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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

ガラスだけじゃない! 半導体向け素材や医薬品受託生産まで手掛ける強み 平井良典AGC社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都千代田区の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)Photo 武市 公孝、東京都千代田区の本社で

AGCはガラスだけじゃない 半導体向け素材が絶好調

半導体向け素材の好調がけん引

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

―― 売上高のおよそ半分を占める主力のガラス事業の状況は?

平井 新型コロナウイルスの影響で、建築用と自動車用のガラスの売り上げは、昨年第1四半期(1~3月)から落ち始め、ロックダウン(都市封鎖)があった欧州で最も打撃を受けました。ガラス以外の事業も含め約500億円の営業減益の要因になったとみています。前年の反動もあるかと思いますが、建築用ガラスは戻りつつあります。心配なのは自動車です。半導体不足の問題が響いています。生産ラインを止めた会社もあると聞いています。需要は戻っているのですが、供給ができない状態なのです。今年の第2四半期(4~6月)以降、大きな影響を受けそうです。(2021年の経営者)

―― アンテナを搭載したガラスなど自動車用では付加価値の高い製品を生産しています。

平井 ガラスアンテナの分野では我々の技術が最も進んでいるといえます。ガラスメーカーでアンテナそのものを設計し、性能評価もできるのは我々だけ。アンテナ性能を試験する「電波暗室」も日米欧の3カ所に展開しています。5G(第5世代移動通信システム)で高周波化が進むと、周りとの「干渉」が必ず起こってしまいますので、設計と評価がしっかりできないといい製品ができません。

―― 自動車の機能は進化しており、車載ディスプレー用のカバーガラスのような新たな需要も生まれていますね。

平井 CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展で、運転席やその周りがディスプレー空間に変わります。この分野では技術力で付加価値が生み出せるようになると考えています。ここでの我々の強みは複雑形状ガラスを製造できることで、AGCでしか作れないシェア100%の製品。巨大な平面ガラスが車内にあると、デザイン上で違和感があるようです。これまでは横浜市の拠点で生産してきましたが、今後は中国・蘇州に車載ディスプレー用の新しい工場を立ち上げて、量産していく計画です。

―― ガラス事業全体は利益が伸び悩んでいる状態です。どう改善しますか。

平井 すでにフランスのガラス製造窯を一つ止めていて、今後再稼働させるつもりはありません。人員の効率化を進めており、建築用と自動車用で固定費を中心に2023年末までに計150億円を削減します。コストが落ちて生産の余剰もなくなれば、コロナ以前より状態は良くなるはずです。構造改革は必ず進めていきます。

―― 基本合意していたセントラル硝子との国内建築用ガラス事業の統合について、今年1月に中止を発表しました。なぜですか。

平井 事業への価値評価や統合する際のプロセスやコストなどの見方が両社で合いませんでした。統合するといっても「1+1」を「2」にするわけにはいきません。どういう形で(拠点などを)残すのが強い形になるかと議論をしましたが、一致できませんでした。

医薬品受託生産も

―― 半導体生産用の素材では、低膨張ガラス基板の表面に遮光性の薄膜を形成したフォトマスクブランクスで、最先端のEUV(極端紫外線)露光用を生産していますね。

平井 EUV露光用フォトマスクブランクスは4~5年前からようやく本格量産できる状態になりました。米インテルや台湾TSMCを中心としたロジック半導体で(EUV露光装置の活用)が最初に動き出し、メモリー半導体にも広がっています。EUV露光装置を作るオランダのASMLや、半導体メーカーも増産計画を打ち出しています。EUV露光用マスクブランクスは、25年12月期に売上高400億円は堅いだろうとみていましたが、それ以上のペースで伸びるかもしれません。

―― 製造には難しい技術が必要ですか。

平井 作れるのはAGCとHOYAの2社だけです。表面の平坦(へいたん)度や欠陥(異物)に対する基準などが非常に厳しく、例えるなら東京ドームの広さのガラスで許される欠陥はスギ花粉数個以下というレベル。相当に高い技術が必要なので簡単にはマネできません。

―― 医薬品の受託生産事業が好調です。

平井 製薬メーカーは開発と販売に集中し、生産は我々のようなパートナーへ委託することが一般的になりました。ライフサイエンス(医薬品)事業は計画以上に伸びています。25年12月期に売上高1000億円を目標に掲げていましたが、21年12月期に1000億円を超える見通しです。

―― 他のメーカーとの違いは。

平井 合成医薬とバイオ医薬の両方の分野を手掛け、バイオ医薬では、微生物や動物細胞、遺伝子治療と、さまざまな分野を扱っていることが強みです。また日米欧にそれぞれ拠点を持つ企業は我々以外ありません。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 研究所時代から新しい事業に数多く挑戦し、失敗もたくさんしました。常にピンチと向き合ってきました。

Q 「好きな本」は

A 司馬遼太郎は何度も読み返していて、『項羽と劉邦』が特に好きです。

Q 休日の過ごし方

A 1日はゴルフ、もう1日は家族と過ごしていましたが、最近は家族と一緒にいる時間が増えました。


 ■人物略歴

平井良典(ひらい・よしのり)

 1959年生まれ、福井県立藤島高校卒業、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。87年旭硝子(現AGC)入社、電子カンパニー事業企画室長、事業開拓室長、専務執行役員最高技術責任者(CTO)、2021年1月より現職。福井県出身、61歳。


事業内容:建築用・自動車用ガラス、ディスプレー、電子部材、化学品、セラミックスなどの製造・販売

本社所在地:東京都千代田区

創立:1907年9月

資本金:909億円

従業員数:5万6179人(2020年12月末、連結)

業績(20年12月期、連結)

 売上高:1兆4123億円

 営業利益:758億円

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