週刊エコノミスト Online2022年の経営者

ネット特化でリユース市場を拡大 小林泰士 マーケットエンタープライズ社長

Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都中央区の本社で
Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都中央区の本社で

ネット特化でリユース市場を拡大

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── インターネット型リユース事業が主力です。既存のリサイクルショップとの違いを教えてください。

小林 例えばリサイクルショップに商品を買い取ってもらいたい場合、どれぐらいの価格がつくのかが事前には分からないという不安があると思います。当社はネット上で集客しますが、消費者に安心してもらうため、事前に買い取り価格の目安を伝えたうえで、宅配や店頭への持ち込み、訪問などの方法で買い取っています。そうして買い取った商品は店頭販売ではなく、自社EC(電子商取引)サイト「ReRe」やヤフーオークション(ヤフオク)などのネット上で販売します。(2022年の経営者)

── ネット型の利点はどんなところですか。

小林 全国12カ所に「リユースセンター」という拠点を設け、そこに買い取った商品を集めたうえで、注文に応じて出荷しています。やり取りはすべてネット上で完結するので良い立地である必要はなく、スペースのコストを抑えられる分、買い取り価格や販売価格に還元できます。

── 買い取り価格はどのように決めているのですか。

小林 以前はネットオークションの落札価格の相場や、新品を売るECサイトのデータを全部集めて決めていました。今は自社で売買したデータが蓄積されてきたので、それらを合わせて独自の相場表をつくりました。そこに商品の型番や状態などを入力すると、おおよその買い取り価格が分かるようになっています。

トラクターも買い取り

── 現在のリユース市場をどのように見ていますか。

小林 新品は売れた瞬間からリユースのマーケットに入ります。環境意識の高まりもあり、国内のリユース市場は年10%増のペースで拡大していて、流通額は約2・2兆円といわれています。さらに、自宅に保管している着物などの「隠れ資産」を入れると、約37兆円の潜在市場があるとの見方もあります。これからは、こうした隠れ資産のほか、従来のリユース市場にはなかった商品の掘り起こしが重要になると思います。

── 例えばどんな商品ですか。

小林 当社は農機具の買い取りに力を入れています。農家の高齢化が進んで離農する人も増え、農機具を売却したいという需要が出てきています。そこに目をつけ、トラクターなどをECで売る仕組みをつくりました。日本製の農機具の引き合いは強く、今では東南アジアや欧州など世界80カ国に中古農機具の輸出もしています。農機具については、昨年秋に茨城県結城市に大規模なリユースセンターを開設したので、そこから欧州向けの輸出を加速します。3年後には2期合計の経常利益を25億円以上に拡大したいと思います。

── リユースでは新しい取り組みも始めていますね。

小林 当社は年間約40万件の買い取りを行っていますが、ネットの限界を感じることもあります。例えば大型商品など物によっては、当社の従業員が買い取りに行くと交通費や輸送代などのコストがかさみ、結果的に販売価格が高くなるケースもあります。そうした課題に対応するため、地域のリサイクルショップと提携して、ネット上で売りたい人と買いたい店をマッチングする「おいくら」というサービスを展開しています。1000店が加盟しており、消費者が売りたい商品の見積もりを出すと、近隣のリサイクルショップが買い取り価格を示し、消費者に選ばれた業者が買い取りに行くという仕組みです。

 さらに自治体と連携し、粗大ゴミになるものから、まだ使えるものをリユースに回す取り組みも進めています。北海道恵庭市や三重県いなべ市で既に始め、川崎市と東京・墨田区では実証実験を行っています。この仕組みが広がれば、自治体がゴミを処分するコストを抑えられるだけでなく、日本全体のゴミが減り循環型社会を実現できるのではないかと考えています。

── リユース以外の事業も手掛けています。

小林 ネットメディアとモバイル通信の事業があり、リユース事業と関連しています。メディア事業では、買い取り情報や修理業者情報などに関する八つのウェブサイトを運営し、月間1200万のアクセスがあります。消費者には商品の情報を詳しく知り、複数の商品を比較したうえで購入・売却したいという需要があるので、リユース事業を進めるうえで必要な情報提供のために行っています。

 モバイル通信はもともと中古パソコンを販売するうえで、通信もセットにしたほうが便利だということで始めました。現在は高速無線通信のサービスを提供しています。リユースは転居の際に利用する人が多く、新たに通信サービスを利用する場合もあるので、通信とリユースの両事業の親和性は高く、こちらも成長が期待できると思っています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A リユースで初めて扱う製品を買い取る時は、商材知識がゼロから始めるので、常にピンチでした。商品情報をノウハウとして蓄積し、チャンスに変えていきました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。竜馬が周りの人を巻き込んで志を成し遂げていくところに、起業家像を重ね合わせています。

Q 休日の過ごし方は

A 釣りが好きで、海釣りで沖にも出ます。


 ■人物略歴

小林泰士(こばやし・やすし)

 1981年生まれ、埼玉県立所沢高校卒業、2003年東洋大学工学部卒業後、ベンチャー企業を経て、06年マーケットエンタープライズを設立し現職。埼玉県出身、40歳。


事業内容:ネット型リユース事業、メディア事業、モバイル通信事業

本社所在地:東京都中央区

設立:2006年7月

資本金:3億2467万円(21年6月現在)

従業員数:419人(21年10月現在、連結)

業績(21年6月期、連結)

 売上高:108億7500万円

 営業利益:5400万円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事