週刊エコノミスト Online2021年の経営者

顔認証では誰にも負けない、5Gでも勝ちに行く 森田隆之NEC社長

    Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の東京本社で
    Interviewer 藤枝 克治(本紙編集長) Photo 武市 公孝:東京都港区の東京本社で

    社会インフラで技術を生かす 森田隆之 NEC社長

     Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

    ―― 2020年3月期、21年3月期と2年続けて最高益を更新しました。

    森田 昨年前半は、海外での都市封鎖や国内の緊急事態宣言で製造部門の操業に影響が出ました。一方で、リモートワークなど新しい働き方を支援する需要が生まれ、デジタル化やDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速し、その中でコミュニケーションの重要性も改めて認識されるようになりました。

     また、当社が開発に力を入れてきた顔認証技術が、非接触で安心・安全な技術と評価されるなど、いろいろな種をまいてきたことが、新しい価値を生んでいます。(2021年の経営者)

    ―― NECの顔認証技術はマスクをしていても認識できるいうことで、企業や空港で使われています。

    森田 バイオメトリクス(生体認証)は究極の安心・安全な個人認証の手段だと思います。カードのように紛失するリスクもありません。NECは、あらゆるバイオメトリクスに取り組んでおり、顔、指紋、虹彩(目)については、米国立標準技術研究所(NIST)でトップの評価を受けています。また、顔認証は米国の国土安全保障省や世界の航空会社連合、スターアライアンスで採用されており、長年にわたって信頼関係を築いています。

    ―― デジタル化の分野では競合企業がたくさんいます。NECの強みは何ですか。

    森田 NECの存在意義は、まず技術だと思います。R&D(研究開発)の投資額は年間1100億~1300億円で、グローバルでは決して大きな額ではありません。しかしバイオメトリクスは世界一で、AI(人工知能)や通信技術もユニークで先端的な技術を有しており、効率的な研究開発ができていると思います。

     さらに、こうした技術をミッションクリティカルな(停止や誤作動が許されない)社会インフラに提供し、永続的にサービスしていることが、大きな価値です。

    世界で評価される技術

    ―― これから普及が見込まれる第5世代移動通信規格(5G)では、基地局を手掛けていますが、世界ではファーウェイ(中国)、エリクソン(スウェーデン)、ノキア(フィンランド)が3強です。勝算は。

    森田 5Gの基地局は、各メーカーの機器を自由に組み合わせられる「オープン化」と、専用の機器の代わりにソフトウエアで対応する「仮想化」の技術の開発を進めていて、かなり手ごたえを感じています。また、米中対立により、欧米市場では中国企業の製品を採用しにくくなっています。

     中国企業を除くと基地局を提供できる企業が限られ、健全な競争環境ではなくなることが懸念されており、我々が入り込むチャンスが生まれています。30年にはオープンの市場が全体の半分を占めると予想しており、そのうちNECで2割のシェアを取りたいと思っています。

    ―― 今年度からの5カ年の中期経営計画は、25年に売上高3・5兆円、営業利益3000億円を掲げています。現在それぞれ3兆円、1500億円で、目標は高いですが、どう実現しますか。

    森田 今年3月までの3カ年の中計は目標を達成しました。次もやると言ったことはやります。そのためには戦う領域を明確にすることが重要で、具体的には(1)行政・金融のデジタル化、(2)5G、(3)国内のDX、の三つに注力していきます。行政・金融のデジタル化と5Gについては日本を含めたグローバルでの競争を想定しています。グローバルで競争力のあるポジションを取れなければ、日本でも責任ある役割を果たせないと思っています。

    ―― 東京五輪では、当初予定されていたNECの顔認証が不要になり、その後、開発費などを巡って平井卓也デジタル改革担当大臣が、「NECには発注しない」などと発言して物議を醸しています。

    森田 大臣の発言については、どういう状況での発言かが分からないので、コメントは控えたいと思います。ただ、われわれはテクノロジーの会社なので、正攻法で勝負するしかありません。海外でも高く評価されている技術の優位性を発信していくだけです。

    ―― 昨年6月にNTTと資本業務提携しました。かつての「電電ファミリー」をほうふつとさせます。NTTが経営に関与する可能性は。

    森田 資本提携でNTTは第3位の株主になりましたが、持ち株比率は4・77%に過ぎず、経営への関与はあり得ません。NTT社長の澤田純氏とも最初の話し合いでそこは明確になっています。NTTは世界でも有数の研究開発部門を持っています。NECとしても、これから通信技術の課題に挑戦していく際に、優れた研究開発を行っているNTTがパートナーであることはメリットが大きいです。

    (構成=村田晋一郎・編集部)

    横顔

    Q これまでの仕事で失敗したことは

    A 2006年ごろにOCCという海底ケーブル会社の競売で、ファンドに負けたことです。勝てると思っていたのでショックでした。しかし数年後にファンドがその事業を売却した際には買収できました。

    Q 「印象に残った本」は

    A 渡辺章博さんの『M&Aのグローバル実務』です。実践的かつ実務的な内容で、M&Aに関わり始めた時期に参考になりました。

    Q 休日の過ごし方

    A 最近はネット動画を参考に料理をしています。


     ■人物略歴

    森田隆之(もりた・たかゆき)

     1960年生まれ、大阪府立北野高校卒業、83年東京大学法学部卒業、NEC入社。2016年取締役執行役員常務兼CGO、18年代表取締役執行役員副社長兼CFOを経て、21年4月代表取締役執行役員社長兼CEOに就任。大阪府出身、61歳。


    事業内容:ITソリューション、通信ネットワーク基盤システムおよび運用サービス、システムプラットフォーム

    本社所在地:東京都港区

    創立:1899年7月

    資本金:4278億円(2021年3月現在)

    従業員数:11万4714人(21年3月現在、連結)

    業績(21年3月期、連結)

     売上高:2兆9940億円

     営業利益:1537億円

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    10月5日号

    安い日本 超円安時代16 外食、賃金、学費 安売り大国を覆う不安 ■浜田 健太郎/加藤 結花18 インタビュー 渡辺努 東京大学大学院教授 「物価上昇にカルテルの一時容認を」19 1ドル=360円時代 急増する対外直接投資と環流しない企業利益 ■佐々木 融22 パラダイム転換 1ドル=120円常態化 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事