経済・企業2021年の経営者

ウインナー「香薫」が好調、養豚に注力 千葉尚登・プリマハム社長

    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市公孝 東京都品川区の同社本社で
    Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市公孝 東京都品川区の同社本社で

    ウインナー「香薫」が好調、養豚に力

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ── 2021年3月期、ハム・ソーセージ大手の中で唯一、増収増益でした。

    千葉 昨年の4、5月は緊急事態宣言が出て消費者がスーパーで食料品を買いだめしました。ソーセージなどの加工食品は冷蔵庫に入る量に限界があるので、その後も定期的に購入します。感染を恐れてお店に長時間いたくない消費者は、知名度の高いメーカーの製品を買う傾向がありました。それで大手各社は売れ行きが良く、なかでも当社のウインナーソーセージの「香薫(こうくん)」が好調でした。(2021年の経営者)

    ── 他のソーセージとの違いは。

    千葉 香薫は通常90グラムの袋入りですが、7日分に相当する630グラム入った大袋がすごい勢いで売れました。他社にも類似の商品はあったのですが、当社は袋にジッパーを付けたので、冷蔵庫で保存をしやすいと好評でした。香薫を試した消費者が「これはいいじゃないか」と、繰り返し購入するようになったと思います。香薫の発売は2002年で来年は20周年ですが、販売が伸びるようになったのはこの10年間くらいです。コロナ禍以前でも対前年比十数%の伸び率を続けていましたが、昨年度は23%増えました。

    ── 日本では日本ハムの「シャウエッセン」がトップブランドとして有名です。競合他社と味の面で比べるとどうですか。

    千葉 香薫は、桜のチップでスモークして挽(ひ)き立てのスパイスを加えており、製法は特許を取っています。もう一つは「ジューシー」さ。つまり「脂身のおいしさ」です。シャウエッセンは強力なブランドで、ハム・ソーセージ分野では日本ハムは圧倒的に強いのですが、ある調査会社によると今年5月はこの分野で当社が首位に立ちました。

    ── 一方で、香薫以外に大きなヒット商品がなく、「一本足打法」では危ういのでは。

    千葉 そこは課題だと認識しています。社内にはいろいろ宿題を出していて、「香りの物語」(香草類などを加えた高級なソーセージ)を「第2の柱」にしたいという意見は出ています。ただ、この分野は競争が激しく各社とも苦労しています。

    養豚にAI活用

    ── ソーセージなど加工食品に次ぐ柱の食肉事業では養豚に注力していて、宮城県に約13ヘクタールの養豚農場を計画しています。

    千葉 当面の投資額は100億円を超えます。もともと東日本大震災までは東京電力福島第1原発の近隣で養豚を手掛けていたのですが、原発事故の影響でできなくなりました。そこで新たに養豚場を買収して規模を拡大しています。

     食肉は世界的な需要の増加で価格が上がったり、今回のコロナでは海外の加工工場で操業が止まりかけるなど、輸入が難しくなる可能性があります。国内で豚の飼育を手掛けることで、豚肉市場の国内外の相場変動に影響されない体質にすることができます。

    ── 養豚ではどう競争力を高めますか。

    千葉 いま目指しているのは、豚舎にカメラを付けて子豚を個体で識別できるようにすることです。AI(人工知能)の進化で可能になると思います。個体に合わせてエサの中身も変えて、生産性を上げることができると考えています。

     養豚場を科学的に管理していく。例えば、母豚が妊娠する確率、飼料の配合、親豚に踏まれて死んでしまう子豚をいかに減らすかなど、いろいろな要素を分析して効率化を図ります。昨年度は豚の出荷頭数が6%増えて、1頭当たりのエサの量が3%減りました。

    ── 2000年ごろに経営が厳しくなり、伊藤忠商事の支援を受けました。社長就任後、会社はどう変わったのでしょうか。

    千葉 私の前任社長(松井鉄也氏)が指摘していたことですが、00年当時は「集中治療室(ICU)」にいて、生き残りが最優先。かなり厳しいリストラもしました。前任社長に交代した時点(09年)では株の配当も再びできるようになり、ICUから一般病棟に移った。そのあと退院できたタイミングで私が18年に社長に就任しました。

     私は、伊藤忠の食料部門時代、プリマハムを外から見る立場でしたが、00年代はプリマハムの営業マンが取引先から「プリマの製品は売れないから来るな」と言われる厳しい状況で、従業員も自信を失っていました。前任社長は、取引先回りが好きでスーパーにも喜んでもらい、商品も良くなって従業員が明るくなりました。今は従業員が自ら考え、提案できるし、うまく回っていると思います。

    ── 再建は完了し、順調だと。

    千葉 とはいえ生き残りだけを目指していた00年代、安定成長に戻った10年代とは周囲の景色は変わっています。国内で人口が減少する中で新しいことを仕掛けていく必要があり、それがDX(デジタル技術を駆使した変革)だと社内では強調しています。

     (構成=浜田健太郎・編集部)

    横顔

    Q これまで仕事でピンチだったことは

    A 伊藤忠商事時代に、青果物メジャーの米ドールの加工食品事業とアジアでの青果生産事業の買収を担当しました。毎週のように米国に出張し、厳しい交渉で相手から怒鳴られたこともありました。

    Q 「好きな本」は

    A D・カーネギーの『人を動かす』です。

    Q 休日の過ごし方

    A ゴルフが好きですが、コロナで最近はあまり行けません。その代わり土日両日に15キロ歩いています。


     ■人物略歴

    千葉尚登(ちば・なおと)

     1958年生まれ。岩手県立水沢高校、東京大学農学部卒業。83年伊藤忠商事入社。2014年同社執行役員を経て、16年プリマハム常務執行役員。18年6月から現職。岩手県出身。62歳。


    事業内容:ハム・ソーセージなどの加工食品、食肉の製造販売

    本社所在地:東京都品川区

    設立:1948年7月

    資本金:79億800万円

    従業員数:3512人(2021年3月末、連結)

    業績:(21年3月期、連結)

     売上高:4335億円

     営業利益:214億7500万円

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