週刊エコノミスト Online2022年の経営者

糸井重里氏激論!「ほぼ日學校」開講中=ほぼ日社長

    Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で
    Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都千代田区の本社で

    モノも売る「コンテンツ業」に 糸井重里 ほぼ日社長

     Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

    ── 2021年8月期決算は売上高が過去最高となるなど、業績好調です。

    糸井 運ですよ。新型コロナウイルスの感染拡大でインターネットで買い物をする人が増え、助けられた面があります。中でも「ほぼ日手帳」が伸びました。海外にはない実用的でおしゃれな文房具が「ステキ」に見えたようで、中国や米国の人にネットで買ってもらえるようになりました。一人に気に入ってもらえれば、それを見た人が注目してくれて、あっという間に広がります。海外に営業担当を置いたわけでもなく、小売業のプロから見たら「抜かりのある会社」なんでしょうが、時代が僕らにちょっと良かったんでしょう。(2022年の経営者)

    ── 扱っている商品について教えてください。

    糸井 手帳が売り上げの半分ほどです。もともと7割あったのが、今はアパレルや食品などの比率が増えてきました。実用的でデザイン性があるものを扱っていて、アパレルであれば、スタイリストさんやブランドと共同開発したものが多いです。「アースボール」というAR(拡張現実)地球儀も人気です。

    ── 17年に上場しました。この5年間はどうでしたか。

    糸井 株主は個人投資家が多いです。この2年間は人数を制限していますが、コロナ禍以前は、株主総会に数百人が来てくれて勇気づけられました。

     上場で業種が「小売業」に分類されましたが、改めて言われると「そうだったのか」と不思議な気がしました(笑)。扱っている商品は1種類につき約100個、1000個ずつの単位なので、小売業として力を持っていたわけではありません。大企業はビッグデータを活用して勝負しているわけで、同じ土俵で競争したら大変です。1000個売れているものを1万個、10万個にする仕組みを考えることが小売業だとしたら、僕らは物にかこつけて、考え方やアイデア、つまりコンテンツを売る方がメインです。

    ── コンテンツ業ですか?

    糸井 コロナ禍の中で「小売業としての売り上げだけに頼り過ぎない。コンテンツが僕らの商売だ」と本気で思うようになりました。コンテンツの具体物がモノになったり、サービスになったりするわけです。だから、コンテンツを生み出すプロにならなければいけない。そして、ほぼ日と組めばコンテンツがどんどん生まれると思ってもらえる状況をつくりたいです。昔はディズニーを意識していましたが、今は(米映像制作会社の)ピクサー・アニメーション・スタジオです。ピクサーは若いスタッフ同士のチームプレーによってコンテンツが掛け算で増えています。僕たちはコンテンツを「生み出す」「仕入れる」「伝える」ことの三つを得意になりたい。そのためには、ある一人の作家性に頼るのではなく、チームプレーが重要になると思っています。

    先生に「学ぶ」新事業

    ── コンテンツで言えば、21年からウェブ版「ほぼ日の學校(がっこう)」を始めました。

    糸井 大学やカルチャーセンターとは違い、権威や啓蒙(けいもう)でもなく、「おたのしみ」として学べる場をつくりたかった。18年に開校し、21年にアプリ、ウェブ版(税込み月額680円)としてリニューアルしました。野中郁次郎さん(一橋大学名誉教授)から、みうらじゅんさん(イラストレーター)まで、幅広いジャンルの人に先生になってもらい、自分の思いを語ってもらう場です。先生は週に約3人ずつ増え、現在は約100人の先生がオンデマンドで“授業”をしています。1人3〜5回程度の授業で、1回15〜30分です。先生は、ノーベル賞受賞者、アイドル、街で一番人気のうどん屋さん、それにうちの母ちゃんがいてもいい。誰でも“10分間の先生”にはなれるわけですから。「1万人の先生」を集めるというコンセプトです。

    ── 今後の事業の柱にする狙いですか。

    糸井 これがほぼ日の「心臓」と「脳」になるほど重要な事業だと思っています。ただ、会員を増やして収益を上げることを先に考えないようにしました。収益化は重要だけど、そこを真剣にやると絶対につまらなくなる。「学ぶ」というエンターテインメントのコンセプトが高く評価されていると思っています。

    ── 将来の会社の姿をどう描きますか。

    糸井 僕が船の舳先(へさき)にいる状態を、そろそろやめなければいけないと思います。(経営の)航路に関わる必要があるうちは無理ですが、もともと僕は経営をするような人間ではない。社長の立場で「これをやろう」と言うと命令になりますが、「こうやった方が面白いよ」と言うのがクリエーティブディレクターの発想で、そうした方がうまくいくと思う。「糸井の会社」のイメージから脱皮したいと思っています。

    (構成=中園敦二・編集部)

    横顔

    Q これまで仕事でピンチだったことは

    A 東日本大震災後、経営が行き詰まった時期がありました。仕事がなくても「何で食べていくのか、給料を払える2年間で見つけよう」と社員に言いました。

    Q 最近買った物

    A ガジェット(電子装置)の指輪です。最初は健康データが送られてくるので親切だと思いましたが、最近は音がうるさいなと思っています。

    Q 時間があればしたいことは

    A 企画屋としてやりたいことを自分に問いかける時間をつくりたい。そのためにもっと旅をしたいです。


     ■人物略歴

    糸井重里(いとい・しげさと)

     1948年生まれ、群馬県出身。群馬県立前橋高校卒業、68年法政大学文学部中退、71年にコピーライターとしてデビュー。79年12月に東京糸井重里事務所(現ほぼ日)を設立し現職。2017年3月ジャスダックに上場。73歳。


    事業内容:ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」、「ほぼ日の學校」などコンテンツ制作・運営、手帳、アパレルなどのデザイン・製造・販売

    本社所在地:東京都千代田区

    創業:1979年12月

    資本金:3億5008万円(2021年8月末)

    従業員数:110人(21年8月末、単体)

    業績(21年8月期、 単体)

     売上高:56億3952万円

     営業利益:1億5579万円

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    2月1日号

    需要大爆発 半導体 メタバース、グリーン、デジタル14 業界予測超える新次元成長 日本の期待は装置・材料 ■村田 晋一郎/斎藤 信世17 需要が爆発 世界的なデジタル、グリーン化 ■南川 明20 不足解消は? 最短22年春も常態化の懸念 ■戸澤 正紀21 インタビュー 貝沼 由久 ミネベアミツミ会長 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    編集部からのおすすめ

    最新の注目記事