航空や自動車、リースの専門性磨く 野上誠 東京センチュリー社長
航空や自動車、リースの専門性磨く
Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)
── 2021年4~9月期は経常利益が前年同期比27・6%増の546億円と、コロナ禍の中でも回復傾向にあります。
野上 影響を最も受けたのは子会社のニッポンレンタカーです。昨年度(21年3月期)は52億円の赤字でしたが、コスト管理を強化して、今年度通期では黒字の見通しです。次に影響を受けたのが米国の航空機リース大手「ACG」です。19年12月に完全子会社化した直後にコロナ禍が来ました。人の往来に関係する二つの事業がコロナの打撃を被った一方で、「国内リース事業」にはほとんど傷がつかず、収益を支えてくれました。(2021年の経営者)
── 国内リースとは具体的にどのようなものですか。
野上 パソコンや事務機器、工場の設備機械などを長期間貸し出しする事業です。国内に2万社以上の顧客がいる収益の土台です。
事業部門は四つに分けていて、レンタカーと法人・個人向けに自動車をリースする「国内オート事業」、航空機や船舶、不動産など専門性が必要な分野の金融サービスや事業を手掛ける「スペシャルティ事業」、海外展開する「国際事業」で成り立っています。
── 国内リース事業が中心の「従来型リース」の構成比率が大きく低下しています。
野上 当社は09年に「センチュリー・リーシング・システム」と「東京リース」が合併して誕生しました。合併時の資産残高は約2兆1000億円で、そのうち従来型リースの比率が81%を占めていましたが、21年3月末時点では31%に大きく下がっています。
ただ、金額でみると1兆7000億円から1兆5000億円弱と、それほど減っていません。これは航空機や船舶など専門分野のリースが10年余りで成長してきたことによるもので、従来型リースも不採算や低採算の取引を圧縮しながら、もうかる商売とする知恵を絞ってきました。
会計基準変更に危機感
── 従来型リース以外を強化してきたのはなぜですか。
野上 二つの要因があります。一つは08年のリース会計基準の改定です。融資契約に近い「ファイナンス・リース」を利用していた上場企業などは、借りている事務機器や設備を貸借対照表に計上することが義務づけられました。改定によって経営資産の効率化の指標が低下します。そのため、8兆円台だった全国のリース取扱高は一時期4兆円台まで落ち込みました。
もう一つは、リーマン・ショックを経て金融緩和が進み、金利が大幅に低下したことです。リース会社は銀行から資金を調達して利幅を乗せて事業をするので、銀行との金利勝負ではかないません。従来の商売だけでは行き詰まってしまうという危機感があり、16年に社名から「リース」を取り払い、現在の社名にしました。
── そうした背景から事業を多角化してきたわけですね。
野上 一つ例を挙げると、13年にニッポンレンタカーを傘下に収めたことです。リースではなく、当社自ら手掛ける事業を広げようという判断でした。レンタカーはサービス事業なので、利便性をどう高めるのかに知恵を絞っています。既にスマートフォンのアプリで予約を簡単に取れるようにしていますが、今後は営業所で手続きをしなくても乗車できる仕組みを始めようと取り組んでいます。
── 約3900億円で買収した米ACGの見通しはどうですか。
野上 非常に保守的な運営をしていて、コロナ禍にあっても機体の減損や不良債権の発生は軽微でした。扱う機体の種類は、通路が1本の「ナローボディー」の比率を80%以上に設定しています。通路が2本ある「ワイドボディー」のほうが通常は収益性がよいのですが、コロナ禍のような非常時にはリスクが高くなるからです。
── 昨年3月にNTTから10%の出資を受け入れ、資本業務提携をしました。
野上 NTTとは05年に自動車リース事業を一緒に始めたのが、親密になったきっかけです。事業が順調に成長し、当社とは先鋭的なビジネスができると評価されたと思います。NTTグループとは、インドのムンバイで合計13棟のデータセンターの運営を計画しています。ほかにも不動産や環境・エネルギー分野でも協業を検討中で、既に成果も出ています。10年後に振り返った時、NTTとの提携が成長の転換点だったと評価されると確信しています。
── 京セラとも太陽光発電事業を共同展開しており、他企業と提携するのが得意ですね。
野上 当社グループの太陽光の発電容量は合計629メガワットと日本最大です。当社の特徴は、優良なパートナーと事業を進めていることです。NTTや京セラのほかに、伊藤忠商事、富士通、三菱地所、IHI、オリコなど、日本を代表する企業との事業が目白押しです。先進的なファイナンスの知見が評価された結果と考えています。
(構成=浜田健太郎・編集部)
横顔
Q 30代のころはどんなビジネスマンでしたか
A 銀行員でした。当時はIT産業の勃興期であり、渋谷や青山に多かったIT関連の企業を選びながら新規顧客を開拓していました。
Q 「好きな本」は
A 葉室麟の歴史小説です。『蜩ノ記(ひぐらしのき)』で直木賞(2011年)を受賞した時に大学の同級生だと気付き、新刊が出る度に読んでいました。
Q 休日の過ごし方は
A 自宅の近くに「林試の森公園」(東京都目黒区・品川区)があり、1万歩をノルマに早足でウオーキングしています。
■人物略歴
野上誠(のがみ・まこと)
1953年生まれ、福岡県出身。福岡市立福岡商業高校(現市立福翔高校)、西南学院大学商学部卒業。76年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行、2005年3月みずほ銀行執行役員、同行常務執行役員を経て、08年6月東京リース(現東京センチュリー)取締役、11年6月東京センチュリーリース(同)副社長を経て、20年4月から現職。68歳。
事業内容:事務機器、機械、自動車、航空機などのリース事業、不動産、エネルギー事業など
本社所在地:東京都千代田区
設立:1969年7月
資本金:811億2900万円(2021年3月末)
従業員数:7438人(21年3月末、連結)
業績(21年3月期、連結)
売上高:1兆2001億円
営業利益:771億5400万円