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赤字ばねに構造改革し、稼ぐ力を強化 石橋秀一 ブリヂストンCEO

Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区の本社で
Interviewer 藤枝 克治(本誌編集長) Photo 武市 公孝 東京都中央区の本社で

赤字ばねに構造改革し、稼ぐ力を強化

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

── 2020年12月期連結決算は69年ぶりの最終赤字(233億円)に転落しました。

石橋 売上高は前年同期比で15%減、事業の実態を表す調整後営業利益(国際会計基準)も35%減となりました。営業利益は黒字なので、事業自体が危ないということではありません。(2021年の経営者)

 ただ、先送りにしてきた過去の課題に正面から向き合わないと先がないと考えました。20年から国際会計基準(IFRS)に移行したこともあって、このタイミングで事業の価値を見直し、赤字の中国のトラック・バス向け事業などで減損損失(計896億円)を計上しました。最終赤字はゴム価格の乱高下があった1951年以来です。早くもとの姿に戻さないといけません。

── どのように立て直しますか。

石橋 過去5年の経営成績をみると、売上高は横ばいですが、5000億円あった営業利益がだんだんと減少し、20年12月期は2200億円となりました。利益が減っているのは、外と内にそれぞれ理由があり、内側の理由は我々のコスト構造。新しい工場や生産設備などへかなりの額を投資しましたが、それに見合ったリターンを生み出していません。プレミアム商品を作って売り上げが上がっていればいいのですが、それができていないのです。経費も膨らみ、企業体質が甘くなっています。

── 外の理由は何ですか。

石橋 中国、韓国、インドの新興メーカーが、価格の安い「汎用(はんよう)品」で売り上げを伸ばしています。新興メーカーのシェアが上がり、我々だけでなく仏ミシュランや米グッドイヤーといった大手もシェアを落としています。

── ブリヂストンタイヤの強みはどこに。

石橋 一つは高いブランド力ですね。自動車レースのF1参戦(97年)の前は、欧州の自動車メーカーに相手にされない悔しい時代もありました。次第に認められて独BMWなど高級車でも採用されています。二つ目は機能。安全・安心を担保しながら、転がり抵抗の低い低燃費タイヤや、パンクしても走れるタイヤ、耐久性があるタイヤなども提供しています。

── 価格の安い新興メーカーにどのように対抗しますか。

石橋 我々も汎用品を作ってはいますが、極めて安い価格が求められるような市場は、レッドオーシャン(競争が激しい市場)ですので、積極的には入っていきません。SUV(多目的スポーツ車)が世界中で人気で、タイヤの高インチ化(大型化)が進んでいます。利益率の高い高インチタイヤに注力していきます。

── 新興メーカーは高インチタイヤは作れないのですか

石橋 大きなタイヤほど製造が難しくなります。鉱山用車両向けのような直径4メートルもある巨大なタイヤは、我々とミシュランしか作れません。またタイヤ製造には、各メーカーがゴムなどの原料を混ぜ合わせる「秘密のレシピ」のようなものもあるんですよ。タイヤの製造は「匠の技」で成り立っており、このような技術をどうデジタル化し、標準化するかにも取り組んでいます。

── タイヤ以外の「多角化事業」の売り上げを6割減らし、タイヤも含め世界で約160ある生産拠点を4割削減する、という大胆な構造改革を打ち出しました。

石橋 米国の建材会社の売却を決めました。三つある自転車の工場も一つは閉鎖し、タイヤでは南アフリカとフランスの工場を閉めます。その他は検討中です。関係者も多いので、適切なタイミングでお知らせしたいと思います。

F1復帰は「なし」

── 工場の閉鎖でタイヤの生産能力は維持できますか。

石橋 心配はありません。閉鎖する二つのタイヤ工場はもともと古くて小さい工場で、汎用品のタイヤしか製造できないからです。タイやベトナムにある工場の生産能力が少し余っているので、人員を増やせばもっと生産を増やすことも可能です。

── ソリューション(課題解決型)サービスの強化を掲げています。

石橋 顧客の困りごとを理解し、解決することは大切です。例えば、日本航空(JAL)との間で、タイヤ摩耗の予測技術を活用した整備の効率化を進めています。航空機タイヤは環境ごとに摩耗の仕方が変わるため、交換の時期が読みづらいという課題がありました。我々とJALで着陸時のデータなどを分析し、交換時期が予測できるようになったことで、在庫管理や人員配置を効率化できました。

── F1からは10年に撤退しました。復帰する考えは?

石橋 今の段階で復帰はありません。個人的にモータースポーツは大好きですが、F1への参戦には年間100億円近い費用がかかります。経営資源の配分を考えた時に、難しいとしか言えません。

(構成=神崎修一・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 米子会社ファイアストンに派遣されていた時代にリコール問題(2000年)に直面しました。倒産寸前で修羅場でした。昼も夜もなく、問題解決に奔走しました。

Q 「好きな本」は

A 稲盛和夫さんの『心。』は定期的に読みます。

Q 休日の過ごし方

A 美術館巡りやジャズを聞くのが大好きです。


事業内容:乗用車用、トラック・バス用、建設・鉱山車両用タイヤの製造・販売など

本社所在地:東京都中央区

設立:1931年3月

資本金:1263億円

従業員数:13万8036人(2020年12月末、連結)

業績(20年12月期、連結)

 売上高:2兆9945億円

 営業利益:641億円


 ■人物略歴

石橋秀一(いしばし・しゅういち)

 1954年生まれ、久留米大付設高校(福岡県)、静岡大学人文学部卒業。77年ブリヂストン入社、米子会社ブリヂストン・ファイアストンインク派遣、ブリヂストン副社長、副会長などを経て、2020年3月よりCEO(最高経営責任者)、福岡県出身、67歳。

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