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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

都市型店舗で攻勢、チキンがヒット 細見研介 ファミリーマート社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市公孝 東京都港区の同社店舗で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市公孝 東京都港区の同社店舗で

都市型店舗で攻勢、チキンがヒット

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2021年第1四半期(21年3〜5月)の事業利益(日本基準の営業利益に相当)は280億円と前年同期比で3倍増でした。

細見 前年はコロナで一斉に在宅勤務が広がりましたが、一部の企業では出社勤務が戻ってきていて、人出も昨年ほどには落ち込んではいません。増益は、「稼ぐ」「削る」「防ぐ」を徹底する「かけふ」の成果が出ています。当社は今年9月に設立40周年を迎え、記念企画の商品を今春から次々出していることもあり、売り上げは回復基調にあります。利益が伸びたのはコスト削減を続けたからです。対象は全領域で聖域はなく、「これで終わり」ということもありません。(2021年の経営者)

── コンビニチェーン経営で重視される数値が1店舗の1日当たりの売り上げ(平均日商)です。21年2月期はセブン─イレブン・ジャパンに約15万円の差を付けられています。

細見 平均日商を重視して経営を考えるのはもはや時代遅れだと思います。セブン─イレブンは先行して全国に店舗網を作った強みがあります。しかし、従来のように地方や郊外に大きな店を出して売り上げを稼ぐという定型的なコンビニの経営ができる地域は限られてきていると思います。

 ファミリーマートは後発ということもあって、小型の店を都市部に多く出しています。コロナ禍を契機に従来の強みが弱みに変わって、その逆もまたしかりになっていくと考えています。直近の21年度第1四半期では、新店の平均日商で当社は47・7万円で、わずかですがセブン─イレブン(47・4万円)を上回っています。全店日商ではなく、細かく見ていく必要があります。

 ファミリーマートは8月19日、親会社の伊藤忠商事と共同で、電子看板を活用した事業の新会社を設立すると発表した。

細見 当社には都市部の小型店舗の運営ノウハウがあります。ファミリーマート独自のメディアとして、商品のCMやニュース、地域情報を流して収益化を図ります。1日当たり約1500万人が来店する集客力に着目して、3年以内に電子看板が設置可能な全店舗への展開を目指す考えです。

── 8月に西武新宿線中井駅(東京都新宿区)に無人決済システムを導入した店を開きました。

細見 無人店舗も本格的に出店を増やす考えです。これから応用事例が出てくると思います。中井と同様の業態で出店する場合もあるだろうし、小さな無人店舗が他業態店の中に組み込まれることも出てくるでしょう。ビジネスホテルの1階に無人決済の店舗を入れて、非接触で朝食を提供することもできるし、近くのファミリーマートから配達することだって可能です。だからといって、「小さな店をまんべんなく出す」ということではありません。

揚げ物とスイーツに力

── 3月に発売したフライドチキンの「クリスピーチキン」がヒットしています。

細見 発売後2日間で想定の2倍となる200万食分が売れました。欠品して加盟店に迷惑を掛けるほどでした。従来の定番商品「ファミチキ」を超えようと商品企画に約2年半かけて、味、肉の部位、サイズ感にこだわりました。年代、性別に限らず好評です。当社は「フライヤー(揚げ物)」の商品が強いのですが、そこで新しいヒットを出そうと狙いました。

── ほかにヒット商品は。

細見 6月に発売した「バタービスケットサンド」が飛ぶように売れています。ビスケットの中にチーズクリームが入っていて、レモンやチョコレートなど4種類を出しています。コロナで自宅にいる時間が長くなる中で、「食べ比べをしたい」という需要を喚起しました。日本マクドナルドなどで活躍した足立光氏が昨年10月に当社の「チーフ・マーケティング・オフィサー」に就任して、マーケティングを強化した成果が出ています。

値引きで廃棄削減

── 一方で、弁当や総菜などが売り切れのことがよくあるとの声も聞きます。

細見 コロナ禍の以前に、売れ残った弁当などを廃棄処分する「フードロス」の問題がメディアで盛んに取り上げられました。そこにコロナ禍が加わって、加盟店は売れ残りが出ないようにと発注が消極的になった面がありますが、最近ではそうではないと思います。

 7月から、消費期限が迫った商品に値引きの金額とバーコードを付けたシールを本部が加盟店に配り、店頭で商品に貼って、値下げすることによって売れ残りを減らす取り組みを始めています。以前は値引きするには、レジの作業に加えて、伝票に記入する必要があり手間が掛かっていました。新しい仕組みで作業が簡略化して値下げをしやすくなったと思います。

(構成=浜田健太郎・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 伊藤忠商事時代、スペインの宝飾ブランドの販売権で契約寸前でしたが、見込み客に聞いたら、「いらない」と断られ、踏みとどまりました。

Q 「好きな本」は

A イタリア人の物理学者、カルロ・ロヴェッリによる『時間は存在しない』(NHK出版)です。「時間は人間の観念だけが作り出している」との主張を平易に説明していて非常に面白い。

Q 休日の過ごし方

A 週末は掃除、洗濯、庭木の水やりが多いです。自宅は大阪で12年くらい単身赴任です。


 ■人物略歴

細見研介(ほそみ・けんすけ)

 1962年生まれ。大阪府立豊中高校、神戸大学経営学部卒業。86年伊藤忠商事入社。2017年4月同社執行役員を経て21年3月から現職。大阪府出身。58歳。


事業内容:コンビニエンスストアチェーンの運営

本社所在地:東京都港区

設立:1981年9月

資本金:166億5900万円

従業員数:1万3070人(2021年2月末)

業績(21年2月期、連結、国際会計基準)

 営業収益:4733億円

 事業利益:712億円

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