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週刊エコノミスト Online 2021年の経営者

定期券の値段を時間帯別で変える 深沢祐二 JR東日本社長

Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都渋谷区の本社で
Interviewer 藤枝克治(本誌編集長) Photo 武市公孝 東京都渋谷区の本社で

定期券の値段を時間帯別で変える

 Interviewer 藤枝克治(本誌編集長)

―― 新型コロナウイルスの影響で、2021年3月期決算は5350億円の営業赤字を見込んでいます。

深沢 鉄道の利用が激減して、21年3月期の鉄道収入はコロナ禍前の19年3月期の50・6%とほぼ半減しました。輸送人員でみると、首都圏の乗客はおよそ4割減です。新幹線は出張や観光の自粛でさらに大きく落ち込み、21年1~2月は7割減、3月は6割減と大きな打撃を受けました。(2021年の経営者)

―― 鉄道需要はどのくらい戻るとみていますか。

深沢 昨年夏の時点では、今年の秋に9割ぐらい回復すると予想していましたが、緊急事態宣言が再び出たこともあって回復は遅れています。今秋で8割程度、9割まで戻るのは来年秋ごろとみています。

―― 8割で採算はとれますか。

深沢 厳しいです。これまでの鉄道事業はおおむね営業利益率が15%、経費率が85%。経費のうち固定費の割合が大きく、変動費は数%です。広告費や人件費などでコスト削減を進め、8割の需要でも何とか利益が出る構造にしていかねばなりません。

―― 運賃見直しなどの対策は。

深沢 鉄道事業は、混雑のピークに合わせて車両を確保し、駅スタッフや乗務員を確保しています。ピークを下げて利用を分散することでコスト削減が期待できます。コロナ禍で混雑を避けたいという乗客のニーズにも合っています。

 3月から朝のラッシュ時間帯を避ける「オフピーク通勤」のサービスを打ち出し、時差通勤によるポイント還元を始めました。

 オフピークの時間帯を対象として、値段を安くした通勤定期券も発売したいと考えています。一方で、ピーク時は高くして収支のバランスを取ります。国土交通省の認可を経て、できれば来春からでも導入したいと思っています。

―― 終電時間も50年ぶりに繰り上げました。

深沢 首都圏の路線で3月に最終電車の出発時刻を繰り上げました。設備点検など夜間作業に充てる時間を確保し、作業効率化と労働環境を改善するのが目的です。

 運賃も終電も高度成長時代の制度のままだったと思います。朝出勤して、仕事帰りに飲んで夜遅く帰宅する生活はコロナで変わりました。鉄道のサービスがそのままでよいのかということです。

不動産売却で負債縮小

―― コロナ禍で借入金が急増し、20年12月末の有利子負債は4兆2550億円に上ります。米格付け会社は格下げを行いました。

深沢 事業継続のため1年間で負債が1兆円増えました。ただし、資金調達は主に国内のため、格下げで調達コストが上昇したということはありません。今後は所有不動産を売却、流動化するなどして負債を減らす方針です。

 例えば駅前のビルなどが対象です。一方、駅と一体化している不動産の売却は難しいです。所有不動産の売却額は5年間で1000億円くらいを計画しています。

―― 山手線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」の開業から1年たちました。駅周辺も含め総事業費5500億円の大再開発プロジェクトに計画の変更はありませんか。

深沢 高輪ゲートウェイ駅は、AI(人工知能)やロボットを活用して案内や警備、清掃などをする画期的なコンセプトの駅で、最先端の取り組みへの理解が広がっていると思います。再開発は、オフィスを中心にホテル、商業施設、住宅棟などの複数の高層ビルで構成され、24年度に完成予定です。大きな枠組みを変える必要はありませんが、オフィスのあり方は大きく変わっていくでしょう。サテライト型のオフィスなど新しい形を考えていきます。

―― 新幹線の札幌までの延伸工事が進み、時速360キロの営業運転を目指すALFA─X(アルファエックス)も開発しています。需要と採算性は。

深沢 航空路線の羽田─千歳は非常に多くの利用があり、そのうちの何パーセントを新幹線がとれるかがポイントです。羽田─函館で鉄道のシェアが現在は3割です。いまの新幹線を使うと東京─札幌は5時間かかりますが、今後4時間半くらいまでに短縮すれば、それなりに勝負できると思います。ほぼ同じ距離の羽田─博多で新幹線のシェアは1割くらいあるので、それ以上の可能性があると思っています。

―― ストライキなどで強硬姿勢だった最大労働組合「東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)」から、大量に組合員が脱退しました。経営面ではやりやすくなったのでは。

深沢 確かに労働組合との交渉には時間がかかることもあります。しかし、労働組合には社員の意見をまとめる機能があります。組合に所属していない社員が増えることで、社員とのコミュニケーションの取り方が重要になってきます。職場からの意見を聞くことに今まで以上に労力をかけています。

(構成=桑子かつ代・編集部)

横顔

Q これまでの仕事でピンチだったことは

A 国鉄民営化の時に四国や東京で人事担当をしました。辞める職員の再就職先を確保するために自治体や企業を訪問したり、組合との対応に追われるつらい時期でした。二度と同じ状況を作ってはいけないと強く思いました。

Q 「好きな本」は

A 最近読んで印象深かったのはカズオ・イシグロの『クララとお日さま』です。

Q 休日の過ごし方

A テニススクールに行って汗を流しています。


 ■人物略歴

深沢祐二(ふかさわ・ゆうじ)

 1954年生まれ。函館ラ・サール高校、東京大学法学部卒業。78年日本国有鉄道(国鉄)に入社。2006年東日本旅客鉄道(JR東日本)取締役、12年副社長を経て18年から現職。北海道出身。66歳。


事業内容:旅客鉄道、貨物鉄道、流通・サービスなど

本社所在地:東京都渋谷区

設立:1987年4月

資本金:2000億円

従業員数:7万1812人(2020年3月末現在、連結)

業績:(20年3月期、連結)

 売上高:2兆9466億円

 営業利益:3808億円

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