週刊エコノミスト Online2021年の経営者

遠心分離機と化学品の二刀流 巴工業に好調の理由を聞いた=山本仁社長インタビュー

    Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝、東京都品川区の本社で
    Interviewer 秋本 裕子(本誌編集長) Photo 武市 公孝、東京都品川区の本社で

    国内首位の遠心分離機、AIで制御も 山本仁 巴工業社長

     Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

    ── 機械メーカーと化学品を扱う商社という二つの顔を持つユニークな企業ですね。

    山本 機械事業と化学品事業はそれぞれ顧客が異なります。顧客企業は設備投資計画に沿って、固定資産として機械を購入します。一方の化学品は製品を作るための消費財です。実は相乗効果はそれほどありませんが、二つの強力なエンジンを持っていると言えます。(2021年の経営者)

    ── 機械事業が扱う「デカンタ型」といわれる遠心分離機で国内シェアトップですね。どのような製品ですか。

    山本 遠心分離機とは、中に入れた液体などの物質に遠心力を与え、比重差を利用して分離する機械です。回転筒を1分間で数千回転という高速で回して遠心力を得て、筒の内側に張り付いた固形物をスクリューで剥ぎ取っていくような構造で、短時間で分離することができます。遠心分離機の形がワインの容器に似ているためデカンタ型と呼ばれています。

    ── 構造はシンプルですね。

    山本 実はどこの家庭にも遠心分離機はあります。遠心力で衣服と水を分ける洗濯機の脱水機です。ただ、洗濯機は1回脱水したらフタを開けて中を取り出さなければなりません。我々の遠心分離機は連続で液体などを投入でき、連続で分け続けることができます。また、遠心分離機自体にも遠心力が加わるので、非常に強い構造で作らなければなりません。

     我々の遠心分離機はほとんどがステンレス製で、危険物を扱う製品にはチタンを使うこともあります。すべてオーダーメードで、素材や大きさ、構造などにより異なりますが、比較的安価なもので数百万円、高いものでは数億円です。遠心分離機は売って終わりではなく、修理や部品の交換もあり、ここでも利益が出ています。

    ── どのような業界で使われているのですか。

    山本 どの業界でも「混ぜる」「分ける」という製造工程は必ずあります。そのため、さまざまな業界で使われています。例えば、ペットボトル入りの緑茶は、ほとんど濁りがありません。これは、細かい茶葉などを取り除くために、飲料業界で遠心分離機が活用されているためです。食品やビールの製造工程でも活用されていますし、下水処理や石油化学製品の製造、医薬品製造などの現場でも活躍しています。

    ── 巴工業の製品の強みは。

    山本 遠心分離機には横型と竪(たて)型がありますが、竪型を製造しているのは当社だけです。竪型は回転筒を上からつり下げて回転させる構造です。横型よりも密閉構造にしやすいため、ガソリン、毒物、劇薬のような危険物を扱うには望ましいのです。

     また世界で唯一、AI(人工知能)を組み込み、自動で運転制御できる遠心分離機の販売を始めました。これまではベテランの運転員が機械のそばに立ち、ダイヤルを回したりする微妙な調整が必要でしたが、これをAIにやらせようという狙いです。

    化学品販売も好調

    ── もう一つの柱である化学品事業の特徴は。

    山本 「ニッチ」で高付加価値な商品を取り扱っていることが特徴です。市場規模が小さく収益性が大きくないので大手商社は参入していませんが、顧客の困りごとを解決する特性や優位性を持った商材を取り扱っています。

    ── 例えばどんな商材ですか。

    山本 我々が販売している「シリカフューム」という材料は、セメントに少し添加するだけで強度が10倍になるもので、新幹線の高架や高層ビルなどに使われています。これまで扱ってきた商材は3万5000種類以上にのぼります。多様なニーズにきめ細かく対応できることも我々の強みです。

    ── 新型コロナウイルスの影響で業績が厳しい企業が多い中、好業績を維持していますね。

    山本 機械は景気に左右されにくい事業です。遠心分離機の製造は早くても2~3カ月、長ければ1年かかるものもあります。そのため昨年から既に注文があったので、影響を受けにくかったわけです。逆に化学品事業が扱う商材は景気の影響を受けやすく、すぐに注文がなくなってしまいます。しかし今は、中国経済がいち早く回復したことで、自動車の生産量が一気に戻ったので、自動車に使われる商材を扱っている当社も助けられた面があります。

    ── 自己資本比率が77・2%(20年10月末)ととても高いですね。

    山本 遠心分離機は必要なところにしか売れない機械なので、積極的に設備投資をして増産しても、たくさん売れるわけではありません。そのため、これまでの利益を蓄積した結果、自己資本比率が高くなっています。

    ── 今後注力する分野は。

    山本 化学品では半導体関連に注目しています。機械部門はリサイクルやエネルギーの分野への販売を増やしたいですね。

    (構成=神崎修一・編集部)

    横顔

    Q これまで仕事でピンチだったことは

    A 楽天家なのか鈍感なのか。ピンチを感じたことはあまりありません。米国への進出を提案して、反対されながらもシカゴで事務所を作ったことは苦労しました。

    Q 「好きな本」は

    A ビジネス書も読みますが、大藪春彦や北方謙三のハードボイルド系小説に心が躍ります。

    Q 休日の過ごし方

    A ヨットです。レースに出場することもあります。


     ■人物略歴

    山本仁(やまもと・ひとし)

     1955年生まれ。都立広尾高校、東海大学工学部卒業。79年入社。機械本部産業機械営業部長、機械本部長、化学品本部長などを経て2015年より現職。東京都出身、66歳。


    事業内容:遠心分離機の製造・販売、化学工業製品の販売など

    本社所在地:東京都品川区

    設立:1941年5月

    資本金:10億6121万円

    従業員数:733人(2020年10月末、連結)

    業績(20年10月期、連結)

     売上高:392億1800万円

     営業利益:22億6000万円

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    12月7日号

    東証再編サバイバル18 収益性底上げへの“荒業” 日本株再起動の起爆剤に ■稲留 正英/中園 敦二24 インタビュー1 再編の狙いに迫る 山道裕己 東京証券取引所社長 「3年後には『経過措置』の方向性 プライム基準の引き上げもありうる」27 やさしく解説Q&A 東証再編/TOPIX改革/CGコード改 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事