週刊エコノミスト Online2021年の経営者

鳥貴族HD大倉社長「チキンバーガーで両輪経営」

Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都杉並区の東京事務所で
Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝:東京都杉並区の東京事務所で

居酒屋とバーガー店を経営の両輪に 大倉忠司 鳥貴族ホールディングス社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

── コロナ禍で2021年7月期は営業赤字でした。居酒屋「鳥貴族」の店舗もピークの670店から615店に減っています。

大倉 休業要請や時短要請を受け、1カ月通して鳥貴族を通常営業できたのは昨年10月だけだったので打撃でした。ただ、感染拡大の2年ほど前から、いったん出店をストップしてカニバリゼーション(自社の店舗同士が客を奪い合ってしまうこと)が起きた店舗を計画的に撤退しました。コロナ禍だから閉店したわけではありません。(2021年の経営者)

── 8月に東京・東大井(品川区)に開店した新業態のチキンバーガー店「トリキバーガー」は話題になりました。ファストフードへの進出は、居酒屋の落ち込みをカバーするためですか。

大倉 構想はコロナ前からありました。鳥貴族の米国出店を考え、市場視察に行ったのですが、現地ではチキン専門のハンバーガー店の繁盛ぶりがすごかった。日本で展開したら面白いと思っていました。10年に一度はこうした感染症拡大の可能性もあると知り、居酒屋だけだと経営的に弱いので、出店を早めました。想定以上の来店客で順調です。

── トリキバーガーの特徴は。

大倉 鳥貴族と同じく100%国産食材を売りにしています。セットメニュー590円の均一価格(モーニングは490円)で差別化しています。

── ノウハウがないと運営が難しいのでは。

大倉 大手ハンバーガーショップに20年以上勤めていた社員が2人おり、私の構想を具現化してもらいました。事業会社「トリキバーガー」を設立し、その2人を社長と取締役にしました。ファストフード店の来店客のニーズは低価格とスピードです。今は注文からの提供時間が平均3分間ですが、マクドナルドと同じ1分半に短縮を目指します。1号店では店内飲食だけでなく、モバイル注文も10月からスタートし、デリバリーも始めたいと思っています。

── ファミリーレストランなどもチキンバーガー業態に参入したほか、唐揚げもブームです。競争が厳しいのでは。

大倉 チキンは安く、宗教的な問題もなく、ヘルシーなイメージもあります。昨年5月ごろにプロジェクトを本格化させた時には他社の動きは知りませんでした。目のつけどころは同じですね。チキンの新しい市場を開拓できればと思っています。

両業態1000店目標

── 鳥貴族とトリキバーガーの今後の出店については、どう考えていますか。

大倉 出店余地がまだあり、全都道府県で計1000店まで増やす計画です。東京、名古屋、大阪を中心に展開していましたが、今後は札幌、仙台、広島、福岡に広げたいです。いずれ米国全土でも出店したいと思っています。

 トリキバーガーは3年間で14~20店の開業を計画し、国内1000店を目指しています。いずれアジア各国でも開業したいです。将来的には、鳥貴族と併せて経営の両輪にしたいと思っています。

── 鳥貴族の出店は今後も駅前中心ですか。

小倉 鳥貴族の標準店は駅前立地で、40坪(1坪は3・3平方メートル)70席規模です。それとは別に、例えば田中さんという社員が独立したら、「鳥貴族田中屋」とオーナーの名を加えた10坪くらいの超小型店をチェーン展開してもらうことを考えています。この店舗の立地は比較的小さな街になると思います。狙いは社員の働きがいです。40坪の店だと投資額も含めてハードルが高い。「小さな店でも接客をしながら自分でやりたい」という声もあるので、10坪の店だと500店はいけると見ています。これを含めると全国隅々まで鳥貴族を広げられると思います。

── 今年2月に経営形態を持ち株会社にしました。

大倉 トリキバーガーを傘下に置くためです。今後、チキン関連の別の事業会社を作る可能性もあります。事業会社に経営を任せ、スピーディーに経営してもらいたいです。事業会社で経験を積んでもらい、10年ぐらいかけて後継者を育てたいです。

── 後継者は。

大倉 リスクを怖がらず、挑戦し続け、そのための大きな戦略を描ける人。世襲はしません。会社を「大倉屋」にしてしまったら、ともに全国チェーンを目指す社員は一緒に会社を大きくしようと思わないでしょう。私の子供たち(長男はアイドルグループ「関ジャニ∞」の大倉忠義さん)も親にレールを敷かれるよりは、自分で将来を決めたほうが幸せだと思います。

── 10年後、どんな会社にしたいですか。

大倉 鳥貴族のDNAである「チキン、均一価格、国産」に沿った事業展開を続け、海外で通用する「グローバルチキンフードカンパニー」になりたいですね。

(構成=中園敦二・編集部)

横顔

Q 30代のころはどんなビジネスパーソンでしたか

A 25歳で居酒屋を始め、27歳で2店舗目を出店しました。全国チェーンを目指しましたが、30代は思うように拡大できず、悶々(もんもん)とした時期。40代で大阪・道頓堀に出店し勢いがつきました。

Q 「感銘を受けた本」は

A 社会的にインパクトのあることをしたいという思いから、京セラ創業者の稲盛和夫さんの本をよく読み、「経営者はこうあるべきだ」と学びました。

Q 休日の過ごし方

A ジョギングです。走りすぎないように5キロで抑えています。


 ■人物略歴

大倉忠司(おおくら・ただし)

 1960年生まれ。大阪府立盾津高校(現かわち野高校)、辻調理師専門学校卒業。大手ホテル、焼き鳥店勤務を経て、25歳の時に「鳥貴族」1号店を東大阪市に開業、翌86年にイターナルサービス(現鳥貴族ホールディングス)を設立し、現職。大阪府出身。61歳。


事業内容:居酒屋チェーン「鳥貴族」、ファストフード店「トリキバーガー」の事業会社経営管理

本社所在地:大阪市浪速区

創業:1985年5月

資本金:14億9100万円(2021年7月末)

従業員数:854人

業績(2021年7月期、連結)

 売上高:155億9000万円

 営業損益:46億6200万円の赤字

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