業後、88年2月スパロージャパン入社。91年テンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)に転じ、2016年同社社長に就任。20年パーソルホールディングス取締役副社長を経て、21年4月同社代表取締役社長CEOに就任。京都府出身、59歳。

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