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週刊エコノミスト Online 2022年の経営者

トヨタグループにあっても自動車以外が強い 今期のアフリカ事業 年間収益は1兆円に=貸谷伊知郎・豊田通商社長

Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都港区の東京本社で
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長) Photo 武市公孝:東京都港区の東京本社で

アフリカ事業の収益1兆円に 貸谷伊知郎 豊田通商社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── 2022年3月期の最終(当期)利益は過去最高の1900億円を見込んでいます。業績好調の理由は。

貸谷 中間期(21年4~9月期)の利益は前期比206%増の1275億円でしたので、通期予想を1900億円(従来予想は1500億円)に上方修正しました。自動車生産の急速な回復の影響が大きく、経費の削減、金属などの市況高騰も寄与しました。新型コロナウイルスや、米中関係、ロシア、ミャンマーといった地政学要因などリスクはありますが、最終利益1900億円の達成には自信を持っています。(2022年の経営者)

── 中間期決算では、アフリカ事業の利益が139億円と存在感を示しています。アフリカでの事業概要を教えてください。

貸谷 当社はアフリカの全54カ国(日本政府が未承認の「サハラ・アラブ民主共和国」を除く)で事業を展開し、従業員は2万1000人に上ります。人口増、中間所得層の増加、平均年齢の若さなど期待できる要素が多々あります。当社のアフリカ事業は、自動車の現地組み立てや生産を担う「自動車関連」が、国際会計基準上の収益ベースで7割、医薬品の製造・卸販売を核とした「ヘルスケア」が2割、エネルギー・インフラ、消費財の製造販売などが1割、というように大別できます。

── 商社の中でも豊田通商はアフリカに強いイメージがあります。

貸谷 20年度はアフリカ事業での収益が8000億円に達し、21年度は1兆円に到達する勢いです。資源やインフラなど大型開発ではなく、自動車や医薬品など恒常的なビジネスでこれだけの収益規模は日本企業でも随一だと自負しています。

── アフリカに強い理由は。

貸谷 まず、各国で現地の有力な協業先があることです。また、歴史的にアフリカの知見を持つ欧州、特にフランスの企業と組んで事業展開していることも大きいです。連結子会社のCFAO(セーファーオー、12年に約2300億円で買収)は、アフリカ中西部を中心に自動車販売、医薬品・医療機器卸売りを手がけており、その営業基盤も活用しています。

── アフリカでは、主力の自動車もさることながら、ヘルスケア事業も有力ですね。

貸谷 ヘルスケアでは医薬品の配送事業を24カ国で展開しています。現地の薬局・病院の医薬品在庫は多くて3日分程度です。当社は薬局・病院など7000カ所へ1日3~5回配送しています。対象製品は2万3600点で、450社の医薬品メーカーと提携しています。自動車で入れなければバイク、バイクもなければ自転車でへき地の薬局・病院まで届けられるのが強みです。これだけの医薬品物流網は他に例がないでしょう。サノフィなど欧米製薬メーカーの委託で医薬品のライセンス生産も手掛けています。ヘルスケアは自動車と違い、景気変動の影響を受けにくいのも特徴です。

脱炭素に1・6兆円

── 世界的な脱炭素加速の中、21年11月に公表した投資戦略で、30年までに1・6兆円を関連事業に当てる方針を掲げました。かなり大規模な計画ですね。

貸谷 1・6兆円という額は、今後10年間に投資を計画するキャッシュフロー(現金収支)の半分を占めます。このうち、再生可能エネルギーやエネルギーマネジメント(蓄電池など)には7000億円を投資する計画です。このほか、電池原料生産、水素や代替燃料、リサイクル事業などにも資金を振り向けます。

── 再エネへの投資戦略は。

貸谷 当社はトーメン(06年に合併)の電力事業を源流とするユーラスエナジーホールディングス(連結子会社)が1980年代から国内外で再エネ発電を手掛けてきました。主に陸上風力発電です。現在、風力発電事業者としては国内最大のシェアを持ちます。ユーラスで培った知見も生かして、今後は洋上風力発電も増やしていきます。

── トヨタ自動車の持ち分法適用会社であり、自動車事業の存在感が大きい一方で、再エネなど「非自動車」も成長しています。今後の「自動車」「非自動車」への経営資源配分は。

貸谷 自動車と非自動車という業界の壁が低くなっており、商品軸だけで事業を語ることが難しくなっています。例えば、当社はアルゼンチンのオラロス塩湖で電池材料となるリチウム生産事業を行っています。これだけ見れば資源事業なのですが、EV(電気自動車)の電池の材料です。このように、自動車に掛け合わせることで強みを発揮できる事業を選定して投資していきます。自動車とはまったく関係のない「飛び地」の事業でも、業界トップを目指せる事業には投資していきます。

(構成=種市房子・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 1990年代終わりから2000年代初めにアンゴラ政府向けの自動車・二輪の売り掛け債権20億円の回収に当たったことです。アンゴラは内戦中で、財務相らとの交渉は難航しましたが、内戦終結後に遅延損害金を含めて全額回収しました。

Q 「私を変えた本」は

A 幼いころに何度も読んだ野口英世の伝記です。私は2歳で右目の視力を失いました。伝記は、障害の有無にかかわらず、努力すれば社会の役に立てることを教えてくれました。

Q 休日の過ごし方は

A 読書や街歩き、バレエ鑑賞です。


 ■人物略歴

貸谷伊知郎(かしたに・いちろう)

 1959年生まれ、京都府出身。同志社高校、同志社大学経済学部卒業後、83年豊田通商入社。主に自動車、アフリカ畑を歩み、2011年執行役員。常務取締役、専務執行役員などを経て18年4月から現職。62歳。


事業内容:物品の国内取引、輸出入取引、外国間取引など

本社所在地:名古屋市

設立:1948年7月

資本金:649億円

従業員数:6万4402人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 収益:6兆3093億円

 最終利益:1346億円

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