週刊エコノミスト Online2021年の経営者

69歳新社長が東京都心の大型再開発に挑む=鹿島社長・天野裕正

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 中村 琢磨、東京都港区の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長)Photo 中村 琢磨、東京都港区の本社で

浜松町や田町で大型再開発に挑む 天野裕正 鹿島社長

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2021年3月期決算は減収減益となりました。新型コロナの影響は大きかったですか。

天野 土木の影響は軽微でしたが、建築では工事の延期や中止がありました。先行きへの不透明感が生まれたことで業者間での受注競争が激しくなり、低利益となったことも影響しました。海外は、欧米ではほとんど影響は受けませんでしたが、東南アジアでかなり広い範囲で工事が中断しました。(2021年の経営者)

── これからの見通しは。

天野 オリンピック開催を目指した工事が終わり、建設の流れが踊り場にさしかかっています。谷というほど悪い状況ではありませんが、追い風はやみました。ただ、23年ごろには進行中の工事が完成しますし、次の工事の計画も始まります。この先は上昇していくのではと期待しています。

── 期待するのは都心部の再開発ですか。

天野 そうですね。我々が携わる事業では浜松町駅前(東京都港区)の世界貿易センタービル(本館)の建て替え工事が動き出しました。東京モノレールや東海道新幹線といった交通の大動脈が近くにあり、施工の難易度がとても高い工事です。また東京工業大学による田町キャンパス(同区)の再開発は、32年のグランドオープンを目指します。渋谷や新宿にも駅周辺に再開発計画があります。東京ではかなり先まで開発が続きそうです。

── 建設会社として鹿島の強みはどこにありますか。

天野 開発、エンジニアリング(生産システムの構築など)、設計、施工と、上流から下流まで総合的にできる技術やマネジメント力を持っています。昨年亡くなった鹿島昭一相談役が数十年前から、このような狙いを持って会社づくりを進めました。個々の技術でいえば、建物の揺れを制する技術や、建設現場の自動化、ロボット化といった分野は先んじています。

── コロナ禍で、オフィスなど建設需要が今後しぼむことは考えられますか。

天野 心配されるような、オフィス需要が減るということはすぐにはないでしょう。空室率は上昇すると思いますが、(好不況の境である)空室率5%まではいかないとみています。ただ働き方は変わるでしょう。密にならないよう社内の空間をより広く取るようになるかもしれません。

── 建設業界は人手不足に直面しています。ライバルの竹中工務店と技術連携し問題の解消を目指していますね。

天野 機械遠隔操作システムなどを共同で開発しています。建設業界にとっても必要な技術です。個別に努力するより、共同で実施すれば時間もコストも削減できます。このような意識を共有するのが大切です。この取り組みに清水建設も加わりました。

── 海外ではさまざまな開発を手掛けますが、アルジェリアの道路建設を巡り多額の損失を出した経験もあります。海外でうまく事業を展開できますか。

天野 国内にはこの先も再開発事業がありますが、人口が減っていく中で、かつての高度成長のようなことはあり得ません。そのため、我々の技術を活用して海外でビジネスを起こすことが必要です。海外では国内の事業のように暗黙の信頼関係が通じないのは確かです。しかし我々は1960年代から米国に進出し、ロサンゼルスの日本人街「リトル・トーキョー」の再開発に取り組むなど、現地でさまざま経験を積んでいます。

── リニア中央新幹線の建設工事を巡る談合事件で、元幹部社員が有罪判決を受けました。

天野 有罪判決を受けたことは誠に残念であり、当社の主張が認められなかった1審判決には承服できないため、東京高裁に控訴しました。私は中部と東京で支店長を務め、受注判断に直面したこともありましたが、(談合は)一切ありません。どのような場面でもやってはいけないと社員全員が意識改革しています。

69歳で社長就任

── 69歳での社長就任です。他社のトップと比べると決して若くはありません。

天野 今年の秋には70歳になります。3月の就任発表会見には年齢についての質問が出るかもしれないと準備していましたが、実際にはありませんでした(笑)。「天命を信じて人事を尽くす」だけです。毎朝出社する前に近所を歩き、お酒を控えめにするなど、健康については注意しないといけません。

── かつては創業一族による経営が続いていました。この先の創業家の役割について、どのように考えますか。

天野 私が社長に選ばれる段階で、どのような判断が働いたかは分かりませんし、このことについて私個人の見解も持っていません。しかし、営業面などで創業家の存在が何かしら貢献するかもしれません。今後、いろいろな方と相談しながら考えていきます。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 38歳の時に50億円規模の工事の現場所長に抜てきされました。バブル経済絶頂期でしたので作業員がなかなか手配できないなど、さまざまなピンチがありました。

Q 「好きな本」は

A 藤沢周平の文庫本は全部買いました。司馬遼太郎も好きです。

Q 休日の過ごし方

A ゆっくり休むことです。


 ■人物略歴

天野裕正(あまの・ひろまさ)

 1951年生まれ、私立開成高校(東京)卒業、早稲田大大学院(建設工学)修了。77年鹿島入社、常務執行役員中部支店長、副社長執行役員東京建築支店長を経て2021年6月より現職。神奈川県出身、69歳。


事業内容:土木・建築工事の受注・施工、不動産開発など

本社所在地:東京都港区

設立:1930年2月

資本金:814億円

従業員数:1万8905人(2021年3月末、連結)

業績(21年3月期、連結)

 売上高:1兆9071億円

 営業利益:1272億円

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

8月9日・16日合併号

世界経済 ’22年下期総予測第1部 世界経済&国際政治14 米国は景気後退「回避」も 世界が差し掛かる大転機 ■斎藤 信世/白鳥 達哉17 米ドル高 20年ぶり高値の「ドル指数」 特徴的な非資源国の通貨安 ■野地 慎18 米長短金利の逆転 過去6回はすべて景気後退 発生から平均で1年半後 ■市川 雅 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事